九話「ロールプレイングゲーム」
今日は、なんとなく剣と魔法のファンタジーのゲームな気分だ。
いつものように仕事終わりの酒をぐびりと飲みながらビーフシチュー弁当を温めて食べていると、どことなくそういう気分になった。
日本酒を飲みながらそういう動画を見ているせいだろうか。
「でも仕方ないじゃん。好きなんだから」
さながら自分に言い聞かせるようにそう嘯きながら、またゲームを起動する。
「────」
今日やるのは、アクションRPGゲームだ。
いうまでもなく剣と魔法のファンタジーな世界観を持つゲームであり、その世界を冒険できるものだ。
「やっぱいい雰囲気よなここ」
まず最初に画面から飛び出してきたのは、ゲームの拠点でもある教会の内装だ。
教会とはいうものの、所謂行商人や巡礼者などの旅人に部屋を貸したり旅への加護を施したりして、その代金として彼らから寄付を頂く宿屋のような場所だ。
だから簡素ながらもふかふかのベッドや蝋燭付きの机と椅子がしっかり揃う部屋にもありつけるし、暖炉付きの大広間に行けば他の旅人達と歓談して情報交換もできる。
なんなら、鍛冶道具一式を持ち込んだ鍛冶屋や多くの品物を抱える商人も常駐して割といつでも取引できる有り様だ。
「うまそー」
だがそれよりも特徴的なのは、暖炉の特別な火で作られる暖かいオニオンスープの描写だ。
これを食べる旅人達は、皆こぞって美味しそうな表情を浮かべるものだ。
正直ちょっとこの身も食べたくなってきた。
酒で酔って作るどころじゃないから、代わりに操作してるプレイヤーキャラに食わせるだけに留めたが。
「さて。そろそろ出発させないとな」
それはそれとして、その教会を後にして旅に出る。
このゲームはファンタジーの世界を冒険するものだが、当然ながらそれとは別に目的も提示されている。
現在のプレイヤーキャラの目的は、雪の修道院が賞金を懸けている『赤騎士』の討伐だ。
そのために教会を出発し、どこまでも広大な空と緑が続く草原の道を進んでいるのだ。
「えっと……こっち、だな」
街道を歩き、途中の分かれ道から森の中に入り、森の中にある遺跡を訪れる。
そこが、件の『赤騎士』の根城だ。
「おっと、やっぱり魔物いるなー」
その『赤騎士』の根城に向かう道中で、魔物が出たり盗賊に襲われたりと色々冒険を繰り広げ。
そんな冒険をそこそこ楽しんだりした。
この身が操作するプレイヤーキャラは『黒騎士』をイメージした黒い全身鎧と盾を身に纏い、闇の魔剣を振るう。
そういう闇の魔剣士みたいなロールプレイをしながら、旅を楽しんだのだ。
が、ひとまずここではそれは割愛する。
「────」
森の中の遺跡。
そこに入り込めば、その開けた大部屋に佇む『赤騎士』と目が合う。
それが、ボス『赤騎士』戦の始まりだった。
「──」
ボス敵としての『赤騎士』は、赤い鎧と一振りの大剣を特徴とする大男だ。
その巨躯に相応しい重い一撃と、その赤い鎧に隠した多くのサブウェポンを使いこなす強敵。
そんな強者と、正面から挑むこととなる。
これほど燃えるボス戦はそうあるまい。
「これだよこれ。これがやりたかったんだ俺は」
こちらが操作する『黒騎士』も、禍々しい闇の魔剣を引き抜いて構える。
黒い鎧を隠すかの如く風に揺れるコートの存在も相まって、すごく中二病感あってかっこいい。
思わず魔剣を引き抜くときに「闇よ……」とつぶやいてしまうほどに。
「これだからこのゲームはやめられないんだ。さぁいくぞー」
そうして『黒騎士』と『赤騎士』の決闘が始まる。
闇の魔剣と大剣が互いに交差し、火花と血がまき散らす死闘。
そういう戦いが、一番好きなのだ。
「あ、負けた。ちくしょうめ」
そんな感じで一日が過ぎる。
割といつものことだ。