第十一話
※第十三話「中途半端な学生と揺れる騎士」の改訂話になると思います。
今回も所謂フラグ回となりました。
好い加減盛り上がりのある場面を持ってきたいのですが、改訂中とのこともあって中々話を上手く持って行けないでいます。
単純に私の執筆力不足というのは否めませんが……。
中途半端な内容になっていますが、試験やレポートなどがある上に、劇的に執筆速度が上がるということも期待できないので、切りが良いところで投稿させて頂きました。
拙い文章ですが、暇つぶしに貢献出来れば幸いです。
喫茶店での話し合い。
リーネが初めてコウとの友情を感じられた後も話し合い自体は続いたが、細かい決めごと、やり取りはあったものの、コウとリーネの両者に関する新たな話は出てこなかった。
互いに配慮や遠慮など様々が入り交じり、踏み込んだことを聞かなかったのが原因である。
最終的に、少し取り決めをした後は、ただの雑談へと話は移り変わったのだった。
そのことにアヤが不満そうであった。それがコウの印象に残っている。
細かい決めごと、やりとりの中で、コウ達は互いに開示出来ることを可能な限り示していった。
その中で、アヤがリーネの護衛役であることが、コウとロンに改めて告げられた。
故に、護衛の任があるアヤは、きっちりと話合うことなく終わったことに、不満があったのだろうとコウは考えている。
護衛であるのなら不安要素を少しでもなくそうと言うのは当たり前の話だろう。
話せることが少なく、話せないことの方が多い状況はアヤに不満を抱かせるには十分であった。
結局、最終的にコウが結論を無理矢理つけて話を終わらせたくらいである。
結論とは以下の通りだ。
自分とリーネは人に言えない事情がある。
お互いに事情に関して、一切を他言無用とする。
自分とリーネは友人同士である。
長々と話していたわりには、これだけのことである。
コウのこの簡潔なまとめに三人の反応はと言うと、雑談に変わった辺りから会話に加わったロンは、途中から取り戻した元気と共に了解の意を伝えた。
そして、コウが友人だと明言したことから、 リーネは目を輝かせて頷き、アヤは不承不承といった様子で頷いた。
アヤの態度にコウは心の内で苦笑いを浮かべた。
コウとしては、リーネのことに関して聞き出そうとしていないのだから、こちらのことばかり隅々まで聞きだそうとするのは、フェアじゃないだろうと思っているのだ。
なので、アヤが何か不満の声を上げれば、コウは少し言い聞かせるつもりでいた。
しかし、この場でアヤが言い出すことはなかった。自分の考えは直ぐに口にするタイプかと思いきや、リーネが嬉しそうに頷くのを見て、無理矢理飲み込んだようなのである。
そのことをコウは意外に思いながら、リーネとアヤの関係が一時的なものでない、少なくとも依頼者と傭兵という金銭だけで結びつくような、薄い関係ではないのだろうと察するのだった。
コウのまとめが話の締めとなり、その日は解散し、各、男子寮、女子寮へ向かったのだ。
そして、そんな釣り合っているのかも分からない均衡を、無理矢理保つような日々が一週間続いた日のことだった。
「以上で解散。今日が最終日なので、書類は時間厳守でしっかりと提出するように」
二年A組担任教師、ミシェル・フィナーレルは言い終えると、それ以上の言葉を発することなく教室を颯爽と出て行った。
ミシェルが教室から完全に出たことを確認した生徒達は、ようやく放課後らしい喧噪を生み出し始めるのだった。
そんな生徒達の中には、当然このクラスに在籍するコウ達の姿もあった。
「確か二十時までだったよな?」
鞄から一枚の紙を取り出すと、コウは両隣にいる友人達へと話しかける。
「はい、そうですね。二十時までに教務課へ提出です」
「コウはもう説明会の方はいいのか?」
コウの左隣に座るリーネが取り出した用紙に注目しながら答え、それに続くようにロンがコウに訊ねる。
アヤは先日コウを責めるようなことをしてしまったからか、目を向けるだけで何も言わない。
説明会というのは、授業のことを対象としたものである。
高等部二年生からは生徒が自分たちで時間割を作るクライニアス学園では、流石に授業名だけで内容を全て知るのは無理だろうと、必須科目以外の授業の説明会を設けているのだ。
