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第十五話:中途半端な学生と揺れる騎士と その3

※今まで魔術の表記を試験的に【○○の魔術】としていましたが、今後は【魔術=○○】に固定します。

 何度も表記を変えてしまうのは読み手の方の迷惑になると思うので、これに最終決定するつもりです。

 何かと慌ただしい駄文ではございますが付き合っていただけると嬉しいです。

 それでは、

 拙い文章ですが暇つぶしに貢献できたら幸い。



 

 夜の暗闇に朝日が差し込み、その存在を誇示するかのように太陽が地平線から顔を覗かせ始めた頃、クライニアス学園内を歩く人影があった。

 

 日が昇り初めたばかりの時間帯に活動を始める者がいること自体は、朝から仕事がある者が多い町村では珍しい事ではないし、学園にも門番や警邏をする為に組織された警備員が存在するので、この時間の学園内を歩く者が絶対にいないという訳ではない。

 

 しかし、人影は早朝の学園内を歩いている事が不自然な存在であるようだった。

確認するように何度も辺りを見渡し、こそこそと廊下の角に隠れては進んでいく。その様子は、誰がどう見ても怪しい人物だと断定できる姿だった。


 「…………」


 人影の歩みは遅い。

 一度止まっては辺りを見回して人気を確認しながら進んでいるのだ。当然ながら進行速度は遅い。


 目的の場所は定かではないが人影は誰かに見つかることなく進んでいた。

 しかし、まだ薄暗い廊下の角を曲がろうとした時、突然後ろから肩を掴まれる。


 「………!?」


 一瞬声が出そうになるが、慌てて口を閉じ声を殺す。

 そして腰にある武器を手にして勢いよく振り返ると、そこには驚かせる事に成功した喜びか、頬を緩ませながら人差し指を口の前に立てて、白い歯を見せているリーネ・ヴァルティウスがいた。


 突如肩を掴んだ相手が警備の者ではなく、自分の見知った者だと知って、人影――――アヤ・ソルニティ・キリシマは強張った体をゆっくりとほぐす。

 そして、相手がいくらリーネであっても、驚かされた事に文句の一つくらい言いたい衝動に駆られるが、リーネが人差し指を口の前に持ってきたまま動かないでいる。

 

 (とりあえず移動してから……ですか)


 その意図を読み取り内心思うところがあったが、このように茶目っ気のあるリーネを見たのは久方ぶりなのを思い出し、苦笑しながらも静かに頷く。

 アヤが頷くのを見てリーネは満足そうに頷き返した。


 長い付き合いである二人はそのやり取りで以心伝心させると、朝日が昇るのと同時に弱くなっていく魔力石仕様のランプの光を頼りに、薄暗い廊下を進んでいくのであった。











 事の発端は昨日の夕方、コウとリーネの前からアヤが逃げ出した時にまで遡る。


 「はぁ……」


 思わず溜め息をついてしまう。

 学園に来てからずっとリーネと共に行動していたため、一人で向かうような行く当てが思い浮かばず、ふらふらと行く当てもなく彷徨っていた。


 (どうしたら良いのだろうか……)


 最初は直ぐに戻って自分も悪い点があったことを認めて、謝罪の言葉を言いに行くことを考えた。


 (それにお嬢様のお側にいないといけないのに置いてきてしまったし)


 学園内なので襲われる可能性は極めて低いのだが、それでも心配性のためか側にいた方が安心できるのだ。


 (コウ殿もいるし、大丈夫だとは思うのだが……)


 しかし、コウが側にいれば安心だ。と言えないことがアヤを悩ませる。

 アヤの心情は複雑だった。


 正直な話、コウの事を信頼することができないのだ。


 何度もリーネから助けられた時の話を聞いた。

 コウとそれなりの付き合いのロンからも信じられないような武勇伝を聞いた。


 しかし、コウの実力が半信半疑であるという考えは変わらず、むしろ自分が感じたコウの実力との差に違和感が強くなっていった。


 頭に浮かぶのは二人で武術系授業を受けた時の事。

リーネとロンは武術系授業を受けるつもりがないので、必然的ともいえる組み合わせだったのだがアヤは嬉しく思っていた。

 

