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自作小説倶楽部 第24冊/2022年上半期(第139-144集)  作者: 自作小説倶楽部
第140集(2022年2月)/季節もの「ウィンター・スポーツ(冬五輪・スキー)」&フリー「心(以心伝心・裏切り)」
8/25

04 らてぃあ 著  ウインター・スポーツ(スキー) 『雪山のロマンス』

あらすじ

過去の事件を追う男に対応する〈わたし〉、そして事件の真相


挿絵(By みてみん)

挿図/ⓒ奄美剣星「ショートカット」

 男はわたしに断りもなく煙草を取り出して火を点けた。思わず顔をしかめそうになるが努めて無表情を維持する。

「わたしの妹のA子がB男と知りあったのは」

 わたしの都合などかまわず男は話し始める。知っているわ。と反発したかったが、うなだれるふりをして顔をそらす。癖のある煙草の臭いが鼻をかすめた。

 わたしの夫のB男とA子の関係は知っていた。もう10年も昔、わたしたちが大学生だったころだ。夫は何も話さなかったが、かつてA子は自慢げに、勝ち誇った瞳で『運命の出会い』を語ってくれた。

「A子はB男を愛していました。しかしB男は他に何人もの女と関係を持ってA子を裏切ったのです。そして悲劇が起こった」

「遭難事件のことですか? A子の死は不幸な事故として処理されたはずですが」

「あの時はそうでした。残念なことに私は海外にいました。急いで帰国したのですが葬式当日にやっと間に合っただけで何もすることが出来ませんでした。でも今年になって遺品の中からこれを見つけたんです」

 男が差し出したのはピンク色の表紙の手帳だった。

「付箋紙のついているところを見てください」

 恐る恐る手帳を開く。

〈あいつは私を裏切った。絶対に許さない〉

 間違いなくA子の文字だった。胸が鉛でも入れられたかのように重く、息が苦しくなった。

「それに山小屋までのルートを書いた地図とスキー旅行の予定のプリントが挟まって居ました」

「どういうことですか?」

「気の強いA子はB男に復讐しようとして返り討ちにあったと私は考えています」

 わたしは男に目を戻した、男の顔からはB男に対する憎しみがにじみ出ている。やはり兄妹なのだと思う。一方的な執着に憎悪。わたしと彼がどれほど苦しめられたことだろう。

 わたしはA子が斜面を滑落する直前まで彼女と一緒に行動していたこと、B男はわたしたちを心配して探しに来てくれたことを説明し、A男の無実を主張した。


 男が立ち去ると私は窓を開けた。新鮮な空気を吸ってやっと落ち着く。B男の浮気まででっち上げてわたしの証言を得ようとしたA子の兄の存在は不愉快だが次は報復してやろうと気力が沸いた。

 あの様子では、わたしとA子が中学の同級生だということには永遠に気付くまい。

 A子と同じ中学に通った2年は私にとって地獄だった。転校し、ようやく這い上がったと思ったら大学で再会してしまった。

「あんたは一生、私の奴隷よ」と耳元で宣言された時の悪夢は長くわたしを苦しめた。

 中学の時と違ったのはA子の執着が、わたしだけでなくB男にも向いたことだ。

 二人を見ているうちに、わたしは不思議なほど冷静になり、A子へ報復する機会をうかがった。そして、サークルのスキー旅行。山小屋の前で二人きりになるとA子はわたしに襲い掛かって来た。無茶苦茶に揉みあって、覆いかぶさって来たA子を渾身の力で蹴り飛ばすと、彼女は一瞬の悲鳴を上げて雪の斜面を滑落していった。

 B男があの現場を目撃したのかどうかわからない。

 後から山小屋にたどり着いた彼はわたしと一晩身を寄せ合って夜を過ごし、朝になると怪我をしたわたしを背負って山を下りてくれた。

 その思い出がわたしの心を温かくしてくれる。


                    了

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