第十五話
暇つぶしに貢献できれば幸いです。
(アホなんじゃないだろうか……)
アヤの話を聞き終えたコウは、顔を押さえてただ呆れていた。
話をまとめると、クレイストの件で悩んでいて、そこにやってきたロンに、そそのかされてコウを襲ったということだった。
いきなり襲うという話になる辺り、段階を二段も三段も飛び越えたような話である。
しかし、ロンがそそのかしたということで、コウは残念ながら納得出来てしまった。
それがコウの彼に対する認識と外れていなかったからである。
(しかし、襲われる側の心情を全く、一欠片たりとも顧みてないな)
刃を向けられて身としては堪ったもんじゃないとコウは思った。
「どうしてそうなったのかは謎だが、いきなり斬りかかってきた理由は一先ず理解した。……それで、お前は満足できたのか?」
コウはそう問いかけながらも、現在進行形で何処か納得出来てなさそうに眉根を顰めているアヤを見て、満足していないことは確信していた。というか分かりやす過ぎるくらいである。
ここまで来たら躊躇う必要はないだろう、とコウは言いたいことを促す。
そうすると彼女は言い辛そうにしながらも口を開くのだった。
「その……、一瞬過ぎて何が何だか分からなかったと言いますか……」
そう言って曖昧な言葉を使う彼女だが、要はよく分かんない内に打ち負かされて、意味分からないから納得出来ないということだった。
そんな彼女に対してコウは何か言おうとしたが、それが口から出る前に、気配を感じて背後を振り返る。
突然のコウの行動に驚くアヤ。
確かこの空間に至るための隠し通路があったはずだと、彼女は場にへたり込んだまま思い出す。
暫くすると、木や藪の合間を縫うようにして、こちらへと向かってくる人物が遠目に姿を現した。
その人物は途中途中で枝に服を引っかけたり、剥き出しの木の根や地面から露出した石に躓いて、転びそうになったりしながらも、なんとかコウ達の元へやって来た。
「ふぅ……、やぁ、おはよう二人とも」
笑みを湛えながら、常に好奇心の宿る碧眼をコウ達に向けてやって来たのは、今回の事の発案者であるロンであった。
「お、おはよう」
まさかロンが来るとは思っていなかったのか、アヤは途惑つつも律儀に挨拶を返している。
それに対してロンは満足そうに頷き、それから何も返してこないコウに目を向けた。
コウが顔を合わせるとロンはぎょっと顔を引きつらせる。
「おはよう。珍しくお前がここに来たってことは、自らの行動を悔い改め、覚悟を決めてここに来たんだよな?」
にこやかな笑みをコウは湛えていた。
それは付き合いがそこそこ長いはずのロンが、見たことのないほどに眩しいものであった。
それ故に、ロンはその笑みがただ恐ろしかった。
「そんな覚悟はありません!? あ、あれ? コウさんってば、お、お怒りですか?」
戸惑うロンにコウは笑みを深めてアヤを指差し、
「実行犯」
次いでロンに指を向けると、
「黒幕」
と笑みのまま短く言った。
それを聞いてロンは今気づいたようにアヤを見る。
「そ、そういえばここにいるってことは、アヤちゃん決行したんだね?」
「あ、ああ、失敗したが……」
コウの様子に怯えながらも少し残念そうにアヤは言う。
「いや、成功されても困るんだけどな」
コウは笑みを苦笑に変えながら言う。
この場合、成功とはアヤの一太刀がコウの身に届くことを意味である。
良くても怪我を負うことを、そして、最悪の場合とは何を指すのか言うまでもないだろう。
コウの反応を見て不思議そうに首を傾げた彼女だが、自分の言った言葉にそう言った意味合いがあると理解すると慌てて言葉を重ねようとする。
「ち、違いまして、その、コウ殿を亡き者にしたかったわけでなくて――」
「はい、ストップ」
捲し立てる前にコウは割り込むように言葉を被せてアヤを止める。
