第二話 今世の妹は───前世の妹とは真逆らしい……
「その……おにい、って俺のこと?」
「そう。おにい」
そう言いながら、俺の方に指を指す彼女は、やはり俺の妹ということらしい。
前世の妹とはやはり別人だ。17年近く一緒にいた仲だ、流石にこの子があいつじゃないことはすぐ分かる。呼び方も違うし、何より、あいつはうるさいぐらいに元気だったから。
「そうか……親は?」
ふと、気になったことを口に出した。
前世とは関係の無い妹がいるなら、他にもこの世界に家族がいるはず。つまり、親もいるはずだ。
この戦火の中で生きている可能性は少ないが、ほかの場所にすでに避難している可能性も無きにしも非ずだ。行方だけでも知っておきたい。
「───」
と、思っていたのだが。
妹は質問に答える代わりに、ある方向を指さした。
───俺が目覚めた場所の方向だ。
だが、そっちのほうには、生きている人影はなかった……
そこまで考えて、俺は一人の女性の死体のことを思い出した。
顔がやけどで原形をとどめておらず、辛うじて体つきから女性だということしかわからなかった遺体───あの人が、どうやら今世の母親だったらしい。
「……父さんは?」
母親の最期は分かった。だが、父親のほうはまだ足取りをつかんでいない。
この状況で頼れる大人は父親ぐらいになってしまったのだが……
「───」
彼女は首を横に振った。どうやら父親のほうは行方知れずということだ。
……困った。俺はこの世界のことを何も知らないし、小学校低学年ぐらいに見える妹が何もかも教えてくれるってのは現実的じゃない。
「とりあえず、避難所みたいなとこに行こう。場所わかる?」
ふるふる。首を横に振られた。
いよいよどうしたものか。こういうSFチックな世界観だと、地下シェルターの入り口とかがそこら辺にありそうなもんだが、それらしきものもない。公民館とか、地域の避難所に登録されているであろう場所もわからない。んで、調べることもできない。調べようにも調べるための端末もないのだから。
だが、行く当てがないからってここで道草を食ってる場合でもない。戦いが終わった後だとは考えにくい、ここがまた戦場になる可能性を否定しきれないからだ。
「とりあえず、ここから離れよう」
ここから離れながら、今後の対応を考えよう。まずは安全なところに避難するのが先決だ。
そう思い、妹の手を握り通りに歩き出す。
「変なこと聞いてもいい?」
妹の手を引きながら、気になったことを聞いていく。
正直、あの焼死体を見たばっかりの妹に色々聞くのは心が痛むが、右も左もわからないこの状況では、唯一の情報源の彼女にいろいろ聞くほかない。
「ん」
かまわないということだろう。あんなのを目にした後だが、思いのほか心が強い子のようだ。……いや、違うか。
よく顔を見れば、顔にうっすらと泣いた跡が見える。それでもこれだけしっかり応答できるのは、この子の強さなのだろう。
「いきなりこんなことになって混乱してるみたいで……変なこと聞くかもだけど許して欲しい」
と、改めて前置きして聞きたいことを聞き進めていく。
「ん、なんでも聞いて」
「ありがとう。まずは……名前かな」
「名前……?」
コテンと首を倒し、不思議そうな顔───はしていなかった。首は少し倒していたが、顔は無表情だった。……どうやら今世の妹は表情が乏しいほうらしい。前世でも似たように感情が表に出にくい子がいたから、扱いに困るってわけじゃないが……
前世の妹とは真逆だなと、小さく笑ったのだった。
「?」
「あぁいや、ごめん、なんでもない。それで、名前は?」
妹の名前を忘れるなんて! と言われそうなもんだが、この戦争にいきなり巻き込まれて、混乱してるってことで納得してもらうしかない。実際噓は言ってないし。
「名前……私の名前?」
「そう。君の」
やっぱ怪しいかな。しまったな、記憶喪失ってことにしとけば良かった。そっちのほうが怪しまれずに済んだな。
回答に困るだろうか、色々詮索されるのはめんどくさいな。
「……おぼえてない」
───と、思っていたんだが。
帰ってきた返答は、予想の斜め上を行くものだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。良ければ、ブックマーク・評価・コメント等よろしくお願いします。
次回も読んでいただければ幸いです。
※誤字指摘、アドバイス等随時受け付けております。
22/05/03 02:52 『―――』を『───』に修正しました。
22/05/03 23:10 誤字指摘いただいていたものを適用させていただきました。ありがとうございました。修正前『あの焼死体を見たばっかりの焼死体ぐらいの妹に色々聞くのは心が痛むが』→修正後『あの焼死体を見たばっかりの妹に色々聞くのは心が痛むが』