 コウと二人で一緒に授業を受けられることを………ではなく、コウの実力を見ることが出来るからだった。


 コウ達に助けられたあの日からリーネはコウの事を何度も褒め称えていた。

 そして、驚いたことに出会って間もないのにコウの事をとても信頼していた。

 悪い噂が取り巻くようになってから、リーネは近づく者のほとんどに、心の何処かで警戒するようになっていたことをアヤは知っていた。それだけに驚きは大きい。


 そんなリーネが認めた男はどれほどの者なのだろうかとアヤは期待していたのだが、体験授業を共に受けるとその期待は裏切られる事となった。


 まずは走り込み、筋トレなどを行う基礎鍛錬の授業を受けた。

 やはり、いくら入学当初から今までやって来たからと言って、基礎鍛錬を疎かにしてはいけないという考えで受けたのだ。

 

 そこでコウは参加者全員の内、最下位という結果を残した。


 内容は他の授業に支障を来さないように今までに比べると比較的に軽いものだった。なのにコウは一番こなした量が少なかった上に一番終えるのが遅かったのだった。


 この時は実力を隠していると聞いていたこともあったので実力が見れなかったのは少々残念に思いながらも疑問に思うことなくその日を終えた。  

しかし、その後も剣術の授業、馬術の授業、弓術の授業、その他様々の授業などの授業を受けていったのだが結果は似たり寄ったりで、どの授業も駄目なところが目立っていった。

 コウと一緒に魔術系授業を受けたリーネも同じようにコウは駄目な姿を晒していたと言っていた。


 それらのことから、アヤは段々と不満や疑問が溜まっていった。

 本当にコウは実力を隠しているのだろうか? 本当は全然凄くない人間で、リーネは騙されているのではないだろうか?

 リーネの言葉を信じたい一心で否定しながらも、コウを疑問視するその考えが頭をよぎるようになった。

 それは日を重ねていくほどに回数が増え、アヤの中で確実に蓄積されていった。


 そして、溜まっていたものがクレイストという火種で着火して爆発してしまい、現状という結果になってしまった訳だ。


 コウは自分の不満を受け入れ、その上謝罪したのに対して自分は受け入れず、しかも自分は悪くないと言わんばかりの態度を取ってしまった。

 

 頭を冷やし、冷静に考えれば今すぐにでも戻り謝るべきだと何度も思う。

 しかし、コウに対する疑心は残っており、それが謝ろうと思う気持ちを凍り付かせてしまう。


 そんな二つの気持ちに板挟みにされながらフラフラと行く当てもなく彷徨っていると、頭を冷やすと先に教室を出て行ったロンが喫茶店のテラスに一人陣を取っているのを発見する。