「別にお前が俺を殺そうとしたわけではないことは、分かってるから気にしないでいい」
「……うぅ、すみません」
コウはしょぼくれるアヤをじっと見つめ、それからロンへと視線を動かす。
「それで、殴られる準備は出来たな?」
「そんな準備してないから!? 何で俺が殴られないといけないの?」
「アヤをそそのかしたのはお前だろ? 報いを受けろ」
「え? いやいや、だって、おま、気にしないでいいんでしょ?」
「アヤの事は気にしない。だが、お前が企てたことは気にする!」
「理不尽だ!」
「はいはい、いいから天誅、天誅」
素早く近づきながらコウは大きく右手を振りかぶる。
軽い口調とは裏腹に俊敏な動きで接近するコウに、ロンは慌てふためくものの、それは魚が砂漠で水を求めるのと同じくらい無駄に限りなく近いものだった。
「ちょっ、まっ、あだぁ!?」
叫びながら逃げだそうとする前に、コウの右手は正確にロンの肩を捉えていた。
もちろん、罰に留まる手加減されたものである。
「いてぇ……、容赦ないなぁ……」
「ったく、一応こっちは殺されかけたんだから、これで済ませることに感謝しろよな」
殴られた肩を抑えて顔を顰めるロンだが、言ってしまえば殺人未遂をこれで済ませているのだから安いものである。
そんな二人のやりとりを端から見ていたアヤは、ほっとしていた。
流石に責任の一端は自分にもあると理解しているので、ロンが本格的に罰せられるようであれば、止めるか、自分も一緒に罰せられようと思っていたのである。
「別にコウなら襲われてもなんとかなると思ったから提案したんだけどなぁ」
不満そうに言うロンにコウは顔を顰める。
「あのな、人間どんな時でも全力の力が出せるわけじゃないんだぞ? 腹が痛い時もあるし、頭痛が酷い時もある。仮に快調の時は大丈夫でも、不調の時に襲われたら万が一もあるかもしれない。そういう事も考慮しろよ」
「えー、それでもコウがやられるところ、ちょっと想像出来ない」
「おまえな……」
コウは呆れ返り言葉を続けず嘆息する。
そこでコウはこちらを見て一人笑っている人物がいることに気づく。
「アヤは何笑ってんだよ」
「いえ、その、ロンは本当にコウ殿のことを信頼しているのだな、と」
最初、アヤはコウのことを自分と同じく、ロンの護衛のような存在なのかと思っていた。
そうでなければ、貴族の少年と平民の少年が共に過ごすだなんて、あり得ないと思うのが一般的な考え方である。
それが自然なくらいに王国に蔓延る階級差別は根強く存在してしまっている。
しかし、アヤがロンより聞くところによると、二人は学園で出会った友人であるという。
信用と信頼は似ているようで少し違う。
信用は一時の行動で手に入るが、信頼は直ぐには手に入らないものである。
ロンはそんな信頼を確かにコウへと寄せていた。それが何だか微笑ましいとアヤは微笑むのだ。
アヤの言葉を受けたコウとロンは顔を見合わせると、二人は真逆の表情を作った。
「ロンに信頼されてもなぁ……」
「コウは親友だからね! って、ちょおおおお!?」
まさか微妙そうな反応をされるとは思っていなかったのか、愕然とするロンの様子にアヤは綻びるように笑う。
そんなアヤの様子を見て、コウは内心驚いた。
彼女はコウから見てただただ固かった。コウのことを快く思ってなかったが故なのだろうが、余裕のなさそうに見えるのは、コウとは別に理由があるのだと思っていた。
それがどうだ。昨日教室を飛び出してから見ない内に、幾分かではあるが態度が柔らかくなっている。
ロンに胸中を吐露したことで問題解決にならずとも、アヤのわだかまりが少し失せたことが理由なのだが、その場に居合わせなかったコウには知るよしもなかった。
しかし、柔らかくなった理由は恐らくロンが何かしたのだろうとあたりをつけたコウは、心の内でロンを褒めるのだった。
ひとしきり笑うとアヤは何やら覚悟を決めた表情を作ると改まった様子でコウに向き直った。
