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第二十話:フィフス森林

 拙い文章ですが暇つぶしに貢献出来たら幸い。

 時折、広がる草花を風が撫でつける事により姿を見せるウィールス平原。

 時刻は太陽が没する為に地平線へと向かい始めた―――つまるところお昼過ぎ。

 平原の簡易に舗装された凸凹道を走る馬車にコウ達の姿があった。


 「あ、見えてきましたよ」


 今回の馬車は、コウとロンが以前利用していた荷馬車とは違い、しっかりと人が乗ることが想定されているもので、天蓋付きで両側には窓とドアのついている大きな箱のような形になっている。


 リーネが窓の外を見ながらの呟きに、釣られるようにコウも窓の外を見た。

 遠目だが緑と茶色の壁、森と平原の境界線が存在していた。


 「あれがフィフス森林か…」


 クライニアス学園を出て北西に向かった先に待つのは、広範囲にわたり草木が繁茂し、多種多様の生物が生息する“フィフス森林”だ。

 木が疎らなものを疎林、密集したものを密林というが、フィフス森林は疎林に分類されている。

 秒単位で大きくなり続ける境界線をぼんやりと眺めていると、馬車の前方側にある小さな窓が開き、ロンが顔を覗かせた。


 「もうすぐ着くぞ~」


 「ん、了解。アヤは無事か?」


 「なんだその発言……。俺が何もしなくてもアヤちゃんの方から積極的に手を握って…あだだだだだ」


 ロンが消える。正確には痛みで体を仰け反らせ、馬車の内側から見えない位置に動いたようだ。

 窓は小さく、御者側の首より上のしか見えないので、何が起こっているのかは分からないが、アヤが何かしたという事はコウとリーネは考えるまでもなく理解した。


 「私が握っているのは手首だが?」


 痛みを訴えている声だけ聞こえるロンに変わって、内側から見えるのはアヤの笑顔。

 しかし、声が笑っていない。


 「ごめんなさい!! 調子に乗りました!!」


 それでやっとロンの声が止まった。


 「まったく、勝手なことを言って……」


 困ったように言うアヤをじっと見ながらリーネが口を開いた。


 「アヤの方から手を握ったの?」


 「ぅえ!? お、お嬢様!! ですから手ではなく、こうやって手首であって」


 「だだだだっ! 千切れるぅ!! 俺の取れちゃうー!!」


 再びロンの心からの叫び声が聞こえてくる。


 「そう、アヤの方から……」


 あくまで『アヤの方から』という事を強調するリーネに、アヤは狼狽えながら弁明する。


 「そ、それは……! この男が私の、その…さり気なく触ろうとしてくるから仕方なく…」


 「酔っぱらいかよ」


 ポツリとコウは呟いたが、壁越しで、しかもまだ叫び続けているロンの耳には届かない。


 「と、とにかく、もうすぐ着きますからね!?」


 これ以上の答弁は不利だと判断したのか、アヤは強引に会話を切り上げて窓を勢いよく閉めてしまった。

 それと同時にロンの叫びも聞こえなくなる。

 これはロンが沈黙したのではなく、馬車が優れた防音機能を有しているからだ。

 有名であるクライニアス学園の馬車は、時に重鎮を乗せることもあるので全てが一級品なのだ。

 秘密裏にすべき会話が漏れないように施された防音機能を始め、耐久度、機動性、どれもが申し分ない。

 故に、ロンが現在進行形で絞められていたとしても、窓やドアを締め切れば、馬車の中は無音に近い状態だ。


 「……妹に意地悪する姉って感じだったわ」


 リーネとアヤのやり取りを見て、コウはそう評した。

 それをリーネは否定せずに、むしろ嬉しそうに答えた。


 「アヤにはいつも助けられてばかりですけど、私も妹みたいに思ってるところがありますからね」


 主人と従者の関係らしい二人は姉妹のような仲。

 この関係の成り立ちを聞けば、過去について触れることになる。