この一週間の間、生徒達は取りあえず仮の時間割を組んで、授業時間内や放課後に説明会に参加して、時間割を確定させていくというわけである。
ロンの問いかけは、そういった経緯から出たものだ。
「あー、まぁ、とりあえず適当にいろいろ回ったし、大丈夫だろう」
「そっか。俺は全然授業が被らないから、一度も授業一緒に回らなかったからなぁ」
少し残念そうにそう言ったロン。
彼はカラクリで動く道具を集めることが趣味であることから分かるとおり、見て回った授業は、ほぼ魔導具や魔装具に関するものばかりだった。
故に、この一週間の間、ロンを除く三人は何度か見る授業一緒だったりしたことがあったが、ロンは食事の時以外ほとんど別行動だったのである。
「目指すものが違うと、授業は全く変わってしまいますからね」
項垂れるロンを見て、クスクスと笑いながらそういうリーネ。
彼女は魔術、特に戦闘魔術に重点を置いた履修をするのかと思いきや、むしろ戦闘魔術は補助的に取るかのような少なさだった。
では、何に重点を置いて履修したのかと言うと、驚いたことに治癒魔術と支援魔術を主としていた。
何故、それが驚いたことなのか。
それは、この二つの魔術は使い手が限られるものだからだ。
生物に秘められた魔力を世界に溢れるマナと混ぜ合わせ、万物を操作する魔術という技術。
それだけでも才が問われるのだと言うのに、この二つはその中でも更に扱うことが出来る者が少ないのだ。
どちらか片方を扱えれば凄いことである。
具体的に言うと、どちらか片方を扱えるのが、魔力を扱える百人の中に一人いればいい方だ。
両方を扱えるとなると相性などの問題もあって、単純な計算だけではなくなるが、更に確立はぐっと下がる。両方なら、千人に一人にまでになるだろう。
もしも王国の騎士団を訊ねれば、面接などを受ける必要はあるが、特別おかしな所がないなら直ぐに採用。大変重宝な存在として大切にされる。といえば、それだけでいかに待遇が良くなるか分かるだろうか。
そんな希有の才をリーネは持っていた。
「しっかし、リーネちゃんが治癒と支援を使えるとはねぇ」
ロンがこんな風に驚いてみせるのは数えただけでも五度目である。しかし、それがしつこいと思わないくらい珍しいものなのだ。
クライニアス学園では当然、治癒魔術や支援魔術を教える授業も存在するが、元々扱えるものが限られているので、履修出来る生徒はかなり少ないのだ。授業の参加資格に適性のあるなしがあるのである。
そういったことから、治癒魔術や支援魔術を扱えるのは選ばれた者、と言えてしまうだろう。
言われる度に恐縮したような反応を見せていたリーネだが、流石に何度も同じ人物に言われれば慣れるのか、謙虚な姿勢を保ちながら自然な態度でロンに答える。
「ただ運が良かっただけですよ。でも、この力を授かったことには本当に感謝しています」
眼を細め、遠くを見つめてリーネは言う。
その姿から平坦な道を歩んできたわけではないことが感じられた。
実際に、彼女はコウ達が知る中でも支援魔術によって事なきを得ているのだ。
言うまでもなくドリークに襲われた時のことである。
あの場面で彼女は杖に火を灯してドリークたちに牽制する以外にも、実は支援魔術を行っていたのだ。
それは支援魔術の代表とも言える身体強化である。
彼女は走力上昇と体力増強の効果のある二つの魔術を自分に施すことで、一般的な成人男性が走る速度で走り続けるドリークたちから長時間逃げ続ける事が出来たのだ。
そして、コウ達に出会うに至ったのだ。
支援魔術を扱えたからこそ、彼女がこの場にいるのだと言っても過言ではないだろう。
「よくよく考えれば、爬虫類に追われていた時に足捻ったみたいだけど、学園に着く頃にはその様子もなかったしな」
更に、リーネは治癒魔術も行っていた。
あの日、気に止めたことを思い出しながらコウは言う。
学園の前に着いた時、アヤが出てきたかと思えば、リーネの体に異常がないか簡単な身体検査をしていた。
その時に、何の問題もなく済んでいるのだから、その時点で既に怪我は治っていたのだ。
それは間違いなく、治癒魔術で治していたのだろう。
「あれ、そういえば、なんであの時アヤちゃんはリーネちゃんをまさぐったの?」
「まさぐっ……!?」
ロンがぽろりと言葉を零すと今まで沈黙を保っていたアヤが、途端に語尾を高くしながら反応する。
