第十六話:中途半端な学生と揺れる騎士と その4
拙い文章ですが暇つぶしに貢献できたら幸い。
「……………ってば」
「ロンめ……これで何もなかったら、ボロ雑巾の方が綺麗に見える存在にしてやる……」
「アヤ!!」
耳元で割と大きな声でリーネがアヤを呼ぶ。
「え……」
アヤは辺りを見渡す。
後ろには閉じた城内への扉があり、目の前には様々な種類の木々や大きさ様々に埋もれている岩などが存在する裏庭が広がっていた。
「もう、やっと気づいてくれた」
困り顔のリーネを見て、自分がずっと呼ばれていたことに気づく。
「も、申し訳ございません! どうかなさいましたか!?」
「どうかなさったのはアヤの方でしょ~。どうしたの? ぼんやりとして」
「い、いえ、何でもないです」
昨日の事を思い出していて、ぼさっとしていたなどと言うのを恥ずかしいと思い言葉を濁す。
「本当に大丈夫? 体調が悪いとか……」
「本当に何でもないです! ただ、少しぼんやりしてただけです」
言葉を濁したことでリーネが逆に心配してしまい慌てて答える。
「確かに見た感じ無理はしてなさそうだけど……」
体調を気遣ってくれるリーネの優しさに感謝しながら、本当に大丈夫だと伝える。それでようやくリーネは安心したようだった。
「それよりもお嬢様」
「うん? どうしたの?」
リーネが不思議そうに顔を傾げる。
人形のように端整なリーネのその動作はとても可愛らしく、同姓のアヤでも見惚れそうになるが、それよりも言いたいことがあった。
「……何故ここにいらっしゃるのですか?」
確かに前日の夜にリーネには早朝に裏庭へと向かう事を指輪を見せながら教えたし、警備員に捕まる危険性を考えて一人で向かう事も同時に伝えた。
その時リーネは心配しながらも了承してくれたはずだった。
それなのに何故かリーネは一緒に来ていた。
正確には一緒に来たというか、先ほど廊下で驚かされて後ろにいたことに気づき、距離的に戻るのが微妙な場所だったので仕方なく共に進んできたという事なのだが……。
「なんだか楽しそうだったから、ついて来ちゃった!」
「………」
指輪に付与されている【魔術=認識阻害】の構成式を見て真似、アヤの後をついてきたらしい。自分の能力をこんなことで使って欲しくなかった思ったアヤだった。
しかし、楽しそうに微笑むリーネを見て、何か言おうかと思ったが先ほど廊下で思った事と同じ理由でやはり怒る気持ちが沸いてこなかった。
(ここ最近のお嬢様は本当に楽しそうだ)
コウ達と出会ってから約一週間。
その短い期間の間にリーネは劇的とも言えるほど変わった。いや、元に戻れたとも言えるかもしれない。
アヤが知る昔のリーネは本当によく笑う子供だった。
その場にいるだけで場が和むような可愛らしい笑顔を見せる子供だった。
しかし、ある事を切っ掛けに笑う事が減っていき、学園に入り例の噂などが取り巻くようになるとリーネは殆ど笑わなくなった。
笑えなくなったと言っても良いかもしれない。
アヤが頑張って笑わせようとしても、何処か悲しそうな笑みしか見せなかった。
(あぁ、そうか……)
そこまで考えてアヤは理解した。
どうしてコウに反発してしまったのかを。
(私は悔しかったのかもしれない)
最近のリーネが心から笑うようになったのは、コウと話しをするようになってからだ。
コウと出会ってからリーネは本当の笑顔を思い出したかのように、子供の頃の綺麗で可愛らしい笑顔を見せてくれるようになった。
自分が頑張ってもリーネが悲しそうな笑みしか浮かべてくれなかった理由をアヤは知っていた。
別にリーネが自分を嫌っているわけではない。それは自分の自惚れでなく自然にそう思えた。
むしろ、好いていてくれるからこそ、リーネを守る為に傷ついていくアヤを見ていられなかったのだろう。
そんなリーネの笑顔を取り戻したコウに自分は悔しいと思っている。
アヤは自らが導き出した答えが間違っていない事を頭でなく心で理解した。
(だから、コウ殿は弱いのではないか想像して苛立ってしまったのか……)
我ながら自分勝手だとアヤは自嘲する。
「アヤ? どうしたの?」
何も言ってこないアヤを不思議に思ったのか、リーネが顔を覗いてくる。
「………何でもありません。行きましょう」