「コウ殿、私と戦ってください!」
仲むつまじい夫婦がいきなり離縁するかのような、唐突すぎる申し込みだった。
「……やっぱりか」
彼女の申し出は本当に突然なものだったが、実のところコウはこれを予想していた。
コウは隠すことなくため息を漏らす。
何処か不燃焼気味の様子で、納得出来ていないようだった彼女。
彼女はコウの実力を測ると意気込みやってきた。
それにも拘わらず、本人も言っていたとおり、何が起こったのかも分からない内にコウは倒してしまった。
それが不燃焼気味にさせている原因だろう。
目的を果たさない限り、彼女との不仲は続くのだろうかとコウは考える。
「何か納得出来ていなさそうだとは思っていたが、なんだ、まだやるのか?」
コウは全身から面倒くさいから嫌だという気怠そうなオーラを発するが、残念ながらそれは伝わらなかったようで、彼女はまず頭を下げた。
「順番が逆になってしまいましたが、先ほどは背後からなど無礼なことをして、すみませんでした!」
深々と頭を下げながら彼女は言う。まるで背後からじゃなければ無礼ではないかのような言いぐさである。
コウがどこからつっこめば良いのか思案していると、彼女はコウの言葉を待たずに顔を上げた。
その目には強い光が宿っていた。コウは嫌な予感がした。
「それで、何と言えばいいのか、えっと、無礼なことを重ねるようですが、その、背後から襲っても、と言いますか、私は納得したいと言いますか……」
言い辛そうに言葉を何度も濁す彼女に、コウは溜め息一つ吐くと、恐らくそうだろうという意図を拾い上げる。
「なんかよく分からんが、つまり、まだやり足りないんだろ?」
何故分かったのだと目を見開く彼女に、コウは苦笑してばればれだと伝える。
「なんかもう、いろいろあるけど、まぁ、第一にお前の目が猛然と語ってるんだよ。まだ自分はやれる、まだ自分は負けていない、ってな」
「っ!」
言われてからコウの視線から逃れるように慌てて彼女は目を伏せたが、既に見られているのだからその行動は意味を成さない。
まるで恋を知ったばかりの可憐な乙女のように、恥ずかしげに視線を逸らし続ける彼女。
しかし、その目の奥に宿るものが、恋慕の情とはかけ離れたものなのだから手に負えない。
彼女の今更な謝罪を含め、様々をコウは言及するでもなく、ただ静かに見つめ、どんな手段を要すればこの面倒ごとを断ることが出来るのかと考える。
仮に彼女の目的が果たされないとしても、コウからすれば面倒なものは面倒なのである。
そんな思考を断ち切るように割って入って来たのはロンの声だった。
「いいんじゃない? コウはいつも一人で鍛錬しているんだし、たまには誰かとやった方がいい刺激になるんじゃない?」
「ロン?」
訝しげにコウはロンを見つめる。
コウは以前からロンに実力を隠すことに関係なく、無意味に実力をひけらかすことを好まないと伝えている。
必要があれば、ある程度話すことは構わないが、この場でそれは適用されることではない。
それなのに何故話を押し通そうとするのか、とコウは考える。
思えば秘密の場所としたここをアヤに教えたことも、違和感を覚えることだった。
コウのロンに対する評価は、
(女に対する行動力はあれだが、純粋に信用、信頼に関わる事柄に関しては裏切らない、義理人情に厚い奴のはずなんだけどな……)
というものだった。
そんな者が仕返しなどというふざけた理由で、この場所を教えるだろうか。
そうなると、この場所を教えたこと含め、ロンの行動には何か意味があるはずである。
が、こざっぱりとした雰囲気の中に、凛々しさと愛らしさを併せ持つアヤが、絡んでいることを考えるとコウとしては判断に迷うところであった。
普段と同じ、楽しげに微笑むロンにコウは目で訴えかける。
一体どういうつもりなのかと。