 アヤは少し考える素振りを見せるが行く当てがないことを思い出し、仕方がないというふうに溜め息をつきながらロンが陣取るテラスへと近づいていった。


 「………何を一人で黄昏れているのだ貴様は」


 ロンがビクリと体を震わせる。

 別段、気配を殺したりしたつもりはなかったが、ぼんやりと遠くを見ていたロンは、一瞬声をかけてきた相手が誰だか分からなかったのか焦った様子で声の発生源を探す。


 「……って、アヤちゃんか」


 相手がアヤだと分かるとロンは直ぐに笑みを浮かべたのだが、その笑みは何処か弱々しい。


 「ふん、私で悪かったな」


 その弱々しい笑みが何処か気にくわなかったので、ついそんな態度を取ってしまう。

 アヤは自分でそんな態度が子供っぽいと思い、慌てて誤魔化しの言葉を言おうとしたが、それより先にロンが口を開いた。


 「さっきはみっともない姿を見せたね」


 ゴメンね。弱々しい笑みを浮かべたまま謝罪してくる。

 その謝罪で先ほど自分が何が気にくわなかったのかを悟る。

 ロンに対するアヤの印象はいつもヘラヘラと笑っている軟派者で、顔を合わせれば口説こうと近づいてくる目障りな奴だった。

 それなのに普段とは違う、このしおらしい様子に違和感を覚えたからだ。


 ロンの独白のような言葉は続く。


 「俺ってさ、何か熱されやすいというか、ちょっと短気なところがあってさ。ついあんな風に醜態をさらす事があるんだよね」


 最初は淡々と話すロンの反省の言葉をアヤは黙って聞いていた。

 しかし………


 「もう本当に俺って駄目というか、アホらしいというか」


 自嘲気味に語る様子に何故かイライラしてきてしまった。


 「コウみたいに冷静に動ければいいのに、いつも勝手に暴走しちゃってさ…」


 「……うるさい」


 「それに……え?」


 「ウジウジとうるさいわボケェーーーー!!!」


 そう怒鳴りがら勢いよく立ち上がり、椅子が後ろに倒れるのも気にせずにロンを睨み付ける。


 「さっきから貴様はなんなのだ!? ウジウジと!! 私だって色々と愚痴ろうかと思って来たのに一方的に愚痴りおって!!!」


 日が沈みかけ、もうじき夜がやって来ようという時間帯。周りにいる生徒の数は疎らだが、けっしていない訳ではなく、ちらほらと存在している。

 辺りにいた生徒全員がロン達を注目するのを確認するまでもなくロンは感じ取った。


 「ちょ、ちょっとアヤちゃん落ち着いて! 何かしゃべり方が若干おかしくなってるから! ……ってか、愚痴ろうかと思ってきた?」


 ロンからすれば、勝手に教室から抜け出してきた自分の元にやってきたアヤは、てっきり自分を叱りに来たのだと思っていたので意外な言葉に驚いてしまう。


 「そうだ! 私だって熱されやすいし、先ほどだって勝手に爆発してお嬢様達から逃げてきてしまった!!」


 自分が悪いとは思っていること、

 それでも納得できないこと、

 どうすれば良いのかが分からないということ等と、

 部分部分に話すのでロンには内容が直ぐには理解できず、やけを起こしたように騒ぎながら言葉をはき出し続けるアヤをロンは目を丸くしながら見続けた。


 「はぁ……はぁ……」


 「え、えと……落ち着いた?」


 息切れするくらいに騒ぎ疲れたアヤが落ち着いた頃合いを見てロンが話しかける。


 ちなみに、最初はリーネと共に行動していることでそれなりに有名だったアヤが騒いでいることで、注目していた生徒達だっただが一緒にいるのが学園で女癖の悪さで有名なロンだと知ると、内容に関心を示さずにそれ関連の事で騒いでるのかと勘違いし呆れ、見物することなくそれぞれ帰っていった。


 「あ、あぁ…」


 息を整えながらアヤが頷く。

 

 「そんなになるまで叫ぶとか、どんだけ……」


 「う、うるさいな…!!」


 ロンがやや呆れたように笑いながら言えば、アヤは恥ずかしそうに答えた。

 そのアヤの答え方をロンは微笑ましく思った。

 そして先ほどまで抱えていたウジウジした気持ちが消えてしまっていることに気づく。


 「いやぁ~、アヤちゃんは本当におもしろ………いい女だね!!」


 「は?」


 このタイミングで何を言い出すんだこの男は? と言葉にせずとも表情だけで伝えてくるアヤににこやかな笑みで答えながらロンが口を開く。


 「それじゃ、今度は俺がアヤちゃんの悩み解消の手助けをしよう!」


 「……突拍子ない上に、いきなりだが、まぁ、頼む」


 そう力なく答えるアヤの言葉にロンは一瞬驚いてしまう。

 普段ロンはアヤと顔を合わせれば何かと口説こうとしているので、嫌われているのか意見すれば何かと反発されることが度々あった。


 それ故に今回も愚痴られるだけで終わり、自分の助けなど無用だと拒否されるかと思っていたのだ。


 それだけ今回は弱っているという事でもあるのだが、ロンはなんだか頼られているようで嬉しく思いながら懐からあるものを取り出す。


 「はい、じゃあこれ」


 「これは……、魔具か?」


 ロンから受け取ったのは指輪。

 魔具に形状や大きさなどの制限はなく、魔術的な細工をされた道具であれば一般的に魔具と呼ばれる。

 例え指輪ほどの小さなものであっても魔具と言えるのだ。


 「そそ、それに魔力を込めれば【魔術=認識阻害】が発動されるから」


 アヤが魔力を扱えることは出会った初日から魔力の波長で周知の事実だ。

 だからロンはアヤが魔力を込められること前提で話を進める。


 「これが魔具か……。実物は初めて見るな」


 アヤはまじまじと指輪を見つめる。

 指輪には細やかに文字が彫ってあり、均一に揃えられた文字が模様に見えるがその模様に見えるものは実は術式なのだ、しかし、この指輪はまるで端整に作られた装飾品のような美しさを醸し出していた。