「いや、だってさぁー。アヤちゃんはリーネちゃんが怪我とか自分で治せること知ってたんでしょ? なら、怪我の心配とかおかしくない?」
「そ、それでも普通は心配する! それに、いくらお嬢様が治癒魔術を使えても、治せる怪我に限度はある。 あと、別にまさぐった訳じゃ……」
何故か顔を赤くしながら、途中から聞き取れない程度に呟き続けるアヤ。
そんな彼女にコウは「治癒魔術で直ぐに治せない怪我だったら、歩くことも困難だろ」と思ったが、現在軽口も許されそうにない仲なので、言わないでおく。
「んで、アヤちゃんは武術……というか剣術の授業を中心に履修するんだよね?」
ロンは自分の発言がアヤにどのような作用を及ぼしたのか、気づいかないまま無邪気に訊ねてた。
「ま、まさぐったわけじゃ!!」
「へ?」
「い、いや、何でもない! ん、んん! そうだな、まぁ、大体そうだ」
アヤが何やらやらかしていたが、誤魔化しつつ何とか答えた。
しかし、答えた後に顔を赤くしたまま俯いているのだから、誤魔化し切れていないような気がしないでもない。
そんなアヤの態度にロンは不思議そうにしていたが、自分の中で適当に納得したのか、それに対して特に触れることはなかった。
何だかんだこの雑談は長引いている。気づけば教室にいるのはコウ達だけになっていた。
「それでコウは?」
「ん?」
「履修する授業」
流れ的に、とロンがコウに聞いたその時だった。
それまで恥ずかしげに顔を俯かせていたアヤが、はっとした表情で顔を上げると眉根を寄せた。それはアヤが何か不満などを抱いた時表情だと、コウはこの一週間で知っていた。
アヤは何度かコウと授業を一緒に回っているので(アヤは遠回しに嫌がったが、それに気づかないリーネに一緒にさせられた)コウがどんな風に授業を取るのか朧気に理解しているのだろう。
自分が履修する授業の内容を聞けば、すかさず何かを言ってくるであろうとコウは思ったが、ここで不自然に会話を切るのもおかしな話だと判断する。
なので、コウは内心のことなど噯にも出さず、自然な姿のままロンと話し続ける。
「ロンは薄々気づいていると思うが、武術と攻撃魔術の両方を取る」
言いながらコウは自分の時間割が書かれた用紙を見せる。必須科目以外は見事に武術と攻撃魔術に二分割されていた。
それを見て、やはりと言うべきかアヤが顔を顰める。
ロンはコウが言うように気づいていたようで、納得の様子を見せ、リーネは何の疑問もなく受け入れた様子である。
しかし、ここではアヤの反応こそが普通なのだ。
いくら授業を自由に選択していくことが出来るといえ、体は一つで時間は有限なのだ。学べる授業の数は限られてくるし、学ぶ内容だって詰め込めばいいというわけではない。
名が挙げられるほどの強さを誇る者達は、皆一つの分野を極め、その段階に至るのには長い月日を掛けている者達ばかりだ。
希に短い年数の鍛錬で頭角を現す、所謂天才と呼ばれる存在もいることもいるが、それでも武術と魔術の両方を極めるに至ったものはいない。
この世界において、武術と魔術の両方を極めた戦士なんてものは、御伽噺に出てくる架空の英雄であると、力を磨くのであれば一番始めに悟るべきことなのだ。
一つを極めるには何十年も時間を必要とするのに、複数の力を求めようとするのは、自分を過信する夢見がちな愚か者とされるのが一般的である。
故に、ここからアヤがコウに言うことは、一般常識から来るものである。
「私は実際にコウ殿の戦い振りを見たわけではありませんが、お嬢様から強いということはお聞きしています。それに、相手に気づかせない特殊な魔術展開の技法にはとても驚かされました。……しかし、それでも、その選択はどうなのでしょう?」
ここで話の内容を察したコウは周りの気配を探るために、一瞬だけ意識をこの場ではなく、他へ向けたのだがそれに誰も気づかない。
アヤは続ける。
「いかに強いと言っても人には限界があります。何も私はコウ殿が弱いのだと言っているつもりはありません。ですが、強さも伸ばし方を間違えれば成長は歪に止まり、中途半端なものに終わってしまいます。それは余りにも勿体ないことです」
感情的になりやすいアヤにしては珍しく、一般論に基づいた理性的な見解だとコウは思った。少し見直したくらいである。
