魔石、そして神アイテム
冒険者ギルドを後にしてから20分後。
俺は街から少し離れた草原に来た。
見渡す限り魔物はたくさんうろついている。
スライムにウサギ、羊にデカいネズミ。
とにかくここには、魔物の種類がかなり多い。
必要なお金を稼ぐには、こいつらを討伐しないといけないかぁ。
……なんかめんどくせぇ。
少し草原を進めると、かさかさという音が耳に入った。
足取りを止め、しばらく周りを見回す。
すると急に草むらからスライムが飛び出してきた。
ぴょんぴょんとスライムが飛び跳ねている。
まだ俺の存在に気づいてなさそうだ。
よし。
チャンスだ。
鑑定してみよーか。
決めると、頭の中で「鑑定」を言う。
すると目先には半透明な画面が現れ、その画面にはスライムの情報が表示されている。
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ブルー・スライム LV 1
ランク:E
体力:10/10
魔力:10/10
STR1
INT:2
AGI:1
DEX:1
スキル:
【毒唾】【ネバネバ粘液】【再生(弱)】【合体】
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どうやらブルー・スライムと呼ばれている魔物みたい。
俺に言わせればなんかちょっとベーシックなネーミングセンスだと思うけどな。
ランクはE。
スライムは最弱と言われているからそれを想定していた。
それにステータスもそんなに高くはない。
レベルも1だし。
スキルはまあまあ、まさにスライムって感じだな。
1発で仕留めないと《再生》がかなりめんどくさくなるかもしれないけど、それは正直に言って別に問題ではない。
これを言うのもあれなんだけど、こんなもんを倒したら絶対に経験値あんま入らないよな。
まあでも、経験値じゃなくお金が欲しいからいいッスよ、それ。
さすがにスライム相手に対して高級魔法を使わなくてもいいよな。
とりあえず倒してみようか。
確かに取得した魔法の中で、1番弱そうなのは火球、氷雪、そして雷撃の3つだったな。
スライムを倒すには充分な火力があると思うから、とりあえずやってみようか。
まだ俺の存在に気づいていないスライム目掛けて手を伸ばす。
するとしばらく集中すると、体内から少量の魔力を引っ張り出してその魔力を手のひらに流通させる。
やはり、【殲滅の猛火】の時と違ってこの程度の魔力を制御するのが簡単だ。
詠唱する必要がないぐらい簡単だ。
適切な魔力の量を集めたら俺はスライムに狙いを定める。
そして、
(雷撃)
そんなことを頭の中で言うと、手のひらから雷撃が放たれた。
空気を切り裂き、速度を落とさずにスライム目掛けて一直線に飛んでいく。
俺の攻撃に、スライムは気づいたようだが、もう遅い。
ぶやぁ! という断末魔を上げつつ、雷撃に命中されたスライムは黒い霧になって風に沿って消えていく。
そして取り残されたのは………石?
間違いなく、ついさっきほどまでスライムがいたところに、紫色の石が落ちている。
その石に近づいて、俺はしゃがんでそれを手に取る。
「何これ?」
と、そんことを言うと、とりあえず鑑定をすることにした。
【鑑定】
そして石についての情報が目の前にあった。
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魔石
魔石は魔物が死ぬときに落とす物です。
ギルドで交換すると、お金が貰えます。
貰う金額は倒した魔物次第です。
またはポーションの材料にもなり、物を付与するときのその媒体にもなれる。
これはブルースライムの魔石。
値段:1エリス。
タイプ:〈小魂石〉
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なるほど。
色んな使い道があるよな、魔石って。
ってことは物を付与したいときにも魔石を必要としているってわけか。
まあでも、そんなことはどうでもいいや。
この魔石とやらを入手して、いっぱいゲットしたらギルドで買取をする。
それが今の俺の目標だ。
1時間に戻るって言ったが、それは多分無理なんだよなぁ。
こんだけ魔物がいっぱいいるから、倒さないと損はすると思うので。
冒険者試験費用、宿屋の宿泊費、武器の購入費用など、とにかくこの世界でうまく生きていくにはお金が必要だ。
それを考えると、やっぱここにいる魔物を全部狩りたければ、1時間はちょっと足りないよな。
すいません、エレンさん。
嘘をつきました。
でもさ、いいさ。
お金をいっぱい稼いで、冒険者になって、それから依頼を遂行する。
目指すは最強のスローライフ!
