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第十一話:喫茶店で その2


今回は書き方を少しだけ変えたので見づらいかもしれません。

見づらいと感じた方には申し訳無いです。


拙い文章ですが暇つぶしに貢献できたら幸い。


 「グループ登録を俺たちと?」


 ロンが聞き返すとリーネは迷いなく頷く。

 

 「はい、そうです」


 「コウって結構無茶苦茶な奴だけどいいの?」


 リーネの言葉にロンが本人の目の前で失礼な事を言うが、実際にコウは時々付き合がそれなりに長いロンが予想できないような事をすることがあるのだ。


 「例えばコウがリーネちゃん助ける時に実力を隠すことなく戦ったのは、加減の具合考えながら戦うのが面倒だっただけだよ? きっと」


 「違うから。助ける時に手を抜いて助けられなかったら、後味悪いから本気でやってんだよ」


 コウが否定の言葉を発するが、それでもロンは言葉を続ける。


 「……こいつが始業式の後の時に、俺の華麗な攻撃をそこそこ上手く凌いだのは女の子の前で良い格好したかったからだよ? きっと」


 「それも違うから。後ろから来る攻撃には無意識に反応するんだよ体が」


 「なんだよ、その戦場帰りの戦士みたいな無意識は」


 「……お前こそ“きっと”って、自信ないなら言うなよ。それにお前に関しては学園内限定で何しても大丈夫だ」


 コウの言葉の意味が分からず、ロンを含め三人が理解できないようにしていた。


 「……実際見せた方が口で言うより早いか」


 コウがテーブルの上を擦るように手を動かす。その様子を三人は何も言わずに見守った。


 「よし」


 コウはそう言って立ち上がると、ロンの椅子の隣まで移動する。


 「……ん? なんか嫌な予感がぁっ!!!」


 そしてコウは予告なしにロンの座っている椅子をロンごと後ろに倒した。当然、椅子の背もたれと床が勢いよく激突し、喫茶店内に大きな音が響き渡った。


 店内が静かになる。


 「何がしたいんだお前は!!」


 怪我の様子がないロンが抗議の声を上げ、静まりかえった喫茶店で一人怒鳴りつける。

 すると、


 「なんだロンか」

 「またあの二人ね」

 「いつもよくやることで」


 などと、騒ぎの原因が二人だと確認すると何事もなかったように各々の世界へと戻っていく。


 「な?」


 「な? じゃねぇよ!? 俺が倒された事と何の関係があるんだよ!?」


 「鈍い奴だな……。周りの反応を見たか? お前が騒いでることに対しての反応をだ」


 「……つまりアレか? 俺らが騒いでる事に周りは慣れてて興味を持たないから、どんなに絶技をしても注目が集まることはないと?」


 「まぁ、絶技ってレベルは流石に注目集めるかも知れないが概ねそんな感じだ。ちょっと技が綺麗に見えてもじゃれ合いとか、練習中なんだろう程度にしか見られないと言うことだ」


 慣れって恐いな。と言いながら笑うコウを見て、ロンは疲れたような顔をしながら倒れた椅子を戻し、顔と同じく疲れたような声でリーネに問いかけた。


 「………本当にいいの?」


 ロンが再度聞き返す。アヤは微妙そうな顔を浮かべていた。リーネの考えを尊重しようという気持ちはあるが、今のコウの行動見て少しだけ気持ちが揺らいだらしい。

 その様子をコウは笑いながらもしっかりと見ており、流されやすい性格なのか? と、冷静に見ていたことをロンとアヤが気づくことはなかった。

 

 ロンとアヤが互いに程度の差はあれど白い目をコウに向けていると、先ほどから考え込むように黙っていたリーネが口を開く。


 「コウ、さっきロンさんに近づく前に手を動かしていましたよね? あれには何か意味があったのではないですか?」


 リーネの質問にロンとアヤは不思議そうにリーネを見たが、コウは少しだけ真面目な表情を作る。


 「……その質問の仕方って事は、魔力は感じなかった訳だ」


 「はい!」


 「驚いたな……」


コウの答えが既に何かをしたという答えであり、リーネは読みが当たった事で嬉しそうに頷く。ロンとアヤの二人にはリーネが何を喜んでいるのか理解できず、更に不思議そうにリーネを見つめ、それに気づいたリーネはクイズの答えを教える子供のように二人に説明する。


「えっとですね。コウは先ほど魔術的に何かしたんですよ!」


 リーネもあまり具体的な内容を理解してなかった。


 二人が今度は反応に困ったという顔を作ったので、リーネは自分がはしゃいでいたのが恥ずかしい事だったのかと解釈し、落ち込んだように俯くとコウが助け船を出すように説明を加える。


 「この学園に来て約一年間の間に、意識的に魔術を使ってるのを気づかれないように展開して看破されたのはリーネが初めてだ」


 ちなみに、周りから認識されづらくなる魔術を展開していたのだった。いくら人が居ない喫茶店でも、何処で誰が聞いているか分からない場所で、自分の秘密を簡単に話すほどコウという男は不用心ではなかった。

 

