第五話:門前で
※今回の話から、今までは魔術をただ、○○の魔術と書いていましたが。読みやすさを考えて【○○の魔術】と書くようにしました。
試行錯誤的なものなので、逆に読みづらくなりそうなら直ぐにやめます。
少しでも読者の方が読みやすくなれば嬉しいです。
それでは、
拙い文章ですが暇つぶしに貢献できたら幸い!
「もう学園まであと少しだな…」
コウがぽつりと言葉を漏らす。
あれから特に問題といえる事は起こらず、三人で学園の教師の評判や購買に置いてある物などの他愛もない話をしながら荷馬車は順調に学園へと進んでいった。
「そうだな、やっとお宝をじっくり見ることができるよ」
暴走も落ち着き、普段道理の状態に戻ったロンが言葉を返す。
「しかしアレだな、リーネは何で狙われたのかねぇ」
コウがそう言うと、ロンが驚いたようにコウを見る。
「アレって誰かがやったことだったのか?」
「あぁ、まずドリークはあんな風に群れて行動する魔物じゃないんだよ」
それに、と言葉を続ける。
「距離は大分あったが【遠視の魔術】であの場をずっと見てた奴がいたからな」
「じゃあ、そいつが犯人ってところか」
ロンが顔も知らない犯人に向けて怒りの表情を作る。
そこで今まで聞いているだけであったリーネだが、コウが何気なく言った言葉に呆然と呟く。
「【遠視の魔術】で見られていた…?」
小さな声で呟いたが、コウはしっかりと聞き取りリーネの方を見る。
「本当に見られていたのですか?」
「あぁ、魔力を感じたから【感知の魔術】を展開して確認したから間違いない」
そう答えたコウにリーネは驚愕した。
【遠視の魔術】の優れている点は遠くの物は見られるだけでなく、魔術が展開されているかが感じ取る事が困難な位の微力な魔力しか使わないという点である。
それを感じ取るには、魔力を感じ取る魔術である【感知の魔術】を使用すればいいのだが、
そもそも魔力を感じないという事は魔術が展開されているかにも気づけないというのと同意義なので、普通は【感知の魔術】を展開しようという考えすら浮かばないものである。
これは一人前と言える魔術師のレベルでの話なのだ。
実際にリーネは攻撃系の魔術こそ苦手だが、その他の魔術は学園で上位に入る腕を持っている。
それなのにリーネは気づくことが出来なかったのだ。
それに対してコウはどうだろうか、通常では気づかないような微力な魔力を魔術を展開することなく感じ取ったというのだ。
別に【感知の魔術】を展開しないと魔力自体を全く感じ取る事ができない訳ではない。
むしろ魔術師であるならば魔力を感じ取る事が出来るのは基本的なことである。
しかし、それには個人差がある。
そしてその個人差とは、
(魔力の使用頻度……)
魔力を使えば使うほど術者は魔力に対する理解を高め、魔力が身近になっていき感じ取りやすくなるのである。
経験豊富な魔術師ほど魔力を理解し、魔力を感じ取りやすいのである。
つまり、コウはリーネよりも経験豊富な魔術師であるという事になるわけである。
リーネが驚愕したままでいると、ロンが思い出したようにリーネに声をかける。
「そういえばリーネちゃん、最初の念話の時にどうして俺たちに助けを呼ばなかったの?」
ロンの問いかけを聞いてようやく硬直していたリーネが我に返る。
「そのですね……」
そこでリーネは少し気まずげな表情を作りながらもロンに答える。
「コウがあんなに強いとは知らなかったんですよ」
リーネとしては素直に答えたのだが、ロンの疑問は解消されない。
「それでも普通助けを求めない? もしかしたら戦える奴かもしれないじゃないか」
「それに関しては助けに入る前に言いかけた事の続きになるのだが」
リーネがロンの更なる問いかけに困った顔を見せると、コウが代わりに答える。
「多分コレのせいだな」
そう言って自分とロンが着ているローブの裾を持ち上げて見せる。
「それが?」
それは別段変わったローブではなく、学園の生徒全員が着用を義務づけられている物である。
「まだ分からんか、この縁の青色は次の月の日から二年生になる奴を表している」
「そりゃ知ってるけど…」
「んで、お前さ、今まで俺たちが受けた授業を思い出してみ」
コウの言い様に疑問を覚えつつも素直に思い出すが特に問題があったようには思えなかった。
「戦闘系の授業が受けたことがあったか?」
「……あ!」
クライニアス学園には中等部・高等部があり、中等部では魔力を扱う基礎や基本的な魔術を徹底して教え、高等部の一年生は中等部の頃の復習と応用を学ばせる。
そして高等部の二年生・三年生から専門的な授業を始めるのだ。
そこまでいってようやく戦い方を教える授業をするのである。
「つまり現段階では、このローブを着ているって事は戦闘訓練を受けていないという意味になる」
