龍国の襲来(9)
【龍殺し者】とは、その名の通り、龍を殺す者である。
龍族に有害な武器や技術、魔法などを用いて、龍をあたかも獲物のように狩って狩って、狩りまくったのだ。
特に暗黒時代にて。
サラモンさまが龍族を導いた時。
世界はもうすでに混乱状態にあったが、【龍殺し者】の登場とともに、さらなる混乱に陥ってしまったのだ。
戦争が勃発するまではあまり時間が経過していないというのは言うまでもない。
ただ殺すか殺されるかのちっぽけな世界だった――
「おまえ正気か」
と、目の前のグランを見てルクスは話し掛ける。
「そもそもいったいどっかで、龍族に【龍殺し者】の魔法を教えるヤツを見つけたんだ?」
喉元からせり上がる胆汁を強引に飲み込み、付け足した。
すると弟の促しに、グランはただくすくす嗤っただけだ。
まるでルクスを嬲るかのように。
「どうだ、弟くん? オレは〘進化〙したんだ」
進化っていうかむしろ陥った、と、言いたくなるルクスだったが、黙ってグランの言葉を聞くことにした。
「オレはもはや、オマエが届けぬ存在にランクアップした。この力があればもう怖いモンはない。よくよく考えればいまのオレは、神に匹敵する者となった」
…………うん、正気だ。
と、ルクスは結論づけた。
でも困ったなぁ。
とても難しい状況になったことに変わりはない。
どうやってグランは【龍殺し者】の力を手に入れたのかは知らないのだが、これ以上彼を放置していたらけっこうヤバいことになるに違いない。
仕方ない。
殺すか。
そう決めたルクスは、目を細め、魔力を集め始めた。
するとさっきからくすくす笑っているグランは、弟の急変に気づいたら、笑うのをやめ、冷静になった。
「…………」
「…………」
見つめ合う兄弟。
グランは見た目的にはあんまり変わっていないが、魔力密度が一気に上昇し、雰囲気も一変したことに気づいた。
――とても危険だ。
一方ではルクスは…………まあ、見た目的にも雰囲気的にもあんまり変わっていないが、でもかといって、絶望感に襲われた。
とても龍王らしくなくて、どちらかというと窮鼠みたいな、そんな感じだった。
だって、【龍殺し者】と戦っているもんね。
どうやら龍王でも、恐怖のひとつやふたつがあるようで、そしてその中のひとつは、【龍殺し者】なのだ。
「さて、弟くん。そろそろ始めようか、オレたちの最後の手合わせを」
と、両手を大きく広げて言うグラン。
そしてそんなグランに対してルクスは、
「………………」
ただただ、何も言い返さなかったのだ。
◇
「龍殺し者龍狩り」
と、ルクスが行動するより早く、グランは右手を翳し、魔力を集めて唱える。
すると彼の後ろには、数えたら約七つの光の弾が生まれ、空中に浮かびながらルクスに狙いを定める。
それを見てルクスは魔法発動の速さに呆気に取られつつも筋肉を緊張させ、回避姿勢に入る。
――すると回避姿勢に入ったや否や、グランはルクスに狙いを定めた七つの光の弾を同時に放つ。
放たれた七つの光の弾は空気を切り裂き、凄まじい速さでルクスへと飛んでいく。
当たったら即死だろうな。
そう思ったルクスは背中から龍の翼を顕現し、大きくジャンプすると、翼を一回羽ばたかせて空を飛び始める。
が、七つの光の弾はルクスに狙いを定めた時にか、魔力にもピンポイントしたんだ。
空中で軌道を変えて、さらにルクスを追いかけたのだ。
追跡攻撃魔法か。
と、見て大きく目を見開いたルクスは思ったが、なんとか冷静を保って、空中で回避し続けた。
右、左、上、下。
四方八方から七つの光の弾がルクスを襲いかかるが、ルクスは動じることなく回避し続け、やがて光の弾も消えたのだ。
そうか。
時間制限があるか。
と、ルクスは思って地面にまた足をついているグランに視線を投げる。
ちなみにグランは腕を組みながらこともなげにルクスを見つめているのだ。
「素晴らしかったよ、弟くん。拍手拍手」
そう、グランは楽しげに言った。
「確かにおまえの身体能力、反射神経、適応力などがオレなんかよりも上回ってる。でも今のオレは、おまえよりも魔力のほうが強い」
言って手のひらには、テニスボールと同じ大きさの色とりどりの光の弾を召喚する。
――見かけによらず、その色とりどりの光の弾の中に圧縮された魔力が不安定に変動している。
つまりかというと……?
…………つまりさ、その小さな光の弾は、ビルを数軒破壊させることができる火力を持っているのだ。
やっぱ「龍殺し者|の操るその力は、とても恐ろしかった。
改めて実感したルクスは今日初めて、身の危険を感じたのだ。
「ほら〜 もっと遊ぼうぜ。ようやく、楽しくなってきたから」
そう言ったグランは手に持っている色とりどりの光の弾を掲げ、飛んでいるルクスを目掛けて投げて――――
そして龍と【龍殺し者】化した【はぐれドラゴン】の戦いが続けていたのだ。
――しかし二人はまだ知らない。
【はぐれドラゴン】と龍の間のこの戦争を被った内戦には、もうじき幕が降りるのだ、というのを。