この場所にどんな答えが待っているかは分からない。
とりあえずはロンの言葉を信じてアヤはリーネと共に裏庭の奥へと向かう事にしたのだった。
しかし、しばらく進んでいくが何も発見できない。
ここの裏庭は四方を壁に囲まれているという閉鎖的な空間なので、そんなに広くない場所だとリーネとアヤは思っていた。
だが、実際に裏庭を進んでいくと結構広さがあり、唯一の出入り口である城内への扉が好き放題に生息している草木に遮られて見えなくなってしまった。
まるで森の中を進んでいるかのようだった。
「一体何があるんだ……」
思わずアヤが呟く。
アヤは苛つき始めていた。昨日のロンの態度を思い出すと、自分はからかわれているのでは? という考えが頭をよぎり始めたのだ。
ちぐはぐに言葉を誤魔化し、遠回しな説明しか寄越さない。
ここに何もないかもしれないという考えにいたるには十分過ぎた。
しかし、結果としてロンはアヤをからかってなどいなかった。
進んだ先にひらけた広場のような空間が出現したのだ。
そして、広場の中心に一人の青年がこちらに背を向けて立っていた。
その青年の後ろ姿を見て、リーネが笑みを浮かばせながら青年の名を呼ぶ。
「コウ!」
そしてコウの元にリーネが駆けていく。
コウは驚くことなくリーネとアヤの存在を認めると普段と同じ調子で迎える。
「よう、リーネ。おはよう」
「はい! おはようございます!!」
「うむ、元気があってよろしい」
アヤもおはよう。と、リーネのように駆けることなく歩いてきたアヤにも声を掛けてくる。
昨日のこともあり、アヤは内心は僅かに緊張しながらも表面上は平静を装い言葉を返す。
「おはようございます。コウ殿」
うむうむ、と何故か年寄りのように腕を組みながら頷くコウにリーネが不意に訪ねる。
「……? コウ、先ほどまで誰かいらっしゃいましたか?」
「………いや? 誰もいなかったが?」
「そう、ですか……」
そう言ってリーネも追求せず簡単に引き下がる。むしろ、そんな事を突然聞いたことに自分で不思議そうに首を傾げていた。
そんなリーネをコウが静かに見つめる。
なんだか意味ありげな沈黙が生まれるが、アヤは気になった事があったのでコウに訪ねる。
「そういえば、コウ殿はどうしてこんな所に?」
アヤとしてはここまで来るのに結構苦労して辿り着いたのだ。
そんな来るのが困難な場所にコウがいるとは思わなかったので疑問に思ったのだ。
ロンがここに来るように言った事もあり、コウもロンに裏庭に向かうように言われてやって来たのかとアヤは思ったのだがコウはきょとんした顔で逆に訪ねてくる。
「それはこっちの台詞だ。どうして二人がここにいる? よくここに来れたな」
聞けばコウはここに毎朝来ているらしい。
アヤは自分たちがここにやって来た時にコウは驚いた様子を見せなかったので、ロンに言われて二人をこの場で待っていたのかと推測していたのだが、それは外れてしまったようだ。
勝手にアヤの後をつけてきただけのリーネは事態が理解できず、とりあえずニコニコとしているがコウとアヤは互いに首を捻る。
コウが昨日の晩を思い出して、ある程度は現状までの経緯に推測を立てたその時、全てを説明できる奴がやって来た。
「ふぁ~。みんな、おはよう~」
城内への扉がある方の茂みから眠そうに欠伸をするロンが現れた。
礼儀正しいリーネが挨拶を返している横でコウが挨拶の代わりに問いかける。
「お前の差し金だな?」
「うん? そうだけど?」
ロンは問いかけにすんなりと答え、やっぱりかとコウが納得する。
昨日の晩にロンが明日も裏庭に行くのかと確認を取ってきたのだ。毎朝欠かさず裏庭に行っている事を知っているはずのロンがそんなことを聞いてきたことに違和感を覚えていたので直ぐに推測できたのだった。
だったら他に言う事はないと言う風なコウとは違い、ロンに結構振り回されたアヤが抗議の声を上げる。
「そうだけど? じゃない! 貴様は何がしたいんだ!?」
寮を出て数時間経ったのに時刻は未だに早朝と言える時間。
悩みを解決できると言われて、なんとかやって来た裏庭。
昨日の夜は悩まされた上に、こんな時間帯に寮から出ろと無茶を実行した。
それなのに何もありませんでは絶対に納得出来なかった。
