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第一話 どうやら───死んだらしい……

 近くを通った大きな音に鼓膜を突かれ、目に光を入れる。

「ん……こ、ここは……?」

 確か、つい先ほどまで、()()魔法少女と戦っていたはずだ。それが何で、こんなところで眠ってしまったのだろうか。

 ───頭が痛い。戦いはどうなった?俺は負けたのか……?

 敵対していた魔法少女、『ナギ』との戦いの結末を思い出そうとしながら、まだ朦朧としている頭を抑えながら、体を起こす。

「ッ……臭……」

 朦朧とした頭がかろうじて覚醒し、周りの環境を五感で捉え始めた。

 最初に入ってきた情報は、匂い。それも激臭というにふさわしい臭さだ。

 匂いの発生源は? と、周りを見渡す。

「なっ……!?」

 発生源は、すぐ近くだった。

 俺の手元、左手中指が触れるか触れないかの位置にあった───死体だ。

 顔は火傷が酷くて、元の顔立ちがわからない。だが、辛うじてその体つきから女性であることが窺えた。

 年齢は……大体二十から三十代ぐらいだろうか。所々破れた服から覗く素肌の綺麗さが、この人の若さを表している。───見ちゃいけないところは見ていない。流石に死体をまさぐって覗くほど、人間として落ちぶれちゃあいない。

 風に乗って、この女性の死体がある方向じゃない方からも、この死体が発している臭いが鼻腔を刺激する。

 どうやら、死体はこれだけじゃないらしい。

 顔をタオルのようなもので隠された右腕のない躰やら、腹部にがれきが突き刺さってこと切れている死体。挙句───言葉にするのも憚られるような状態で放置されている小さな肉体だったものまで。あちらこちらに死体があった。百八十度、どこを向いても、誰かしらの死体が放置されている。

 さながら地獄だ。いや、地獄でもこんなに死人が放置されることはないな。

 まさか、俺とナギとの戦いに巻き込まれてこんなことになっているのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 根拠は壊れた建物などの人工物たちだ。

 建物やら車のようなものなどの構造が、日本のものには見えないのだ。

 ───いや、日本っぽくはあるか。何というか、近未来チック? いかにもSF映画に出てきそうな人工物ばかりだ。

 思えば、死体が着ていた服も現代日本にはないようなデザインだった。

「これは……死んだってことかな……」

 体の違和感の正体に感づきながら、小さく溜息を吐いた。

 とりあえず、反射するもので自分の身体を確認するために近くで放置されたままになっている車に歩み寄る。

 ───やっぱりか。

 体の違和感の正体……やはりというか、予想通り縮んでいた。

 それも、某アポトキシン的なのじゃなく、全く別人の顔になっていた。前世では、男の姿ではもっと冴えない感じの21歳だったんだが、今は……小学校高学年ぐらいだろうか……? やはりナギに負けて死んで、転生したということらしい……

 まあ、ナギが俺と敵対していた理由は俺が解消した。俺と戦っていた時は気づいていなかったようだが、多分帰ったら気づくだろう。あいつが暴れる理由がないことに。

だが、気になるといえば気になる。理由がなくなったとはいえ、元々暴れるのが趣味みたいなやつだった。表立って敵対する魔法少女がいなくなったからって増長していないとは限らない。……何とか確認したいが、今はそんなこと言ってる場合じゃないか。

 車に近づいて、気づいたことがもう一つある───この車には運転席がない。つまるところ、この車は自動運転車ということだ。

 さながら、SF映画に出てくる自動運転タクシーといったところか。

 ついでにこの車で、ここら辺から離れようと思っていたのだが無理そうだ。

「おにい」

 なんか、緊急時に手動運転に切り替えるスイッチとかないか?

 流石に戦争に巻き込まれるなんてことは想定してないかもしれないが、災害とかに巻き込まれて、自動運転ができなくなった時用に、手動運転への切り替えスイッチとかメーカー側が用意していると信じたい。

「おにい」

 ───いや、ないかもしれんな。

 皆が車で逃げようとすれば車道は混沌と化すし、そうなると緊急車両が通れないとか、諸々不都合が生じる。

「おにい」

 ならいっそ、緊急時は一般車は使えないようにして、車道は緊急車両が使い、市民は歩いてシェルターに向かってもらったほうが混乱は小さくなるだろう。

「おにい」

 ……これって俺のことかな?前世には確かに妹がいたが、こんな『おにい』なんて呼び方していなかったし、第一、魔法少女同士の戦いに巻き込まれて……

 まさか、あいつも転生してきたとか……? わからない。俺以外にも転生者がいる可能性は否定しきれないが、俺より先に死んだはずの妹が、もう一度俺の妹に生まれるというのは、どこか納得がいかない。

 ……やはり別人だろうか。恐る恐る声がするほうに振り返ると───

「やっとこっち向いた。おにい」

 どこかけだるそうな少女が、こちらを向いていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。良ければ、ブックマーク・評価・コメント等よろしくお願いします。

次回も読んでいただければ幸いです。


※誤字指摘、アドバイス等随時受け付けております。


22/05/03 02:52 『―――』を『───』に修正しました。

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