 そうなれば、今も話されていない二人の秘密にも触れることになるので、コウは意図して話を変えた。


 「ロンとアヤも最近仲いいよな」


 「そうですね。アヤもロンさんの事を嫌いって言いながら、何だかんだで言うほど嫌ってないと思います」


 少し強引だったが話題を変えられた事に安心しながら、コウはアヤの心境の変化について考える。


 「それに、親しさの表れなのか俺の事は“コウ殿”でロンは呼び捨てだもんな」


 丁寧さを言えば“殿”がついてる方だろうが、呼び捨ての方が気安く、親しみがあるような気がした。


 「……私もコウの事は呼び捨てですよ」


 最初は本当に嫌いだったから呼び捨てだったぽいけど、最近は親しみがあるような気がするなどと、考えているとリーネが小さな声で呟いた。


 「それはアレだろ? 初めて会った日にお互いに呼び捨てで良いみたいな事を言わなかったけか?」


 「そ、それはコウだけで、私の方は……」


 慌ててリーネが言おうとしたが、あいにく声が小さく、それに気づかなかったコウが言葉を被せてしまう。


 「アヤも『お嬢様を呼び捨てなら私も!』って言われたからだしな。俺の方に深い意味はないはず」


 「……もう良いです」


 珍しく拗ねた様子のリーネに、首を傾げるコウだったが、それを問いただす前に馬車がゆるやかに停車した。

 どうやらフィフス森林の入り口前に到着したらしい。


 「着いたみたいだな。行こうぜ」


 「……はい」


 急に元気のなくったリーネを促しながら、馬車から出て森の方を見ると、手前にある木の下にミシェル・フィナーリルが腕組みして立っていた。


 我らが担任教師の姿を確認し、コウは学園から二時間もかかるこの場所に来た理由をぼんやりと思い出すのだった。












 「総合実習?」


 食後のコーヒーを啜りながらコウは聞き返す。


 ここは学園内を住所とする店の一つ、喫茶店。

 何度もここを利用しているコウ達だが、この店の名前は知らない。

 他の店にはしっかりと店名があるのにも関わらず、この喫茶店には看板もないし、学園の案内にも“喫茶店”と表記されているので生徒の誰も知らないのだ。

 しかし、学園内には喫茶店は、ここしかないので誰も困らない。案外、“喫茶店”というのがこの店の名前ではないかというのが、生徒達の中では有力な一説だ。


 今はお昼時。喫茶店は学食からあぶれた生徒達で賑わっていた。


 「学園の行事の一つで学園外の場所に行き、各実習ごとに毎回用意されている課題をクリアする、というものらしいです」


 「中等部までにあった遠足みたいな感じかな?」


 ロンが遠足と例え、それにリーネとアヤが微妙そうに苦笑する。


 「始業式の時に説明があったと思うんですが……」


 リーネがそう言うと、コウとロンは互いに顔を見合わせて、どちらも記憶にないことを示し合わせる。

 そこでコウは始業式に参加した記憶自体が無いことに気がついた。


 「あー、俺たち始業式に遅れて行った上に、ロンが騒いだせいで退場されたんだったな」


 「……そう言えばロンが騒いでましたね」


 途端にアヤがロンに冷たい目を向ける。


 「バッチリ聞こえてたのね……」


 始業式という無言が当たり前の場で自分の名前が叫ばれれば、誰だって良い思いなんてしないだろう。

 全校生徒がアヤの事を知っているとは限らないが、それでもリーネの件でそこそこ目立っているアヤなのだから、心当たりがあった生徒もけっこういたはずだ。


 「だからアヤちゃんは俺に冷たいのか……」


 「そうだな、アレ“も”私が冷たくする理由なのかもな」


 「あ、あはは、まるで、たくさんあるみたいな言い方だね」


 「………」


 冷笑を浮かべるだけでアヤは何も答えない。

 それがどういう意味なのか、ロンは沈黙が痛みになる事と同時に理解したのだった。


 「それで? その総合実習がどうしたんだ?」


 二人のことは放っておき、コウはリーネに聞いた。