そんなアヤの気持ちを察してかロンがアヤの目を見ながら微笑みかけ頷く。
アヤはその仕草に幾分か落ち着きを取り戻そうとした瞬間、ロンが口を開いた。
「アヤちゃんはコウの実力を疑ってるんだよね?」
突然のロンの歯に衣着せぬ物言いにアヤは居心地悪く思ってしまうが、それは事実であったし、昨日教室から逃げ出す前に直接コウ本人に実力を疑問視していると言ってしまっているので言葉を濁せない。
これが昨日の時点の話なら力強く頷けただろうが、一晩経ち冷静になるとリーネが信頼しているコウを自分の憶測で疑ってる事に多少気まずさを覚えてしまい、首は縦に振るがその動作は弱々しい。
ロンはそれを見届けると今度はコウを見て問う。
「じゃあコウ! アヤちゃんはお前を疑ってるけど何か釈明はあるか!?」
「いや、まぁ、見てないものを信じろって言われて信じるなんて無理だろうさ」
“釈明”と、いうとまるでコウが完全に悪いという風になるのだが、コウはそれを気にすることはなく、むしろ苦笑しながらアヤの考えを肯定する。
そして、二人の考えを聞き出すとロンは高らかに自らの考えを述べた。
「つまり、アヤちゃんがコウの実力を生で見て把握できれば問題は解決って事だ!!」
「………まぁ、そうだが」
アヤが拍子抜けしたように肯定する。
確かに悩む事になった根本的な原因として、コウが授業で見せる情けない姿とリーネが話す勇ましい姿が重ならず、結果として期待を裏切られた気分になっていたのだ。
ロンの言う事は至極当然の事と言えた。
「しかし、そんな当たり前の事と、ここに呼んだことがどう繋がるんだ?」
ここは警備が厳重で有名なクライニアス学園で、しかも学園の中枢ともいえるパースライト城の城内とも言える裏庭。
仮にここで少しでも騒げば直ぐに警備員が駆けつけて来るだろう。
そう考えたアヤだったのだが、ロンは怪しく笑う。
「ふっふっふ~。それがそうでもないんだよ……」
「?」
これに対して聞き手に回っていたリーネもアヤと同様に不思議そうな顔をする。
二人の表情に満足そうにしながらロンはどういう事か説明する。
「つまり! この裏庭内で騒いでも外に聞こえることもないし、魔術を展開しても魔力を感知されることがないってことさ!!」
どうだ! と言う風にロンは言ったが、二人は首を傾げたままだ。
「あ、あれ……?」
「それじゃ、分からないだろ……」
結論だけを教えても意味がない。何故その結論になるのかを二人は疑問に思っているのだから。
二人の反応が想像していたものと違ったのかロンが困惑する。
それに呆れたながらもコウが仕方なしに説明を引き継ぐ。
「まぁ、簡単に言うとこの裏庭内の全てを覆うように結界が張られている訳だ」
コウが何でもないように言った事に二人は驚愕する。
それに構うことなくコウは説明を続ける。
「様々な効果のある結界なんだが、まぁ一種の隔離結界だと思ってくれれば分かりやすいだろ」
隔離結界というのは結界内に存在するもの全てを内部に閉じ込め外部と接続を一切遮断するという標準的な結界と言えるものだった。
しかし、結界魔術はとても便利な魔術であるのだが、結界の効果は全て術者の技量に比例する仕組みになっている。
しかも、設置型の魔術なので前もって土地や浮遊マナを調べたりと、事前に仕込みをしておかないと魔術展開が難しいという点がある。
術者が未熟ならば簡単に破られてしまうし、結界の存在自体を認識されて中に踏み込むのを避けられてしまう事があるということだ。
「本当に結界の中なのですか……?」
アヤが驚愕したまま訪ねてくる。
傍らにいるリーネも目を閉じ、かなり精神を集中させて周りを調べているようだ。
「だめです……。結界があると言われてるのに、その存在を認識出来ない……」
どんなに上手く隠されたものでも、そこにあるという情報を持った上で確認すれば探し出すのは容易になる。
それなのにコウの言う結界を二人は認識することができなかった。
思わず本当に結界があるのか疑ってしまう二人。
そんな二人にコウは、昼飯を食べる場所を提案するかのような気軽さでリーネに目を合わせて言う。
「それじゃ、あそこに攻撃魔術をぶつけてみな」
「ええ!? そ、そんなことしたら………!!」
「大丈夫だって」
コウが指差すのは少し離れた壁。