そうスローライフを送っている未来の自分を空想しながら俺はもう一度草原を見回す。
それにしても、やっぱり多いなぁ。
まじでどんくらい時間が掛かるのかうまく察することができないけど、ここにボッーと佇んでいたらなんも進まないだろう。
◇
すると6時間後。
魔物の虐殺を始めてからすでに6時間が経ち、空には太陽が地平線の下に沈みつつあった。
最後の魔物を仕留めて、俺は今インベントリーを見ているところだ。
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〈インベントリー〉
【服装】
・村人のシャツ《黒》
・村人のズボン《黒》
・村人のズボン《黒》
【大切なもの】
・世界地図
【料理材料】
・ウサギの生肉X15637
・羊の生肉X13965
・デカいネズミの生肉X10567
【その他のもの】
・魔石 X30000
・ウガギの毛皮 X562
・ウサギの耳X280
・ウサギの前歯X658
・羊の毛皮X15000
・デカイネズミの前歯X10000
・デカいネズミの目玉X15000
・デカいネズミの爪X20000
・スライムのゼリー X20000
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そう言えばまだ村人装備だったな、俺。
いや、そんな事より魔石は30000個を入手したんだ。
1時間が経つと、魔物が復活するようだ。
草原にいる魔物は約5000体。
つまり5000体を1時間毎に倒したら6時間に魔石を30000個入手することができる。
その計算を上手く運用して、俺はひたすら魔物を狩っていた。
これで貰う金額は30000Eになった。
ここにいる魔物はそんなに強くはないので、ブルー・スライムみたいに落とした魔石の値段は1エリスだった。
「そろそろ街に戻ろうか」
それにしても、かなりいい額のお金をゲットできた。
もうここにやることがないよな。
エレンに嘘をついたのが本当に申し訳ないけど、お腹が限界に達したみたい。
街に戻って宿屋を見つけ、食事を取ったら寝るとしましようか。
明日試験を受ければいいでしょ。
それと、ちゃんとエレンさんに謝らないとな。
受験料は15000E。
今俺が持っている金額は30000E。
つまり15000Eを使っても、まだ15000Eが余っているってわけだ。
残りの15000Eを使って宿屋の宿泊費と新しい装備を買うために使おうか。
それは、ちゃんとした服装と、魔法とともに使う武器だ。
どんな武器を使いたいのがまだイマイチわからないけど、できればカッコイイ服装を買いたいなぁ。
まあ、それはそれとして、そろそろ戻ろうか。
そう決めると 、俺は《イマゼン》を目指して、歩き出した……
と、そのときだった──
「ぐああああああ!」
森の方向から、悲鳴が聞こえた。
◇
悲鳴が聞こえたであろう場所が視認できる距離まで近づく。
少し走ると森に入る前の場所に荷馬車がとまっていて近くに狼がいる。
そのあたりから悲鳴が聞こえたのかもしれない。
やはりさっきの悲鳴は狼による襲撃を受けた人間によるもののようだ。
人数は3人だが、一人は怪我をしているようだ。
赤い髪の女の子が左腕を押さえていてそばには大きな剣が落ちている。
悲鳴はこの女の子のものだったのだろうか。
もう一人、剣を持った小柄な女の子が狼と戦っているが、狼は3匹残っていて戦況は芳しくないようだ。
ここから見える限り4匹ほどの狼の死体があるがこれは二人いた時のものも含めてであって一人で3匹を相手にするのは厳しいのだろう。
その後ろでは商人らしき小太りの男が剣を持っているが、小柄の女の子の後ろにある荷馬車らしきものに隠れてようとしている。
馬は無事なようだ。
そう状況を観察する俺であった。
こりゃどうしようかな。
とは言っても、手伝うしかないが、こんな人数だと高級魔法は使えなさそうだ。
下手すれば人間まで巻き込んでしまうから。
とりあえず【鑑定】を発動させ、敵のステータスを見よう。
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森狼 レベル 15
ランク:C
体力: 70/70
魔力: 10/10
STR:20
INT:20
AGI:40
DEX:2
スキル:
【威嚇】【吼える】
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森狼 レベル 15
ランク:C
体力: 70/70
魔力: 10/10
STR:20
INT:20
AGI:40
DEX:2
スキル:
【威嚇】【吼える】
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森狼 レベル 20
ランク:C
体力: 100/100
魔力: 10/10
STR:30
INT:25
AGI:70
DEX:2
スキル:
【威嚇】【吼える】
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なかなか強いな、こいつら。
特に最後の森狼だが、スキルは見るところ、そんな大したものじゃなさそう。
記述欄により、《威嚇》は気の弱い獲物の攻撃力と防御力を下げさせるスキルで、《吼える》は獲物の攻撃力を下げさせつつ自分の攻撃力を上げさせるスキルだ。
どっちも魔法を使う人には効かない。
《吼える》の攻撃力UPがかなりキツイけど、攻撃さえ躱せばうまく対応出来るのだろ。
それはそうと、今すぐなんかしないと、3人が死ぬだろ。
一人は怪我しており、もう一人はかなり疲弊しているように見える。
商人らしき小太りの男は剣を持っているが、その怯えている姿を見ると、戦うのが苦手ということがわかる。
やはりこの人達を助けられるのは、俺だけだ。
森狼の1匹が動き出す。
怪我している赤髪の女の子の喉元目掛けて八重歯をむき出して攻撃してくる。
赤髪の女の子は狼の攻撃を見たが、反応することはできなかった。
自分の運命を受け入れているかのように、彼女はそっと目を閉じた。
「リサ!」
それを見たもう一人の女の子は怪我している女の子の名前を呼んだが、リサと呼ばれる女の子との距離を縮める前にもう1匹の森狼に遮られた。
悔しさで歯を食いしばり、小柄な女の子は剣を構えて攻撃を防いだ。
………今だ!
