十二話「電車の景色」
学生時代は、よく電車の中から景色を眺めていた。
あの時は、わけもわからないままずっと景色だけ眺めていた。
「懐かしいなぁ」
今日は休日だ。
仕事はお休みだ。
いつもなら引きこもってドンパチゲームをかますところだが、ちょっと南の方に用事があるので電車に乗ることとなった。
切符を買うところとか、ホームの景色とかが、すごく懐かしかった。
そのままホームに来た電車に乗ると、もっと懐かしい気分になった。
「お、あの辺り俺がよく通っているとこじゃん」
だがあの時と違うのは、この窓から見る街並みがぐっと身近になったということ。
実際にトラックで通っている道ばかりだから、あそこにあの店があるとかあの交差点から西のバイパスにいけるなとか、そういうのがわかるようになった。
店の位置や道路の位置関係がわかるようになってから見るこの景色は、一味違って見える。
「昔は全部ちんぷんかんぷんだったのに、この数年ですっかり土地勘がついてきたな俺」
電車の中は学生時代のそれと同じなのに、でも電車の外は同じ景色のようで全然違う世界に見える。
なんというか、すごく不思議な気分だった。
◆
しばらくぼーっと窓際に立って外の景色を眺めたり、スマホでネット小説を漁っていたりしていると。
ふと周りに学生の姿がちらほら見るようになった。
殆どが見ていてつまらない男子ばかりだが、中にはかわいい制服を着た女子高生もいて、そっちは思わず見てしまうのは余談である。
おっさんのサガだからね。
仕方ないね。
「学生、ねぇ」
自分の近くにいる男子高校生たちの会話のノリが、なんだかきゃぴきゃぴしているのが新鮮に感じる。
今話題のゲームがどうこうとか、かわいい女の子がどうこうとか言っているのを聞いていると、少し思うところが出てくる。
「俺も、昔はこんなんだっただろうかね」
当時はこの身も制服を着て、友人と時間が合うことがあればこんな感じで周りを気にせず笑ったりしたのだろう。
それから数年以上も過ぎて色々変わってしまった今にして思えば、それがかなり貴重で眩しいもののように見えるのだ。
学業から配送業へとやることが変わった以外、趣味にしろ舌の好みにしろ色々そのままだというのに、なんでか寂しく思えてしまったのだ。
「俺も老けたな。そりゃおっさんと言われるわけだ」
◆
「なぁなぁあの窓際の小さい娘、うちんとこの生徒会長より可愛くね?」
「おい、声かけてみろよ」
「やだよ。神聖すぎて畏れ多すぎる」
「聖女か何かか?! ……いや、案外そうかも。あの娘の後ろに光が見えて眩しい」
「いったいどこの学生だろ? 制服じゃなくて私服ってことはあそこ、かな? いやでも見た感じ中学生ぐらいだし……」
「いや流石に高校生だろ。確かに小動物みたいに小さいけどさ。…………高校生だよな?」




