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八話「ノスタルジック」








今日はいつもと違う道を使った。

夕焼け空が似合う、ノスタルジックな道だ。


そこは田んぼがずっと広がっていて、だからなのか昔懐かしの古民家の類がまばらながらも並んでいる。

中には地元の個人経営の商店もあって、その実たまにお酒とかカップ麺とか買いに行っていたりする。

なんとなくその景色が古き良き田舎の風景を垣間見ているようで、好きなのだ。





「ちょっとだけ、このままドライブしよっかな」



ちょっとした小川と並走するようにある踏切を渡りつつも、アパートがある方ではなく田んぼがまだまだ続く方へと原付を走らせる。

涼しく気持ちいい風を切りつつ、田んぼを赤く染める夕焼け空を見上げる。


実に、いい景色だ。






「おばあちゃん家を思い出すなぁ。あそこの周りも、こんな感じで田んぼと古民家だらけだったもんね」


子供の頃、お盆や正月の度に家族ぐるみで行った田舎を思い出す。

帰省の度の墓参りの際、そこまでの道で田舎特有の田んぼや古民家が並ぶ景色をよく見たものだ。





「何気に近くに学校があるのも一緒なんだよなぁ。ここにしろおばあちゃん家にしろ」


何より思い出深いのは、おばあちゃん家近くの学校のグラウンドを使って凧をあげたこと。

とにかく高くあげて、だから風が強くて凧が持っていかれそうになったことが印象深い。





「まぁお盆・正月の時と違って学生いるからなぁ。見物もほどほどにだな」


だからなんとなく、ここの学校とあそこの学校と重ねて物思いに耽ってしまったわけだが。

今は休みでも何でもなく、帰路についている学生がたくさんいるからおちおち近くで物思いに耽るわけにはいかない。






「今日はもう帰るか。途中の店で酒だけ買って」











いつものようにお風呂と洗濯を済ませた後。

日本酒片手にウナギ弁当食べつつまた動画を見まくった。


今日見た動画は、架空の侍を主人公とした時代劇ゲームのプレイ動画だ。

なんとなく、そういう時代劇っぽいものの気分だったのだ。





「うし、俺もやるか」


なおそのゲームはこの身もきちんと持っている。

だから、どっかしらのタイミングでそのゲームを起動するのも時間の問題だった。









「うん。やっぱりいい景色だ」



さっそくセーブデータをロードすれば、大きな温泉を擁する温泉宿の景色がテレビ画面から飛び出してきた。

温泉からは大量の湯気が湧き出てきて、それが幽玄な霧となって温泉街中に広がっている。


もうすでに温泉の匂いが感じられて、さらに木造宿の木の匂いも想像すればご飯三杯ぐらいいけそうだ。





「そういや温泉とは無縁なんだよなー俺。今度有給とって温泉旅行でもいってやろかな」


主人公の侍が温泉に浸かってまったりしているのを尻目にそうぼやく。

実際にやるかどうかはさておき、夢は広がるというものだ。






「さぁて。のんびり観光しますかー」



ゲームの中の温泉を堪能したら、馬を呼んで宿から出発する。


さすれば風が緑の平原を走り、美しき鳥が空を自由に飛んでいく。

その眺めで視界が癒され、思わず感嘆の息が漏れる。






「って、盗賊がいやがる……斬らなきゃ」



そんな旅の最中、盗賊が襲い掛かってくるから馬から降りて刀で対抗する。

主人公は侍ということもあり、多くの剣術を修めていてとても強い。

だから素早い抜刀術で一気に三人撫で斬りにしたり、敵の剣を刀で受け流して強烈なカウンターを仕掛けたりと、操作していて楽しいアクションができる。

個人的にはタックルで敵を突き飛ばしたり、重い突き攻撃を何回も通して敵の喉元を貫いたりする重量感がある技が小気味良くて大好きだ。






「夜の村も最高だな」



そんな感じで盗賊を返り討ちにしつつ、近くに村が見えてきたからそこに立ち寄ることにする。

特に用事などはないが、旅をしている間に日が暮れてきたから月明かりの景色を楽しみたくなったのだ。



実際、立ち寄ればいい景色を堪能できた。

月明かりと松明の火で淡く照らされたその村は、静かながらも妖しい魅力がある。

虫の鳴き声を聞きながら夜の村を歩くだけでも、十分楽しい。


ぶっちゃけ本当に何もせず戦闘に使う煙玉とか飛び道具とかだけ買ってそのまま村を出たが、それでも十分だった。







「でもやっぱり、この家が一番いいなぁ」



そうしてずっと色々見てきたが、それでも一番なのは主人公の侍の実家だ。

障子越しの陽光に照らされる畳の部屋という景色が、どことなく昔のおばあちゃん家を思い出して、どこか懐かしい気分になれる。


ここだけで、自分の中に眠る日本人の魂が震えて感動する。

おばあちゃん家でひたすらゲームしつつ畳の和室を楽しんでいたあの頃が、昨日のことのように思い返せる。






「いいもんだ。本当に、このゲーム買ってよかったなぁ」


なんなら、この景色の為だけに今もこのゲームを売らずに残しているまである。

それほどまでに、この景色が呼び起すこのノスタルジックな感情がたまらないものなのだ。











「なぁ、あの原付の女の子めっちゃかわいくね?」

「うん。あのヘルメットからちょっと流れているさらさらの髪、いいよね」

「というか、こんな田舎にいたっけ? あんな可愛い娘」

「いるよいるよ。うちのばあちゃんの店にたまに来てるんだって、あの娘」

「なにそれめっちゃ羨ましいんだけど。店の手伝いしてたらあの娘と会えるってマジ?」

「いや、時間が合わないから店の手伝いしか上達しないんだよね……とほほ」








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