「それに仮に訓練を受けていなくても戦えそうな位に優秀な方は学園で有名になりますからね」
言葉を引き継いでリーネが答えると、ようやくロンが納得する。
「なるほど〜、それで俺たちが行ってもパニックったりして無駄死にになる可能性とか考えたのか〜」
「別にそこまで言ってませんが……」
ロンの捏造に困った表情を浮かべたリーネであったが、徐々に真面目な表情を浮かべコウに向き合う。
その雰囲気にコウも同じく向き合う。
「先ほど私が言ったように優秀な方は学生の間で有名になります。なのに貴方ほどの方を私は知りませんでした」
最初に自分を守ってくれた障壁だってロンが居るのにも関わらず、コウが展開した魔術だとリーネは確信していた。
それだけにコウは規格外だったのだ。
それ故にリーネは疑問に思った。
何故これほどの人物が学園で知られていないのかと。
「………」
最初コウはリーネの質問は予想していたので適当に答えて誤魔化そうと考えていたが、リーネの顔を見る限り嘘を言ってもばれる気がした。
どうしようかと考えていると、ロンが言いづらそうに口を挟んできた。
「……あの、空気的に言いづらいんけど学園に着いたよ?」
ロンの言葉を聞いて初めて学園の門の前に荷馬車が止まっていることに気づいた。
学園内に入るためにロンが門番に町までの外出を許可されている事を証明する許可証を見せに行く。
学園が保管する禁書や魔具があるので、勝手に出たり入ったり出来ないようになっているのだ。
その為に出る時もそうであるが、特に入る時は許可書が本物であるかを調べるために時間が掛かったりする。
しかし、それは自分の姿を他人の姿に変えることの出来る【写し身の魔術】がある為、仕方がないと言えた。
「まぁ、学園に居ればそのうち俺の事は分かるよ」
そう言って荷馬車を降りるコウ。
「待って下さい! それはどういう事ですか?」
もちろん、それで納得するはずもなくリーネは慌てたようにコウの後を追いながら再度問いかける。
しかし、コウはそれ無視するかのように言葉を続ける。
「それと言い忘れてたけど、俺が魔物を倒したことは内緒な」
これはある意味質問の答えになるのかもしれないな
そう言って困ったように笑いながら答えるコウであったが、コウの言う答えにリーネが辿り着けるはずもなく、リーネは複雑な表情を浮かべることしかできないのであった。
(そりゃ、いきなりこんな言われ方をされたら困惑するよな)
一方、コウもコウでどうすればいいのかと考えていた。
時々同じように聞いてこられた場合は適当な言葉を並べて誤魔化すのであるが、どうしてかリーネに同じ事をしようとは思えなかったのだ。
それは少女が見せた悲しそうな顔が原因なのかもしれなかった。
お互いに黙ったまま微妙な空気の時間が幾分か過ぎ、日が傾き太陽の光の色が夕刻を象徴する色へと変わろうかとした時、場を動かす転機が声を張り上げてやって来た。
「お嬢様あああああ!!」
いきなりの声に二人は驚いたように声の主を捜す。
そして二人は門の方に目を向ける。
そこには何故かボロ雑巾のようになったロンの胸ぐらを掴み引きずりながら、こちらに向かってくるコウ達と同じ縁の青いローブの下に鎧を身に纏った少女の姿があった。
「アヤ!?」
リーネが少女の名前を驚いたように言う。
「お嬢様! ご無事ですか!?」
アヤと呼ばれた少女は近くまで来るとロンを地面に放り、コウを見向きもせずにリーネの体に異常が無いかを確認する。
忙しく動くアヤをコウはじっと観察する。
背は標準より少し高いといった所だろうか。
目尻が少し吊り上がっており、鼻がスラリとしていて全体的にキリっとした印象を受けた。
今は心配のためか表情が固くなっているが普段はクールビューティーといった感じなのかも知れない。
髪型は動きやすさを優先してか長い髪を後ろで結ってあり、いわゆるポニーテールにされていた。
「アヤ、大丈夫だから、その、あまり色んな場所触るのは……」
「いいえ! 少しの怪我が大きな怪我に繋がるのです。それにお嬢様は私に心配掛けまいと痛みを我慢する方なので」
「あぅ、ほ、本当に大丈夫だから……。ひゃ! そこは……」
とりあえず目の前の微笑ましい(?)光景を放っておき、コウはボロボロになったロンに近づく。
「お前何やったんだ?」
「……もうちょい心配してくれても良いと思うんだ」
「いや、お前が女にボコボコにされてる大抵の場合は自業自得だし……」
この男は望遠鏡を使った覗きを考えるように、学園でよく変態行為をしては女の子達を敵に回しているのだ。
今のところは容姿や人柄もあってか、停学などの処分にはなったことはなく、いつも被害者達にボコボコにされるだけで終わっている。
何処でもイケメンは優遇されるのである。
「んで、ホントなにしたよ?」
「いやな、あの子さぁ、なんか門から行きなり出てきてリーネちゃんを見たかって聞くからさ」