ほとんどの者が寝静まってる学園内で、そんなことをして結界の効力が及ばなかったら、魔力を感知される以前に壁の破壊音で警備員が大勢集まるだろう。
アヤはコウが冗談を言ってるのかと思ったくらいだ。
しかし、最初は戸惑っていたリーネだが、コウの目を見て冗談でないことを悟り、そしてその目から絶対的な自信があることを知った。
「お、お嬢様!?」
コウが指さした壁の方にリーネが一歩前へ出る。
アヤがそれを見て慌てて止めようとするがロンがその口を塞いでしまう。
「杖無しで大丈夫か?」
魔術において杖の役割は自らが放出させた魔力を一点に集束させることだ。
魔力の集め方を知っていれば杖なしでも魔術を扱うことは可能なのだ。
「はい…。少々時間が掛かってしまいますが……」
ただ、杖無しで魔力を捻出するのは大変難しく、それ故に時間が掛かってしまうのは致し方ないと言えた。
場合によっては杖無しでは魔力を捻出する事が出来ないという者もいるくらいだ。
「十分だ。結界が存在してるか見せるだけだし」
コウの言葉に安心したように頷きリーネが壁を見据える。
そして、静かに目を閉じ壁に手のひらを見せるように腕を伸ばして詠唱を始める。
「【我が手に集え 精霊の力】」
リーネが伸ばす手の前に、天使の輪のような淡い光を放つ細い輪が出現する。
魔術を形成すべくリーネは呪文を唱える。
彼女はまるで歌うかのように、祈るかのように呪文を唱える。
「【永遠の輝きを持つ炎よ】」
その声は普段の声より力強い。しかし、耳心地の良い透き通った声だった。
歌の歌詞を紙に書き込むように、彼女が唱えた呪文は文字となり光の輪の中に刻まれていく。
「【その熱を持って 我に仇なす者を焼き尽くせ】」
光の輪の中にリーネの口から出た言葉の数だけ文字が浮かび、お互いを繋ぐかのように文字から直線だったり曲線だったりと様々な線が伸びて、輪の中で複雑に交差して図式が生まれる。
人はこれを『魔法陣』と呼んだ。
「【全てを飲み込め】」
リーネの手のひらにあった光の輪は魔法陣となり魔光を発する。
そして、閉じていた目を開き壁を再度見据えるとリーネは静かに、しかし、はっきりとした声で自分が展開した魔術を完成させる。
「【魔術=爆炎飛】」
その一声と共に魔法陣が力強く輝きだし、魔法陣の中心に光が集まったかと思った瞬間、光は熱の塊となり勢いよく飛び出し壁に飛んでいく。
リーネが唱えた【魔術=爆炎飛】。
彼女はランクが低いと言ったが難易度がCランクとされており、一番上位がS、一番下位のランクがFとされる全体から見れば丁度真ん中あたりの中級魔術だ。
限界まで引き絞り放たれた矢のように空気を割りながら真っ直ぐに城壁へと向かう拳ほどの大きさの熱の塊。
それは着弾した瞬間、周りの空気を飲み込み轟音と共に爆ぜる―――――――はずだった。
「え………」
熱の塊の行方を見逃すまいと凝視していたリーネとアヤのどちらだろうか。思わずという風に声が漏れる。
二人は自分の目を疑った。
もの凄い速さで壁に向かった魔術。
これにより爆音を轟かせ破壊されるはずだった壁は何事もなかったかのように健在している。
その壁の表面はよく見ると透き通るような青の淡い光を放っており、驚愕したまま凝視する二人の視線から逃れるかのように直ぐに消えてしまう。
「あれが……結界……?」
アヤが呆然と呟く。
リーネが放った魔術が着弾しようとした瞬間、例の青い光が壁から何の前触れもなく浮き出て熱の塊を飲み込んでしまったのだ。
「んじゃ、結界が確認できたところで………」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
次いこうかとコウが言うが、口を塞ぐロンを振り切りアヤがそれを止める。
「ん? どうしたアヤ?」
「どうしたって、あれは何ですか!?」
青い光を放った壁を指差しながら声を荒げるアヤ。
「あれって? 結界の事か。ちゃんとあったろ?」
それに、対魔術どころか対物理障壁の効果もあるし、防音、感知、その他もろもろ一切受け付けない結界だ。と、聞いてもいないことを喋り胸を張るコウだったが、アヤはそれに構わず問い詰めるように迫る。
「結界があるかどうかを言ってるんじゃないです! 結界そのものについて聞いてるんです!!」