 「それが来週の“金の日”と“土の日”のどちらかにあるんです」


 リーネも二人を横目で苦笑しつつ、コウに答える。


 実施日を二日に分け、生徒を消化するらしい。クラス約五十人、四~六人で班分けして約十班出来るので、実習の内容によっては一日では終わらないのだろう。


 金の日が自分たちの実習日でなかったら、その日は休みになり、土の日に実習を受ける事となる。逆もまた然りだ。

 週末近くに行うのは、太陽の日が休日になるので、実習で疲れた体を休められるようにという配慮だろう。


 「私たちのクラスはフィフス森林で行われるそうです」


 「クラスごとに場所が違うのか……。遠足とは違うんだから、何かあるんだろ?」


 さっきロンの例えに微妙そうな顔をしたのだから、遠足みたいに娯楽目的ではないだろう。

 コウの推測は外れておらず、リーネもそれを肯定した。


 「フィフス森林は大人しい動物が多いそうですが、魔物も生息するそうです」


 「魔物か……」


 動物と魔物。

 この二種の生物はこの世界に同時存在していた。

 諸説は様々あるが、魔物は動物が進化の過程で、魔力を多く持つことに特化して進化してきたものだと言われている。

 全ての生物は魔力を量の多少はあれど、絶対に持っている。

 魔量とは生命力と言っても言い換えることも出来る。

 魔力を多く持つ魔物は、動物に比べて生命力が高く、傷を負っても治りが早かったり、病気になりづらく環境に適応しやすいのだ。


 これは人間にも言える事だった。

 魔術を使えない者達でも、魔力は必ず持っている。

 しかし、絶対量が圧倒的に足りないので魔術を扱うことが出来ないのだ。

 これが魔術を扱うには血統や才能が必要と言われる理由の一つだ。


 魔力を多く持つ者は魔物同様、生命力が高く、傷の治りが早く、病気になりづらい。

 その事から、多く持つ者=優れた者という考えが生まれ、多く持つ者の下に持たぬ者達が集まり、それが後々貴族と平民という階層が生まれる起因となった。


 このような背景から貴族達には選民意識が芽生え、平民を見下すようになり、現在では身分差別へと繋がっている。


 「魔物と言っても、生徒でも倒すことが出来る程度ですけどね」


 リーネはそう言うが、他の生徒からしてみれば初の実戦になるはずだ。

 学園側としても慎重な対応を心がけるはずだ。

 警備体制が優れていて危険のないはずのクライニアス学園だが、授業には危険がいっぱいでは話にならない。


 「ま、危険が伴わない戦闘訓練だけじゃ無駄に等しいからな」


 演習では強くても実戦では弱いなんて話にならない。

 そんな当たり前の事が生徒に定着しないようにするには、今回のように実習を行うのは悪い話ではなかった。

 そんな風にコウが思っていると、リーネが真剣な表情を作っていることに気づく。見ればアヤも同様だった。

 コウは気を利かせて手を動かす。


 騒がしい周りの音が全て消え失せた。


 「!?」


 突然の事にコウ以外の三人が驚愕する。


 「気にするな。周りからは俺たちの事を別に気にしないから」


 「……お前の謎の魔術展開には慣れてるが、突然やるのは驚くからやめてくれ」


 アヤに飽きられ、すっかり黙り込んでいたロンだがこれには呆れたように言う。


 「善処する」


 コウはそう短く言うと、目でリーネを促す。

驚きで固まっていたリーネだが、事態を把握すると頷き、先ほど言おうとしていたことを口にした。


 「今度の総合実習ですが、恐らく私を狙う人達がまた来ると思うんです」


 「学園にいる時は手を出してこない訳だから、自然と狙って来るわな」


 リーネの言ったことをコウは肯定する。


 「それで、私たちとグループ登録している二人を巻き込まれてしまうわけで」


 「……俺たちも命を狙われるかもしれないけど、本当に良いのかって事か?」


 リーネは首を縦に振った。アヤを見れば少し緊張しているようだ。

 