そこでロンは言葉を一旦切り、ボロボロで情けない顔を一変させて真剣な表情を見せて言う。
「リーネちゃんの居場所を知りたかったらスリーサイズを教えろって言った」
「……なんで一々真面目な顔したんだ。自業自得すぎて掛ける言葉がねぇよ」
「だってさぁ! めっちゃ好みだったんだもん!」
「理由になってねぇし……」
「俺は必ずアヤちゃんとお近づきになる!」
「リーネはもういいのか……」
思わず額に手を当ててロンの行く末を案じていると、やっとリーネの無事を確認し終えたのかアヤが声を掛けてくる。
「コウ殿、お嬢様から聞きました。 お嬢様を助けていただき誠にありがとうございました」
そう言ってアヤが深々と頭を下げる。
そして何故か頬を赤く染めたリーネも横でまた頭を下げる。
「私からも再びお礼を……。コウ、本日は本当に助けてありがとうございました。」
最初、魔物をコウが倒したことをアヤに話したのかと思ったが、頭を下げる前に一瞬
コウに向けて意味ありげに笑ったので、恐らく倒した事実は話さずに逃げる手助けをした等とアヤに説明したのだろう。
リーネに感心し、こちらも話を合わせることにする。
「いや、大したことはしてないから頭を下げられることじゃないさ」
当たり障りのない返事をしてアヤの認識がどうなっているかを探る。
「いえいえ、無理に戦わずに逃げた事は懸命な判断だったと言えますよ。」
そして運良くすぐに認識の内容が分かる言葉を直ぐに受け、予想が的中したのを確認する。
リーネの気転に思わずニヤリと笑うと、リーネがコウの笑いに気づき同じく笑う。
その二人の姿を見てアヤが驚いたように呟く。
「お嬢様が私以外の方と通じ合うなんて……」
しかし、アヤの驚きはすぐに喜びにかわり本当に嬉しそうにする。
「いやはや、お嬢様を助けて頂いたのがコウ殿で本当に良かった」
そういって微笑むアヤに勢いよくロンが自己主張をする。
「はい! はい! 逃げてきただけということなら俺、大活躍でした!」
微妙にギリギリな言葉を使っているうえに何故か敬語である。
実際は何もしていないのだがアヤに自分をアピールしたいのだろう、アヤの実際とは違う認識を利用して、懸命に手を挙げながら自己主張しようとしるロンにアヤは怪しそうに目を向ける。
「逃げてきただけなら……? まぁいい、しかしお嬢様から貴様の事は聞いていないが?」
コウは「コウ殿」でロンは「貴様」という扱いである。
第一印象がかなり悪かったらしい。
しかし、ロンはそれにめげることなく何とか続ける。
「え、えと。 追って来る魔物を魔術を唱えて撃退したりと大活躍でした!」
な!っとコウに同意を求めてくる。
もはや引っ込みがつかなくなり、思わず嘘をついてしまったようだ。
せめて逃げる際に手綱を握って馬を颯爽と操ったとでも言えばまだ良かったかも知れない。
そしてそれは好感度を上げるどころか逆効果になる。
「……お嬢様は攻撃手段が無かったから、懸命に馬を走らせて魔物とはなんとか距離を離して逃げてきたと言っていたが?」
とたんにロンは真っ青になり慌ててフォローの言葉を言おうとするが、それをアヤは許さず怒りを露わにしてロンに怒鳴りつける。
「他の者が挙げた功績を嘘をついて自らのものにしようとするとは何事か!」
その言葉に、根っからの騎士気質なのかもな、と
コウは完全に人ごとといった感じでアヤに対しての感想を考えていた。
実は逃げた事も嘘だったりするが、ロンはは思わずとはい完全な嘘をついてしまっているので完全に自業自得である。
「お嬢様行きましょう! こんな奴放っておいて! コウ殿、後日お礼に参ります!」
そう言ってリーネの手を掴むと門に向かってズンズンと向かっていってしまう。
「え、あの。コ、コウまた今度です!」
リーネはアヤの急な行動に焦りながらも、捕まれていない残った手を小さく振りながら
門の向こうに消えてゆく。
どうやら一部始終を門番が見ていたのか、手続き無しで入れたようだ。
コウはリーネ達を見送ってから振り返りテンパリまくった結果、哀れな事になったバカの方を見る。
「………」
考えることをやめたのか、完全に停止しており石像のようになっていた。
その様子にコウは面倒そうに頭を掻いて、静かに告げる。
「まぁ、終わったな」
「うぅ……。うぅ……」
その場は後悔の念に押しつぶされながら啜り泣く、悲しい男の泣き声で満たされたのであった。
速めに次の話をあげると言って、はや五日……
速め?
ちょっとした裏話。
実は第四話なのですが読み直したところ、場面が変わらなかったり無駄にシリアスだったりとグダグダな感じなうえ、物語的に第三話→第五話でもいけそうな感じに思えまして、タイトルをおまけや番外編に変えるなどと考えたのですが、迷った結果、一応重要な場面があったりしたので結局そのままに……。 グダグダ、駄目絶対。