【アイスの槍】
氷でできた槍を頭の中でイマジンして、赤髪の女の子を襲いかかっている森狼目掛けて手を伸ばすと、槍を放つ。
氷の槍は雷撃と同じ速度で空中を飛び、瞬く間に森狼に命中する。
勢いとともに氷の槍に命中された森狼が吹き飛ばされ、木に衝突する。
その後他の魔物と同じように黒い霧になって消え去って、魔石を落とした。
それを見た商人らしき男と女の子たちは呆気に取られたが、あいつらの様子を気にせず、そのまま次から次へと氷の槍を飛ばさせ、森狼を絶命させる。
それを終え、溜息をする俺。
今日かなりの魔力を使ったなぁ。
まあでも、この人達を助けてよかったわ。
と、そんなことを思うと、踵を返して、歩き出そうとしていた。
が、女の子の呼び声に引き止められた。
「おい! あそこにいる青年!」
女の子は周囲を見回した後、敵がいないのを確認したのかこちらに向かって手を振る。
呼び出されているようだ。
しかたないと俺が荷馬車らしきものに近付くと、小柄な女の子が話しかけてくる。
商人らしき男も荷馬車から出てきたようだ。
怪我をしていた女の子は自分で手当てをしている。
命に別状はなさそうだ。
「助かったよ、援護してくれてありがとう」
女の子がそう言ってくれた。
「いえいえ。ちょうどこの辺にいる魔物を狩るところだったし」
とりあえず真実を言おう。
すると俺の言葉に、女の子は困惑気味に首を傾げる。
「魔物を狩っていた? でもその服装からすると冒険者じゃなさそうに見える。違うか?」
まあ、そりゃそうだよなぁ。
服装は村人装備だもんな。
「いや、冒険者試験を受けようかなと思っていたがお金が足りなくて仕方なく魔石を集めてギルドで買取をすることにしたんだ。冒険者じゃないよ、俺」
「そうか? まあ、どちらにせよ、君はあたしたちの命の恩人だ。受けた恩を返したいからちょっと待っててくれ」
そう言うと、小柄な女の子は振り向き、商人らしき男に話しかける。
「おーいアンズさーん!」
商人らしき男はアンズというようだ。
小柄な女の子と少し話すとこちらに話しかけてくる。
「君が助けてくれたのかね、礼を言うよ。援護してくれてありがとう」
そう言うと、アンズはふかく頭を下げる。
それを見て苦笑する俺。
「いえいえ。頭を上げてください。他の誰でも同じことをやっただろう」
「そうかもしれないが、君が俺らを助けてくれたという事実に変わりはない。感謝」
と、アンズはまた頭を下げると言う。
するとまた頭を上げて、俺を見やる。
「俺の名前はアンズ、見ての通り商人をやっている」
「どうも、俺は楓と言います」
「カエデくんか? 珍しい名前だな」
逆に俺みたいな名前を持っている人を知っていたら魂消るわ。
「それでお礼なんだけど、これ、君にあげる」
そう、アンズは言うと、どこからかカードらしき物を取り出して俺に手渡した。
それを受け取った俺はしばらくそのカードを見る。
カード?
なんでこれを渡したんだろ?
「これは?」
俺が聞くと、アンズは答える。
「それがねぇ、俺のカードだ。そのカードを武器屋や鍛冶屋に持っていきな。冒険者になろうとしてるだろ?君は? その装備じゃあ似合わねぇなぁと思ってるから、そのカードを店長に見せたら武器も服装も、全ての物を半値で買えるようになるぞ」
何この神アイテム!?