六話「雨」
酷い雨だ。
雨合羽を着ているのに、アパートに着くころにはもうびしょびしょだった。
これだから原付は嫌なのだ。
車を買う金も駐車場も何もないから、文句を言うべきではないだろうが。
ちくしょう。
「ただいまー、にゃん助ー」
原付を駐車場に停めて、べたべたの雨合羽を脱いで、原付の中にしまっていた鞄と鍵を取り出して、部屋に帰る。
ちなみに「にゃん助」とはこの間クレーンゲームで手に入れた猫のぬいぐるみの名前だ。
三秒で決めた。
「うおー半日ぶりのもふもふー」
ぱぱっと風呂だけ済ませて、ベッドに転がっていたにゃん助に抱き着いて膝に乗せる。
もうここは自分一人だけの世界だから、自分がおっさんであることは全部忘れる。
もふもふー。
「あぁ、この雨の音よ」
にゃん助をもふもふしながら聞く雨の音は至福だ。
仕事やってる時や原付回している時とは違い、部屋にいる時は雨と無縁でいられるからその音にだけ集中できる。
普段とは違い、そこまで暗い時間じゃないのに外が暗いというのもあってちょっとワクワクする。
「それはそれとして晩飯なんとかしないと」
にゃん助抱きしめたままキッチンの方に行って、冷蔵庫の中を漁る。
今日は雨だったからコンビニにもスーパーにも寄れなかったから、晩飯がないのだ。
だから、予め備蓄していたもので済ませることにする。
もっふり。
「竜田揚げうまうま。酒もうめうめ」
いつかのスーパーで買ってた冷凍の竜田揚げをレンジでチン。
しれっとキッチン下の戸棚にあったパックご飯もレンジでチン。
それとは別に日本酒も冷蔵庫で眠っていたから、それも開ける。
美味い。
もふもふ。
「うまぁい。せつめいむよーうぅ……」
パソコンでガヤガヤ系のゲーム動画見ながら飲む酒は美味い。
今も降り続ける外の雨を他所に、アパートの部屋という秘密基地の中で楽しんでいく。
もっふー。
「あーぅ。今日はめっちゃのんだぞーぅ」
今日はいつにも増して疲れていたせいか、大分酒も飲んだ。
気が付けばグラスは空になっていて、パックご飯や竜田揚げの皿も空っぽ。
あとでかたづけないと。
もふもふ。
「にゃん助ー。お前あったかいぞー。おかげで俺、眠たいぞーぅ……」
でもにゃん助の毛並みがもふもふすぎて、そのまま抱いてベッドの布団に入り込んでしまう。
このもふもふには魔力がある。
その魔力に抗うには、ただのおっさんでは無理というものだ。
もっふり。
「くぅ……」
そういうわけで、電気とかパソコンとか何もかもつけっぱなし放置しっぱなしで寝ることにする。
後片付けは、後でやっとけばいいのだ。
にゃん助もふもふー。