 コウの言葉で二人はリーネが喜んだ理由を理解した。この学園は様々なエキスパートを生み出す場所である。もちろん魔術に関して長けた者も大勢いる。コウが才能に関して周りから眼中に無かったというのもあるかもしれないが、魔術師の道を歩む者は微力な魔力でも感じると発生源を探してしまうものである。そんな者達の居る環境の中で、魔術を展開しているのを誰にも気取られずに展開するというのは至難の業と言えた。


 「いや、本当に驚いた。俺の実力知っているロンですら気づくこと無いのに」


 そう言いながらコウは先ほどと同じように、椅子に座りながらテーブルの上を擦るように、先ほどと動かす方向を逆に、広げたものを閉じるように手を動かす。それが魔術を展開しているのだと今度はロンとアヤも理解した。


 「私はコウが凄い方だと知っていたから分かったんですよ」


 謙遜するリーネであったが、ロンとアヤの二人はコウが魔術を使用しているのを頭で理解していても信じられないレベルの話なのである。


 「……普通、魔術を展開したら体内から放出した魔力と浮遊マナが結合して、魔光が発生しますよね?」


 アヤがある意味当然と言える疑問をコウに投げかける。アヤの言うとおり本来魔術を展開し使用すると、人から生まれたエネルギー【魔力】と自然から生まれたエネルギー【マナ】が結合して【魔光】という光が発せられる。今のところ魔光に関して詳しい事は分かっていることは少なく、分かっていることと言えば、魔力とマナが結合した際に生まれ、見る者によっては幻想的とも言える光を放ち、魔力やマナの力の強さに応じて光の強さが変わると言うことだ。


 アヤの疑問の答えをリーネとロンも聞きたそうにしていたが、コウは少し考えるような仕草の後、悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべるとリーネに笑いかける。


 「リーネ、次は俺から魔光が発せられない理由を看破してみな」


 「へっ? そ…そんなの分かりませんよ!?」


 前振り無く言い渡されたコウからの課題にリーネは困ったように言葉を返した。実際、魔術を使用して魔力を感じさせないどころか、魔光を発生させないなど聞いたことが無い話だった。


 「ほれほれ、早く答えないと時間切れになるぜ?」


 「じ、時間切れ? えっと、そもそも魔光が出ないって事は魔力を使ってないから? でもマナを操るにも魔力を使うよね? それじゃあ結合するマナがないとか…? でも浮遊マナが無い空間なんてごく僅かを除いてあり得ないし…。え、えと、んと……」

 

 謎のクイズを出題してからリーネの前に手をかざし、残り時間を表すように指を折っていくコウ。いきなりのクイズ形式のような流れにリーネは混乱して結論づける事が出来ず、あたふたしている間にコウの指は全て折り終えてしまう。


 「はい、時間切れ」


 「駄目でした……」


 がっくりと項垂れてしまうリーネ。そんなリーネをコウが励ます。


 「惜しかったな、結構良い所まで考えが及んでたんだけどな」


 「そうですか……。残念です」


 「まぁ、ゆっくり考えれば良いさ」


 「です…ね。頑張ります!」


 リーネが意気込みよく頷くのを確認すると、コウは満足したように頷き口を閉ざす。


 「…………」


 「ん? どうかしたか?」


 コウはロンとアヤが黙っているのに気づくと問いかけた。二人は何かを待っているかのような状態のまま止まっており、コウには二人が何を待っているか分からなかったのだ。


 「え、魔光が発生しない理由は?」


 ロンが当然あるであろうと思っていた種明かしを催促す。一年近く付き合いのあるロンであるが魔光が発生しない理由を知らなかったのだ。コウは唖然としたように口を開いたまま動きを止めると、怪訝そうにロンに答える。


 「お前な、空気読めよな」


 「あれ!? 俺、空気読めてない!?」


 ロンの言葉にコウは残念そうな顔を作るが、アヤもロンと同じ考えだったか訳が分からないという表情で見ており、コウは仕方がないと言わんばかりにリーネの方を向くように目線で示す。


 そこにはクイズの答えを一生懸命考える子供のようなリーネの姿があった。


 「それならば、仕方がないですね」


 アヤが自分の知らないことを知りたいという欲求を直ぐに捨てた。


 「なんで納得!?」


 ロンは納得がいかないとばかりに声を上げるが、アヤに睨まれる事となる。


 「貴様な、お嬢様が一生懸命考えてられるのに、それを無駄にすることなどもってのほかだろうが!」


 「そうだぞー。ロン、空気読めー。いきなりネタバレとか誰だって嫌だろうがー」


 アヤの熱弁の後にコウが殆ど棒読みでロンを批判する。その様子でコウにおちょくられ慣れているロンは気づいた。


 「そうか! これがお前の狙いだな! アヤちゃん気づいて! こうやって誤魔化すのがコウのやり口なんだ!!」


 ロンが必死にアヤに問いかけるが、アヤはというと


 (お嬢様……。私が間違っていました……。頑張って下さい! アヤは心から応援しております!)