アヤが感情的になるのはリーネが絡んだ時などだけなのかも知れない。そう、コウはアヤに対する評価を修正する。
少なくとも戦いに関することにおいては、アヤは真摯な態度を見せている。
「私は限界があると言いましたが、それは両方を極めるのであればという意味です。世の中には武術を極限まで磨き抜き、最強の魔物とされるドラゴンでさえ単身で倒す猛者もいるそうです」
その話は割と有名な話である。
アヤが何を言いたいのかは明白だろう。
「つまり、武術、魔術の両方を学ぶのは無駄だからやめろと?」
コウがそう言うと、アヤは小さく肯定の頷きを見せてから言葉を付け足す。
「何も、どちらかを選んで、もう片方を全て切り捨てた方がいいと言うわけではありません。補助的に一つ二つ授業を取ればいいじゃないですか」
アヤの言うことは他の生徒達もよくやることだ。
例えば、剣術を主に履修する生徒は、武器を失った時のために素手での格闘術の基礎を学べる授業を履修する。
攻撃魔術を主とする生徒も、敵に近づかれ、詠唱が出来ない時の為に、護身程度の術を学ぶ。
リーネの時間割も治癒魔術、支援魔術の二つを主にしているが、これに関しては特殊な事例である。
使い手が限られるだけあって、研究も攻撃魔術に比べれば進んでおらず、学ぶことは多くないとは言わないが、研究の進んでいる攻撃魔術に比べれば少ない。
それに、治癒魔術、支援魔術と攻撃魔術の根本は変わらないので、武術と魔術を学ぶよりは効率が良いということもあった。
リーネは近接戦闘の術を学ぶ授業までは流石に取れていないが、彼女が主として学ぶもののことを考えればそれは仕方がないと言えた。
リーネの事は別にすれば、要は度合いなのだ。
一つのことに重きを置いて、他を補助的に学ぶことは無駄ではなく、むしろ戦いの場へと歩んで行くのであれば、それは必要な事と言えるだろう。
その考え方はコウにも理解出来るものだ。
「なるほど、アヤが言うことは尤もだ」
「では……!」
「しかし、悪いがこの時間割は変更できない」
説得に成功したのだと思ったアヤは久々にコウに対して明るい表情を向けたが、続けられた言葉に直ぐさま顔を曇らせる。
コウは先ほどアヤが言ったことは、コウのためを思ってのことだと理解していた。
だからこそ、繋げるようにコウは直ぐさま言葉を続ける。
「別に我を通して、アヤの言うことを否定するわけじゃないんだ。気を悪くしたなら謝る。だけど、俺がこんな時間割を作った理由を聞いてくれないか?」
そう言われてしまえば、アヤは反論を挟むわけにもいかず、どうしてなのかと目で問いかける。
「先ず、思い出して欲しい。この学園が世間にどういう場所として認知されているか」
「各方面の専門家を生み出すことで有名……だよな?」
質問に答えるような形でロンが返す。コウはそれに頷いた。
「そうだ。それで、その理由は――」
「選択授業という体制で行われる特殊な指導方法、ですよね?」
コウとロンのやり取りを見て、真似るようにリーネが笑顔で答えた。
コウは面食らったように目を二回ほど瞬かせたが、直ぐに微笑を浮かべた。
「そう、それによって生徒は鍛えられ、最低でもその分野で働くのに問題ない程度になる。そして、俺にとって、それが問題だ」
一体それの何が問題なのだというように、困惑の表情を浮かべるロンとアヤの二人。
その中でリーネだけは理解の色を示した。
「あ、なるほど。確かにコウとっては宜しくないですね」
「どゆこと?」
唯一理解した様子のリーネにロンが問う。
リーネは簡潔に答えた。
「コウの事情を考えれば、簡単な話ですよ。コウという"生徒"は強くなってはいけないんです」
それを聞いてようやく二人は理解した。
詳しい事情などは明かされていないが、実力を隠しているコウ。
そんな彼にとって、実力向上が凄まじいクライニアス学園の特色は、むしろ邪魔なものだったのだ。
「しかし、それなら体術か魔術のどちらかだけを取って、その中で最低を目指せばいいのでは?」
アヤが疑問の声をあげる。
それに対して答えは用意されていたのか、コウは迷う素振りを見せない。
「俺もそれは考えた。だけど、これは依頼者からの受け売りなんだが、『何かを隠すのであれば、それを覆うほどの強い印象を与えるのが一番』なんだとさ」