 思わずアヤが見惚れているとロンが何故か嬉しそうに訪ねる。


 「今度アヤちゃんの分も用意しようか?」


 これが他の種類の物であれば、そのまま渡したのだが指輪等のものは指の太さを測らないと大概は大きさが合わないものだ。


 「本当か!?」


 ロンが聞くとアヤが嬉しそうに答えるが、直ぐに顔を曇らせる。


 「いや、しかし、魔具は高価な物ばかりだと聞くが大丈夫なのか?」


 「うん? あぁ、確かにコウもこの指輪見て結構な値段で売り飛ばせる代物だって言ってたっけか」


 魔力を込めるだけで魔術が発動する魔具は大変便利な物である。

 しかし、魔具は作成が大変難しい物だとされている。

 その難しさから、魔具作成を生業にしている者は大変少なく、その為に希少価値が高く数がそれほど多くない。

 故にちょっとした効果の魔具でさえ大枚をはたいて買うような話なのだ。


 「そんな高価な物など貰うわけには……」


 アヤは遠慮して断ろうとしているが、その目はずっと指輪を見続けている。

 その様子をロンは不思議そうに見ている。


 「え? 指輪自体はタダ同然だよ?」


 「……は?」


 ロンの口から出た言葉の意味が分からず、アヤは目をパチパチと見開いてロンを見返す。


 「だから、これは別にお金とかいらないよ?」


 重ねて言われたが、アヤはそれだけでは意味が分からない


 「魔具とは高価な代物ではだったのではないのか? それがタダ同然とはどういう事だ……?」


 「え、あ…。そかそか! 納得したわ。 そういう事か!」


 アヤの言葉にようやく合点がいったというようにロンが一人頷く。


 「この指輪はさ、俺が作った物なんだよ」


 「……なに?」


 アヤは驚いたように手の内にある指輪を見る。

 指輪は夕日に照らされキラキラと綺麗に輝いており、とてもじゃないが一介の学生が作った物だとは思えない出来映えだった。


 「……これを貴様が作ったのか?」


 「うん、そうだよ。 材料は学園にある工房からくすねたもの使ってるし、彫ったりする道具は全部自分の持ってるし」


 普段のヘラヘラとした軟派な態度とは違い、ただ淡々と語る姿は逆に言葉の信憑性を高める。


 「魔具関連の成績が高いと聞いていたが、まさかこれほどだとは……」


 「お褒めに預かり光栄でございます。 という訳で、お金はいらないから今度指の寸法計らせてね」


 戯けた様子で答えながらもロンは嬉しそうに笑う。


 「あ、あぁ。分かった頼む」


 ロンの意外な技術力に驚きながらもアヤは頷いた。


 「んじゃ、今回は俺の指輪貸しておくから。とりあえず指にはめなくても魔力込めれば【魔術=認識阻害】が発動するから」


 「そうか、それでは有り難く借りておく」


 アヤは指輪を握りしめ、試しに魔力を込めてみた。

 指輪に刻み込まれた術式が魔力とマナを結合させ魔光発生し淡く光る。


 そして、光は徐々に弱くなっていくが、それに伴って自分の存在が希薄になっていくのをアヤは感じた。


 「す、凄いなこれは……」


 魔光の光は消えたが、魔術が発動しなかったのでない。むしろ、魔術は見えなくなったが今も展開されている状態なのだ。

 アヤも一応魔術を何個か習得しており【魔術=認識阻害】も習得した魔術の一つに入っているのだが、自力で魔術を展開するよりも段違いで周りと自分が溶け込んでいるような感覚を強く感じたのだった。