「結界の存在は認めたけど、今度は結界について聞きたいって事か?」
それにアヤは大きく頷き、そして今度は興奮気味のリーネがコウに詰め寄る。
「そうですよ! あんな結界見たことないです!! コウのオリジナル術式ですか!?」
通常の対魔術障壁だったのならば、リーネの魔術は障壁にぶつかり爆発を起こし障壁はそれに耐えるという風になるはずだった。
しかし、この裏庭に張られている結界の障壁は飲み込むように魔術を消してしまったのだ。
魔術を防ぐのと魔術を消すのではその意味合いはかなり違ってくる。
興奮のためか、ぐいぐいと体を寄せてくるリーネに若干驚きながらも、コウはしばらく考える素振りをみせる。
そして、何かを思いついたのか悪戯を思いついた子供の顔を見せてリーネに答える。
「そうだな、確かにここを覆う結界は俺のオリジナルの術式だ」
「本当ですか!? それなら……」
期待通りと言わんばかりに目を輝かせるリーネの言葉を遮るようにコウは言う。
「正確には消した訳ではないんだが、それ以上詳しくは教えない!!」
「えぇ!? な、何でですか………?」
コウは一間置いてから「ふっふっふ~」と、わざとらしい笑い声を上げて楽しそうに答える。
「その方が面白いからだ!!」
「えぇーー!?」
まさかの答えにリーネが声を上げる。
その様子を見てコウは更に高らかに笑う。
本当に答えるつもりがないらしいコウにリーネは俯きながら恨めしそうに懸命に睨んでくる。
しかし、コウから見るとその仕草は、子供がいじけて拗ねてしまっているようにしか見えなかった。………まぁ、実際にそうなのだが。
しかも、腕の良い人形職人が作り上げた最高傑作のように美しさを持つリーネがやっているので、その様子はただただ可愛らしいだけだった。
「まぁ、この結界も俺が魔力を感知されずに使えるのが関係するからな。そっちの答えが分かったら結界の原理も理解できるさ」
微笑ましい上目遣いを笑顔で受け止めていたコウがそう言うと、リーネは途端に思案の表情を作り、そして答えた。
「それはつまり、魔力を感知されずに魔術を展開できればこの結界を作ることが可能という事ですか?」
「……鋭いな。考え方は正しい……が、それでは答えに辿り着けないな」
「考え方は正しいのに答えに辿り着けない……?」
言ってることが矛盾しているとリーネは思った。
しかし、それを言わない。
コウの目を見て、誤魔化しているわけでなく事実を語っていると思ったからだ。
そう考えたリーネは言葉をそのままの意味で受け取りあれこれ考える。
コウは自分の言葉を疑うことなく受け入れるリーネに先ほどとは打って変わって純粋な笑みを浮かべていた。
そんな二人をアヤはじっと見つめる。
「さてと、……………何の話してたんだっけ?」
時間も結構経過し、あと一時間もしないうちに戻らないと寮の朝食の時間に間に合わず、部屋に誰かが様子を見に来てしまい寮にいないことがばれてしまうだろう。
そう考えてコウは話が脱線してしまった話を戻そうと惚ける。
「………アヤちゃんがコウに不信感を抱いてるって話だろ」
そう返したのは何故か地面に仰向けに倒れているロンだ。
「何してんだ?」
「………聞くな」
アヤの口を塞いだ際にさり気なく抱きつこうとした瞬間、投げられたとは言えなかった。
「?」
ロンがちらりとアヤの方を見ても不思議そうな顔をするだけだ。恐らく無意識に投げたのだろう。本人は振り解いた位の認識しかないのだ。
邪な考えを持ったこともあり、何も言えないロンであった。
「まぁ、ロンの事はどうでもいいから置いといて………」
どうでもいいと言われロンが落ち込んでいるがそれも置いておき、コウはアヤを見て問いかける。
「んで?」
納得出来たのか。そう短く問うてくるコウにアヤは頷こうとする。
しかし、頷けなかった。
何故だろうか。アヤは自問自答する。
この裏庭にいるということはコウもまた学園の警備を抜けてきたと言う事だ。
それに結界も見た。
今までで見た対魔術障壁と比べて間違いなく最高レベルのものを用いられた結界だろう。あのレベルの結界を作るのは、少なくとも本当に成績最下位の学生だったら不可能のはずだ。
これだけで実力を疑う余地はないはずだ。
(では何故だ……?)
