二話「油淋鶏弁当」
トラックドライバーの朝は早い。
三時には起きて、布団の中でうだうだしたり朝飯食ったり歯磨きしたり着替えたりして四時にアパートを出る。
遅くとも五時には倉庫に着いて、伝票見ながらパレットやカゴ車に載ってる重いダンボール達をトラックに積んだりして、だいたい七時ぐらいに出発。
それからだいたい十時間以上かけて配送して、倉庫に戻ってサインもらった伝票を提出し、クタクタになる。
今日もそんな一日だった。
「ちかれた……」
ぶっちゃけ長時間トラックを運転しまくったり、時間に追われて段ボールを抱えながら猛ダッシュしたりしまくったものだから体がボロボロ。
運転の最中に景色を楽しんだりスマホでゲームの音楽とか流したりして気を紛らわせたりしているが、正直酒でも飲まないとやってられない。
だから今日は飲むと決めて、作業着のままその日の酒とツマミを求めてスーパーに入る。
コンビニではないのは、単純に備蓄用の冷凍商品とかをついでに買いだめするためである。
特に深い意味はない。
「冷凍炒飯確保。カップ麺も確保。今日の分のお酒も確保。あとは酒のツマミじゃー」
ちなみに今日食べるものはもう決まっている。
「あった! 油淋鶏弁当!」
このスーパーは油淋鶏弁当が謎に美味い。
だからこのスーパーに立ち寄った時は──毎回というわけではないが──この弁当を買うことにしているのだ。
「にひひ、これで今日も勝つるぜぃ」
そんな感じで、いつものように酒とツマミを確保。
この楽しい時間も、この身の日常の一つなのだ。
◆
アパートに帰ったらまず備蓄用の食べ物を冷蔵庫や戸棚にしまい込んで、それからいつものようにまた風呂と洗濯を済ませる。
そうしたら、買った油淋鶏弁当をレンチンしつつ予め冷やしておいたお酒をグラスに注ぐ。
そのトクトクという音に幸せを感じつつも、レンチンが終わった弁当をレンジから取り出してテーブルに乗せる。
そうしてようやく、お酒と油淋鶏弁当のほろ酔いセットが楽しめるのだ。
「うまー」
早速油淋鶏を食べれば、サクサクとした食感が舌の上で踊る。
実に食べてて小気味良い。
この食感と甘辛いタレが好きで好きで、自分の中ではあのスーパーとこの油淋鶏弁当はセットになってしまっているほどなのだ。
「ぐびー」
油淋鶏を肴にいつもの日本酒を飲みつつ、ノートパソコンを起動する。
この間は酒を飲みながらゲームしたが、今回は適当に動画を見ながら酒を楽しもうと考えたのだ。
「今日は何の動画見ようっかなー?」
いつもの動画サイトを開けば、バーチャルライバーのアーカイブや切り抜きが大量に出てくる。
ここ最近暇さえあればバーチャルライバーがらみの動画を見てしまう程度にはハマっている。
なんならここ最近マジの推しが一人できた。
「お、例の実況シリーズが更新されてら」
だがなんとなく好きなゲーム実況動画の続編が出ていることに気づき、そっちに引き寄せられる。
この動画は実況者が複数人集まってワイワイ騒いでくれるものだから、見ていて楽しいのだ。
酒を飲みながら見れば、もっと楽しい。
「いいねぇ。俺もドンパチしたくなってくるなぁ」
なんなら自分もゲームをやりだして、その動画はラジオ感覚で音声を聞くだけになってしまうこともしばしば。
でも、そういう時間も楽しくたまらない。
「ぷはぁ……酒が美味いなぁ」
そんな感じで、今日も夜が更けていく。
実に楽しい日常なのだ。
◆
「見てみて。あの作業着着てるあの娘、めっちゃ可愛くね?」
「……あれ、あの娘ってあの運送会社の娘だよね?」
「あー……なんか見たことある作業着と思ったら、たまにうちにも納品来てるあの会社のか。……でもオレあの娘が納品しに来たとこ見たことないんだけど?」
「多分あの娘、南の方の配送担当なんだよ。実際南の方の知り合いに、彼女が納品に来るのを楽しみにして商品注文してる奴いるし」
「何それ羨ましい。……オレも南の店の担当だったらなぁ」