 学園内で友達をやってる分には危険はない。

 しかし、今度の総合実習では今まで無かった危険が伴ってくる。

 自分たちと関わる事に覚悟があるのか、それを今聞かれている。


 つまり、これは最終確認なのだ。


 固唾を飲んでコウ達の返事を待つリーネとアヤ。

 これ以上何か言うことはないようだ。


 「………はぁ」


 リーネ達の言う事を理解し、コウは深く溜め息をついた。


 「?」


 溜め息の意味を理解出来ず、リーネが呆然とする。

 そんなリーネにコウが言い放った言葉は極めて短い。


 「くどい」


 「……え」


 「何を言うのかと思えばそんな事か」


 「そんな事って……!」


 コウの言い様に驚くリーネだが、それに構わずコウは続ける。


 「お前が何度も聞いても答えは全部一緒なんだよ。だから、くどいって言うわせてもらう」


 「で、でも私はいろんな事を隠しているのは知ってますよね? それなのに何で断言出来ちゃうんですか?」


 「それだって何か事情があるんだろ?」


 「それは……」


 明らかな狼狽は肯定となる。

 それを確認してコウは傷ついたような表情を作ってリーネに言う。


 「それとも、リーネは俺を信用出来ないのか……」


 「あ…」


 そこでようやくリーネは気づいた。

 こうやって何度も聞くことは、コウの実力を信頼出来ないと言っている事になるのだと。


 「そうだよな、もしかしたら死ぬかもしれない奴なんていたら邪魔だよな」


 慌ててリーネは否定する。


 「そ、そんなことありません! コウは凄い人です!!」


 「じゃ、もうこんな事言わないよな?」


 「…ッ! は、はい!!」


 コウは元気よく返事をするリーネに頷き、ロンを促す。


 「お前は?」


 言ってからロンが白い目を向けている事に気づく。


 「なんだよ?」


 「……お前は詐欺師の才能があると思う」


 互いにしか聞こえない声量でロンが言う。

 リーネがコウに寄せる信頼を利用し、納得させるのはどうなのか。そんな意味が込められている事に気づいているが、言われた本人は素知らぬふりだ。


 ロンはなんだかなぁー、と思いながらもアヤを真っ直ぐ見ながら自分の返事を伝える。


 「君の隣が俺の居場所だ」


 「そうか、貴様はグループ登録から除名するのか」


 「……けっこう本気で言ってるんだけどなぁ」


 どうやらドキリとさせるには、まだまだ時間が必要らしい。

 ロンが仲間に入れて下さいと懇願し、四人での参加が決定したのだった。








 「コウ? どうかしたのですか?」


 「いや、何でもない。行こうぜ」


 見れば既にミシェルの下にロンとアヤがいた。……ロンが腕を押さえているが気にしないでおく。

 四人揃わないと点呼をしない。とミシェルなら言いそうなので走るほどではない距離を急ぎ足で向かう。


 「揃ったな」


 予想通りというか、コウとリーネが並んだ時点でようやく名簿に書き込んでいる。


 「一応確認だが今回は四人で参加、という事で間違いないな?」


 「はい、間違いないです」


 「そうか、それでは今回の実習内容を改めて説明する」


 内容自体は“木の日”のホームルームで一度説明を受けていたが、再度説明するのが原則なのかもしれない。


 「まずこれを渡そう」


 そう言ってミシェルは本などに挟む栞のような紙片を渡してくる。

 コウは手渡された紙片の裏を見たりと調べてみるが、特に何も書かれておらず、見た目は白いただの紙に見える。

 しかし、直ぐに気がつくことがあった。


 「その札に魔力が込められているのが分かるな?」


 「はい」


 確かにただの白い紙に見える手元の紙片には、微力ながら魔力が確認できた。


 「森にそれと同じ物が三枚別々の箇所に配置してある」


 「……それらを探しだし、ここに持ってくるのが今回の課題ですか?」


 隣に立っていたリーネも紙片の魔力を確認して、ミシェルに問うた。


 「察しが良いな。その“魔力の札”が全部で三枚あれば、貴様ら四人とも今回の実習はクリアとなる」


 一人三枚ではなく、一班三枚あれば良いらしい。

 あまり札を用意してないのか、ただ単に合理的に無駄をなくしたのかは分からないが、コウはシンプルで良いと思った。


 「時間制限は三時間。貴様らが最後の班だが、後から来る班がないからといって時間の延長などはない、という事を覚えておくように」


 それとこれも持って行くように、と革袋渡される。中身は後で確認する事にした。


 かなり朝早くの時間から、実習の準備などの為にフィフス森林に訪れているはずのミシェルだが、疲れなど一切見せない様子でコウ達に告げた。


 「それでは現時刻を以て総合実習を始める」


 ミシェルの言葉を合図として、コウ達は足を踏み出した。













 『―――対象が森に進入するのを確認』


 遠くからコウ達を監視する者がいた。

 その者は魔術で言葉を飛ばすと、自らもまた、森へと入って行く。


 その存在に気づいた者はまだ誰もいない……。






 ※後書きはお暇な方だけが見ることを推奨いたします。


 一週間に一話ペース。

 間に合いませんでした……。

 心の何処かで僅かながら期待して下さっていた方がいたら、謝罪させていただきます。


 すみませんでした。


 やっぱり、一話の執筆時間が5~7時間というのは遅すぎるのでしょうね……。

 精進、いたします。


 4月までには30話目到達を密かに目論む うましか でした。





 ……現時点で既に自信がないのは内緒です。



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