つまり、隠し事をばれないようにするには、その隠し事に目を向けられないのが一番ということである。
確かに、中途半端な結果を生み出すだろう武術と魔術の両方を極めんとするのは、伸び代の悪さを演出するのには持ってこいだろう。
コウの履修の仕方は依頼者からの指示でもあったわけなのだ。
「でも、それだと、変に目立つ事になるんじゃないですか?」
リーネが指摘する。
確かに、このまま用紙を提出すれば、コウは間違いなく御伽噺の戦士を目指す夢見がちな少年となる。
そうなればリーネの言うとおり、生徒の間でコウは悪い意味で有名になるのは避けられないだろう。
しかし、コウはそれを受けても表情を変えない。
「まぁ、そういう意味で有名にはなるだろうけど……。悪い意味で目立つという点では既に手遅れだしな」
「あー」
それは誰の声だったか、言われてみると思い当たる点があった。
成績最下位、教師に対する不遜な態度、ロンと騒いでいること――――
「って、それって、俺も悪目立ちしてるってことになるんじゃ?」
「え?」
「え?」
コウが不思議そうに見ると、意味が分からないとロンが見返す。
そうしてから、コウが気まずげに視線を逸らした。
「……知らない方が幸せな事ってあるよな。悪い」
「ちょっ、マジなの?」
始業式でのことは忘れたのか、何故か自覚のないロン。
「まぁ、そんなわけで俺の時間割はこれで確定なんだよ」
さらりとロンを流してコウがそうまとめた。
抗議の声すら流されているロンを哀れに思いリーネが苦笑を浮かべている。
コウは真っ直ぐにアヤを見つめる。
「納得して貰えないか?」
「……」
否定的だったアヤだが説明を受けてみると、言われてみれば悪い手ではないかもしれないと思えた。
そもそもアヤがコウの時間割に対して口を出したのは、折角の学ぶ機会を不意にするようなことが、不真面目な理由からではないかと思ったからだ。もちろん、純粋に学ぶ機会を逃すのは勿体ないとも思っている。
その理由が例の事情から来るものなら、これ以上何か言うのは良くないとアヤは思った。
コウが事情の内容を話さないことは不満ではあるが、リーネ側に立つ自分も話していないのだから、そこら辺はお互い様ではないか。一週間という期間は、アヤにそう考えられる程度に、冷静さを取り戻させるには十分だったようである。
アヤが余計な口出しをして悪かったと謝罪を言って、コウと少しでも歩み寄ろうと思いかけたその時だった。
「コウ・クラーシスはいるか!?」
まるで、アヤの思いを遮るかのようなタイミングで、不躾な、それこそ遠慮など欠片もない声が、コウ達しかいない教室に響く。
声の主を求めて教室の入り口へと視線を集めたコウ達はそれぞれ違う反応を示した。
呆れ、苛立ち、不快、怯え。
どれが誰かはあえて記さないでおく。
突然教室にやってきた声の主は四人の顔を確認すると、にやりと嫌な予感しかしない意地の悪そうな笑みを浮かべるのだった。
読者様方へ
今回、リーネの才能に関して情報を開示しました。
お恥ずかしい話ですが、感想にて読者様より、
「リーネが第二話でリーネが足を捻って、引き摺るようにしていたのに、第五話でアヤがリーネに怪我がないか確認しているやり取りで、その点が出てこないのは不自然ではないか」
というご指摘を受けました。
今回の話でその疑問を解消出来ればと思っています。
設定としてちゃんと用意してあったのに、完全に後付けのようになってしまい、悔しさと恥じる気持ちでいっぱいです。
自分の拙さを改めて思い知りました。
また、同じく感想にて、魔術に関して表記が見づらいというご指摘を頂きました。
こちらの件に関しては、改訂前の話にて「魔術の表記に関してはこれで固定する」と表記していながら、私自身、見づらいと感じていたので、これを良い機会だと思って変えさせて頂こうと思っております。
度々変えてしまうことで、読み手の皆様にご不便と不快な気持ちを与えてしまうことを謝罪させて頂きます。
申し訳ありません。
今回の話の中で、リーネの扱う魔術の件にて、説明の中に身体強化などがありますが、これは普通の文章、魔術の表記云々とは別だとお考え下さい。
変更後の表記に関してですが、活動報告や前書きでお知らせは致しますが、告知などせずにいきなり変えると思います。
何卒、ご理解のほどよろしくお願い致します。