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十九話「音楽」










冬は好きだ。

子供の頃初めて雪を見た時の感情か、あるいは正月休みにおばあちゃん家で遊び惚けた過去の思い出のせいか、あの息苦しい冷気と色あせた灰色の景色が嫌いになれない。

特に雪をかぶった山を遠くに見やる、あの壮大で綺麗な風景を見ながらの運転が大好きだ。




「────」


そこへさらに、のんびりとした運転に合う音楽が合わさればもう最強だ。










ここ最近、音楽を聴きながら運転している。

ただの音楽ではない。

音声ソフトのカバー曲だ。



ネットには音声ソフトのカバー曲がたくさんある。

この身のようなオタク向けに、美少女声の音声ソフトの曲がいっぱいある。

そういうのを聞いて運転しているのだ。




今日もずっと音楽を聴けるよう、曲が終われば次の曲が流れるよう設定して運転しているのだ。

冬が近づいてどこか色あせた市場の景色を尻目に、のんびりトラックでドライブするのだ。





「あ、ちょっと待った。この人の曲はちょっと違う」










音楽に限った話ではないが、作品には作った人のセンスや魂が宿っている。

造った人間の性格や経験が、何らかの形で作品に反映されて「味」となる。

世間一般でいうところの「作風」「音楽性」というものだ。


だからまぁ、それぞれの作品が合うかどうかは割と運次第である。





「でもどの人の曲を聴こうかな? なんとなくピンとくるものがないや」



海に面する堤防と田んぼが見えるコンビニに停まり、音楽を探す。


休憩も兼ねてトイレを済ませ、ついでに昼飯として焼きサバのおにぎりも食べて満足したのは余談だ。

ここ最近どうにも焼き魚のおにぎりが身に染みておいしいのだ。




だが「さぁ出発だ」って時に運転のお供となる音楽が見つからないのだ。






「この人も違う。……だからってこっちの気分でもない」


音楽は作る人によって、出来上がるものが変わってくる。

それが運転に合うかどうかは、この身自身の性格や感性だけでなくその時の気分にも左右されてしまう。



そんでもってこの身はかなりの気分屋だ。

乙女心は秋の空とはよくいったもので、その時その時で何がいいかが変わってしまうのである。


この身自身がちゃんと女であることも加味しても、結構ひどいのだ。

いやおっさんなんだけども。





「……やっぱり、この人のカバー曲が一番落ち着くなぁ」











動画サイトにしろ音楽サイトにしろ何にしろ、この身はいわゆる「登録」というものをあんまりしない。

逆に言えば「登録」するものは、並々以上に気に入っていると言っていい。


そんな数少ないお気に入りの一つが、音声ソフトによるカバー曲を専門とするとある人のチャンネルだ。





なんというかこの人が作る曲はほかの人の音声ソフトカバー曲と比べて、なんだか声に温かみや優しさがあり、要は「牧歌的」なのだ。



選曲がだいたいこの身のような二十台に聞き覚えのあるものばかりであり、故に聞いていて親しみや懐かしさがある。

かつしっとりとしたタイプの曲をたくさんカバーしているものだから、のんびり景色を楽しみながらの運転にぴったりなのだ。




この人はこの身の知る限り自分で曲を作っているわけでもないし、殊更に再生数を稼いでいる人というわけでもない。

でも上述の通り「自分の味」というものがしっかりあるから、なんだか「場末にあるいい雰囲気のスナック」感というか「知る人ぞ知る隠れた名店」感がある。


そういう「妙」というものもあってか、ついつい忘れた頃にまたこの人の曲を聴いてしまうのだ。






「しみるなぁ。こういうのがしみる辺り、本当に年なんだな俺……」



この日は、いつもとルートが異なり山の方を走る。


雪かぶりの壮大な山脈を見上げながら、左右に田んぼが広がる広い公道をのんびり走っていく。

この道沿いにある喫茶店と病院に食料を運び込んだら、その次は大きな川の傍を走るから景色には困らない。




だから牧歌的な雰囲気の音楽がとても似合い、この身にしみるのだ。











「あともう少し。それでもう二十六歳か。あっという間の一年だったなぁ」








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