対するロンはアヤに視線を固定させたままだったが、一瞬だけコウの方を見ると、ぱちりと片目だけ瞑らせると直ぐにまた彼女の方へと視線を戻した。
所謂ウインクというやつだった。
様にはなっていたが、何処か軽薄な感じは否めないと思うコウである。
「……まぁ、たまにはいいか」
しかし、コウは意図は読み切れないものの、ロンに何か考えがあることだけは確認出来た。
なので、渋々という感じは消えないものの、コウはこの話に乗ることにする。
「本当ですか!?」
了承されて何故か驚くアヤ。
コウの気怠そうな様子から、断れると思っていたようである。
承諾した理由をロンに見出したのか、彼女は立ち上がると今にもスキップでもしそうな勢いで、ロンに駆け寄り、手を取ると普段より幾分か高い声で感謝を伝え始める。
「ロン! 私は貴様の事をあまり好ましく思っていなかったが、それは見当違いの認識だったようだ! あぁ、私は本当に恥ずかしい! 貴様のような善い奴を破廉恥、近づきたくない、気持ち悪い、低俗、軟弱、屑、女の敵、恥知らず、下半身で考える男、精神的に幼い、顔以外取り柄なし、愚か、不徳、単純に嫌い、最低最悪、だと思っていたことを!」
激情に駆られやすい彼女らしい怒濤の勢いと共に言葉は一息で紡がれた。
いくつか意味が被っているがここでそれを指摘するのは野暮というものだろう。
彼女の感謝(?)の言葉を聞いて、第一に「長いな」、第二に「酷いな」とコウは思った。
ロンも今までどう思われていたのかを知って、泣く半歩手前まで追い込まれているようである。
もう軽く馬鹿と言葉を投げかけただけで、彼は号泣するのではないだろうか。
「ロン、ありがとう!」
と、コウが『攻撃的感謝』という言葉を脳内で生み出した辺りで、前触れなく彼女はロンに抱きついた。肩に頭を乗せるような形である。
歓喜極まり身体全体で喜びを表現した結果のようだ。残念ながらそこに恋愛的な色はないようである。
「…………」
女の子が大好きでいつも可愛い子がいれば、十回に十四回は目で追うロン(彼は一度目を離した後、探しに行くことがある)。
その可愛い女の子から自発的に抱きついてきたというこの状況で、彼は抱き返すどころか手を動かすこともしなかった。
彼女の結われても肩口に届く、流れるように艶やかな長い黒髪に、顔を半分埋めながら彼はただ黙っている。
ロン・スティニア。
貴族の象徴たる金髪碧眼を有し、三大貴族の一角、【技】のスティニア家の子息。
常に好奇心を宿した瞳が印象的な笑みを浮かべる陽気な彼は、優れていると断言出来る見た目である。
家柄、容姿、そして気さくな性格から、間違いなく人に好かれる人物だ。
しかし、普段から女の子を追いかけるその行動から、異性を惹くという話はない。
むしろ、異性はひく。
「本当に、ありがとう!」
一度身を離すが、それでも恋仲であればキスでもするのではないか、という距離で、はち切れんばかりの笑みを浮かべてアヤは言う。
「……ひゃい」
それに対し、ロンは舌が回らずひっくり返ったような変な声で答えた。
ロン・スティニア。
女性が放っておかないような身分、容姿、性格を持つものの、彼は行動の所為で、女の子と友人関係以上になったことがなかった。
つまりは、女の子と良い雰囲気になったこともなかった。
つまりは、女の子と肩を寄せ合ってドキドキしたこともなかった。
つまりは、女の子にご飯を食べさせてもらったこともなかった。
つまりは、女の子と手を繋いだこともなかった。
つまりは―――女の子から、しかも、とびっきりに可愛い、自分にとって好みど真ん中の可愛い女の子に、抱きしめられるなんて、未知の領域、想像を絶する世界、予想可能な物事の遙か先にあるものだった。
故に、彼の脳を凍結させるなんて、朝飯前どころか、一昨昨日の朝飯前くらいに簡単なことだった。
「それじゃあ、コウ殿、煩わしいかもしれませんが、お願いします!」