まるでコウの事を認めたくないようだった。
素直に頷けず、思わずリーネを見る。
リーネは心配そうにアヤを見ており、そしてコウの方を見た。
コウはリーネの視線に気づきおどけて見せる。
それを見てリーネは安心したように微笑んでいた。
コウの事を頼るその姿にアヤは頷けない理由を理解した。
この裏庭に来た際にリーネと話していて思った事を思い返す。
それにコウと出会ってからのリーネの笑顔。
今もまた、コウの方を見て安心したような顔を見せるリーネ。
(ああ、そうか私は―――――)
アヤは理解した。
そんな単純な事に気づけなかった自分に思わず苦笑してしまう。
そして、一つ決心すると腰にあるものに手お添えて静かに口を開いた。
「コウ殿、お願いがあります」
一間置いてコウが自分を見るのを確認してから言った。
「私と勝負して下さい」
手を添えた腰にあるものは特徴的な形状の剣だった。
※この後書きは筆者が言い訳をするコーナーになりかけているのでお暇な方だけ白い目で見ることをお勧めします。
本格的な冬が始まり寒さが痛みに変わりそうな今日この頃、皆様ご機嫌麗しゅうございますでしょうか?
自分は一応元気です。
さて、前話で自分は後書きにこのように書きました。
“その3で終わらせる予定でしたが、その4に続きそうです……。ぐだぐだではありますが、その4もまた『直ぐ』に投稿させていただきます”
この前話である十五話目の投稿日が12月9日
そして、次話である十六話の投稿する今日が12月22日です。
……直ぐって「時間を置かず」「ただちに」と言う事です。
小学生でもわかります。いえ、この言い方は小学生の方にも失礼ですね。
誰でも分かると言うことです。
つまり、何が言いたいかと言うと……
ごめんなさい……
直ぐって書いておいて約2週間も間隔があるとか、もうあれですね。
駄目すぎる……。
ユニークアクセス数を見る度に自分の駄文に目を通している方がいることが分かり、本当に申し訳無い気持ちで一杯です……。
一応、三つ離れた県に行っていたり、一度書いた文章を操作ミスで全部消してしまった事や、文章が駄目すぎて三度書き直したという事もあるのですが、こんな風に言い訳が直ぐに思いつく自分が嫌になります。
言い訳を言わないように頑張ります。
「目指せアクシデントを言い訳でなく笑い話に!」です。
また、この話まだ続きます;;
何も考えずに書くせいで文章の収拾がつかないという……
PCに向かう度に終わりの予定まで遠のく気がします。
ダラダラと長引かせるのは駄目だとは思うのですが、どうしてもこの悪癖は直りません。
これも投稿するのが遅れる要因の一つですね;;
今回の第十六話も、話が長引きすぎて途中で切って投稿した次第です。
もっと努力が必要ですね;;
無駄に長い後書き(言い訳)を最後まで目を通していただき、ありがうございます。
駄目人間(確定)の うましか でした。
次話、戦闘入れます。