 【魔術=認識阻害】は姿を消せるわけではない。簡単に言えば魔力の波長や、個々が持つ特有の気配といったものを何処にでも存在するマナの中に隠してしまうというものだ。

 つまり、気配が薄まるだけで直接見られたりすれば、この魔術は簡単に効力を失ってしまうのだ。

 しかし、直感的な行動や咄嗟の判断などが求められる戦闘において、気配がない敵がいかに脅威になるのかは言うまでもない事だろう。

 その事を考慮した上でアヤは凄いと口にする。


 「でしょ? この指輪は結構自信作なんだよ」


 自分が作成した物を褒められるということは、制作者にとってそれだけで誇らしい事だ。

 もちろん、ロンも例外ではないらしく笑みを浮かべている。


 普段の軽薄なものでなく、とても純粋な笑みを見せるロンに内心驚きながらも、アヤはふと疑問に思う。


 「……ん? それで、この指輪と私の悩み解消がどう繋がるんだ?」


 アヤが抱えている問題はコウに対する不信感みたいなものだ。

 説明なしで指輪と悩みは直結させるのは無理な話だった。


 「あ、そっか、説明してなかったね」


 アヤの当然とも言える問いかけでロンも説明不足だということに気づき、指輪の使い道を語る。


 「この学園こと、クライニアス学園は様々な魔具や魔術書などが保管されてる関係から、凄く警備が厳しいのは知ってるよね?」


 その警備の厳しさは半端なものでなく、外部からの侵入はほぼ不可能だと言われている。

 それ故に貴族と言われる者達は大事な子供をこの学園に預けたがるのだ。

 学園の警備が凄いことは有名な事であるのでアヤは頷く。


 「特に寮の消灯時間以降から起床時間までの時間帯は厳しさが増すんだ」


 話によれば学園に通う生徒でも、この時間の間に寮の外を出歩いているのを見つかれば問答無用で捕縛されるということらしい。


 「そこで登場するのがその指輪って訳だ」


 手元にある指輪を指さしながらロンがそう言ったが、アヤは意味が分からず首を傾げる。

 アヤからしてみれば、学園の警備の厳しさを確認する事を言い出した時点で、ロンの言う事の意図がつかめず疑問に思うところだった。

 何故、アヤの悩み解消の為に使うはずの指輪と学園の警備と関係するのかは、当然意味が分からない。


 「さっきから説明が説明になってないぞ?」


 最初は意味が分からずとも必要な説明なのだと考えて、黙って聞き続けていたのだが話を聞けば聞くほど意味が分からなくなっていく。

 これ以上黙って聞いても混乱するだけだと判断したアヤはロンの説明を一度止める。

 が、ロンは口を閉ざさず、とんでもない事を言った。


 「その指輪を使ってアヤちゃんには明日の早朝に城の裏庭に向かってもらいま~す」


 語尾の方はいつものような軽い調子なしゃべり方だった。


 「………は?」


 一瞬、アヤは何を言われたのか理解できなかった。

城の裏庭と言えば、学舎である〔パースライト城〕の裏庭の事だった。

 だんたんとロンが言ったことが頭に浸透し始めると慌ててアヤは聞き返す。


 「な、何を突然言い出すんだお前は!?」


 早朝は起床時間前、つまり警備が通常より厳しくなっている時間帯だ。

 ついさっき、それも三十秒は経っていないその時に、自分でそのことを確認したロン。 そのロンがそんな時間帯に寮から出ろと言う。


 「そんな時間帯に裏庭に向かったら警備の者に捕まるだろうが!!」


 学園の寮は、学舎であるパースライト城から少し離れた場所に建てられている。

 寮とパースライト城の道筋の間に喫茶店などの様々な店やグラウンドなどの施設があり、それらを全てを取り囲むように城壁がそびえ立っていて、大げさに言うと小さな国のようになっているのだ。

 国の治安を守る警備兵のように小さな国の内を警備員が巡回している。


 「それにあそこは城の中を通らないといけないじゃないか!!」


 城の裏庭は少々特殊な場所になっていた。

 パースライト城の城内一階フロア奥の扉を開けると、かなり高い壁に囲まれた広い庭があるのだ。

 そこを生徒達は裏庭と呼んでいた。

 そして、その構造で庭を囲む壁には扉が存在しないので、城の外から回っても裏庭には入れないし、外側からよじ登るだなんて論外。つまり城の内部に一度進入してからでないと向かえないのだ。


 裏庭に向かえば向かうほど、城に近づくことになるので警備は厳重になって捕縛される可能性が増えるのだ。


 「だから、その指輪の力で見つからないように行くわけだ」


 俺も何回かその指輪で行ったことあるから保証はできる。

 と、ロンが付け加えるが、それでもアヤは納得できない。

 というかアヤはロンは本当に自分の悩みを解決する話をしているのか分からなくなっていた。

 確かにこの指輪の力ならなんとかなるかもしれない。そう思うせるくらいの説得力がある指輪だが、


 「しかし、どうして裏庭に行くことが私の悩みを解決することになるんだ?」


 いくら何でも説明が回りくどすぎる。

 流石にアヤはイライラし始めるのだが、ロンはしっかりと答えず


 「大丈夫! 行けば絶対に悩み解消出来るから!」


 そう言うと立ち上がり自分の寮へを帰ろうとする。


 「ちょ、ちょっと待て!! なんなんだそれは!?」



 「ごめん! 実は十八時までに出す時間割決定のプリント出してないんだ~」


 慌てて引き留めようとするがロンは止まらず、何故か楽しそうに笑いながら行ってしまう。


 「移動中は絶えず魔術を発動させ続けるんだよ-!」


 そして曲がり角へと消えて行った。


 「な、なんなんだ………?」


 呆然としたままのアヤだけが取り残された。

 そして、その晩に迷った末、アヤは翌日の早朝に裏庭へと向かうことにしたのだった。





 今回は後書きは手短にです。

 試験中に溜まっていた駄文と新たに書いた続きを合わせるとかなりの量になってしまうので、やや強引ではありますが適当なところで一旦区切り、書いた文の半分位を投稿しました。

 その3で終わらせる予定でしたが、その4に続きそうです……。

 ぐだぐだではありますが、その4もまた直ぐに投稿させていただきます。

 駄目人間の うましか でした。

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