そう言いながら、彼女は未練なくロンから身を離すとコウに向き直った。
彼女の後ろではもう不治の病を抱えた病人なんじゃないかと思うくらいに、顔を真っ赤にさせてロンがよろよろとへたり込んでいる。
その様子だと抱きつかれたのは予想外のことのようである。
先ほどの女の子が絡んでいるからこの場所を教えたりしたという線は消してもよさそうだとコウは判断した。
「お前、ロンから近づくと過敏に反応するくせに自分からならいいのか? ……いや、気づいていない、というか意識してないのか。所謂、天然ってやつか?」
「はい? どうかしましたか?」
普段はそっち系に関しては嫌がるどころか拒絶のレベルなのだが、その彼女だからこそ、先ほどの行動の破壊力は暴虐的な程だった。
「アヤ、恐ろしいやつ!」
「えぇ!? 何がですか? すみません、先ほど何て言ったのか聞こえなくて……」
「いや、気にしないでくれ」
今度このネタで二人を弄ろうと心の中でそっと思うコウである。
「そうですか……。それで、その……」
最初は怪訝そうにするものの、彼女は次を促す。
それほどに『次』が現在の彼女の中で大きいものなのだろう。
微塵もロンに気が向いていない様子なので、コウは彼を哀れに思った。
それと同時に、最早、実力を確かめる云々よりも、単純に模擬戦とはいえ一戦交えること自体に、意識が向いてしまっている彼女にコウは苦笑してしまう。
本当に感情で動く少女である。
「あぁ、じゃあ、準備したらやるか。そろそろ外は日が昇ろうとする頃だろうしな」
まだまだ時間はあるとは言えども、今日は普通に授業がある日なので、残された時間は多くない。
アヤがリーネに朝からコウを襲いに行くことを、話しているとは思えなかったので、リーネが起きる前に部屋に戻す必要もあるだろう。
コウ達がいるのはある程度開けた場所なので、わざわざ移動することはない。
ここで言う準備とは未だにその場でへたり込むロンを、邪魔にならないところへ移動させることだった。
時間が限られていることもあり、コウは直ぐに行動を起こし、小袋の置いてある木の元へロンを引き摺り運ぶ。
その際に「甘い匂い」「柔らかいのが」などとコウが運んだものからぶつぶつと聞こえたが、今は何を言っても反応は期待できないだろうと考えて、コウは特に言葉を掛けなかった。
ロンを運び終えてコウが振り向けば、アヤは既に距離置いて立って間合いを作っていた。
コウは何も言わずに腰にある剣を僅かだけ抜き、それを確認すると鞘に戻す。
そうしてから誰に言われるまでもなく、コウは黙ったまま彼女と向かい合う位置まで移動する。
そうすることで少し開けた場、コウが勝手に広場と呼ぶここが試合の場と化した。
コウが感情の高ぶりもなく静かに告げる。
「ルールは細かく決めたりしない。互いに真剣だから今回は寸止め。互いに後遺症が残るような攻撃は禁止。もちろん、これは攻撃する側もという意味も含む。時間は止めるべき時間になったら俺が止める。異論は?」
「ありません!」
コウとは正反対に、昂揚を隠せない様子でアヤが返事する。
それを聞いてコウは「そうか」と呟き。そして、そのまま言葉を続け、
「では、始め」
と、短く、当事者であるにも関わらず、まるで立会人であるかのように気負いなく告げる。
「いきます!」
この宣言するかのように声を大にするアヤの声の方が、開始を告げるものに相応しいくらいだった。
こうして、理性で動く少年と感情で動く少女は、分からないことを分かろうとするために、意味の見えないものに意味を見出すために、意思を刃に乗せて交えることになったのだった。
十五話と十六話は上、下の関係にあります。
一つの話を読みやすくするために二つに分けております。
なので、今後分かりやすくするようにご指摘があればタイトルを変更することがあるかもしれません。
その時はご了承して頂ければ幸いです。