 反省と応援で手一杯でロンの相手をしている暇はないようであった。リーネもリーネで、ロンがそれなりに騒いでいるのに、考え込んだまま無反応な所を見ると思考に没頭しているらしい。一つのことに集中すると周りの事が見えなくなるタイプのようだ。


 「………」


 その様子を見てロンが疲れたように椅子に深々と座り、溜め息を吐く。そして静かに思った。


 (この中で俺が一番疲れやすい性格をしているのかも……)


 そんなロンをコウがニヤニヤ笑いながら見ているのをロンは気づかないふりをするのであった。







 「それで、グループ登録だよな?」


 三人が落ち着き始めた頃、コウが口を開いた。


 「はい、私たちと組んでいただけたらと」


 リーネがコウの目を真っ直ぐみながら言葉を返す。


 「……まぁ、一応確認しておくが俺が学年最下位という設定を持ってる事は知った上なのは当たり前だとして、ロンもそこそこ成績が悪いことを考慮してあるんだよな?」


 コウが成績の話をすると、ロンが少しだけ苦笑いを浮かべる。コウと違いロンは実力を偽装している訳ではないし、普通に成績が悪いのだ。もっとも、魔具の扱いなどの道具を使った興味のある授業は満点と言えるような成績を収めており、選択授業になっていく高等部二年からはどうなるか分からないのではあるが。


 「はい、もちろん分かっています」


 それも含めて理解しているとリーネは頷いた。


 「そうか……。アヤは納得してるのか?」


 「私はお嬢様が決めたことが第一ですので」


 「……まぁ、いいか。ロンは何か問題は……。無いようだな……」


 問うまでもなくロンはアヤと同じグループになれることを嬉しく思っているようで、体全体から喜んでいることがわかるような状態だった。


 「それじゃ、俺も二人と組むのは面白そうだとは思うからグループに」


 「ま、待って下さい!」


 コウがグループ登録に同意しようとすると、思わぬ人物から待ったが掛かる。


 「……リーネ?」


 この話を持ち出してきたリーネであった。


 「えっと、その……」


 コウは何処か落ち着きのないリーネを見て話す事に迷いがあるよな内容なのだとなこと推測して、急かさないようにリーネから一度目を逸らし、少し時間を与える。

 

 その間に周りの様子を少し見ておく。コウ達が着た頃は少なかった生徒の数も、学食に行くのに出遅れた生徒や食後のデザートなどを求めてやってきた生徒達で疎らだった席が徐々に埋まってきていた。

 

 「その、決めていただく前に私の話を聞いて下さい。答えはそれからでお願いします。そうじゃないとフェアじゃないと思うんです」


 コウが視線を戻すのとほぼ同じくらいのタイミングでリーネが切り出してくる。その顔は真剣なものだったのでコウもしっかりと見返す。

 

 「まず、私の噂について何処までご存じですか?」


 そんな問いにコウは僅かに首を傾げる。その反応を見てリーネは少し驚いたようにコウを見る。


 「まさか、まったく知らないんですか?」


 その問いかけも意味が分からないと言う風にコウが更に不思議そうにする。それに見かねたロンが助け船を出した。


 「あ~。リーネちゃん。こいつ噂とか流行とか本当に無関心でさ、たぶん黒髪少女の幽霊とかの噂とかも知らないレベルだと思う」


 黒髪少女の幽霊とは人が集まる施設によくある噂の一種である。学園内なら場所や時間を問わず目撃情報があり、見ると幸せになれるだとか、目が合うと好きな子と相思相愛だとか、霊の噂には珍しく負の噂がないどころか逆に見た者にとって喜ばしい事が起こると評判になり、一時は黒髪少女の幽霊を探すのがブームになったくらいに知名度の高い話であった。


 ……ちなみにブーム中は目撃情報が一切なくなり、噂自体の信憑性が怪しまれて今は探す者はいない。


 基本的に暇な学生は噂を好む傾向があり、


「ロビーにある鎧が夜中に動いて素振りしてる」

「学園の地下には強大な空間があり日夜秘密の実験が行われている 」

「満月の夜になると学園に保管されている禁書や魔具が共鳴し合い謎の魔術が発動する」


 などと、他にも多数の噂を例として挙げたがコウはその全てに首を捻るばかりである。


 「一応俺が噂とかの話は暇な時に話してるんだけど、こいつは興味が無いことは話半分にしか聞かないし、その上仮に聞いても直ぐに忘れちまうんだ」


 「まぁ、否定はしない」


 悪びれず答えたコウにロンは白い目を向けつつ、教えるのが二回目になる噂の内容をコウに教えてやる。


 「リーネちゃんに関する噂なんだけど、簡単に言うとよくない噂が取り巻いてるんだ」


 ロンがそう言うとリーネが一瞬辛そうな表情を見せたので、コウは目で大丈夫か問いかける。それに対してリーネはぎこちないながらも小さく微笑む。

 それを確認してからコウはロンに問いかけた。


 「それで、その内容は?」


 本来なら本人の前で話すことでは無いのかも知れないが、そもそも話を持ち出してきたのが本人である。せめて本人の口から言わせるのは避けようというのがロンの配慮でもあった。それを察したコウは言いづらそうにしているロンをフォローする気持ちで促すのであった。


 「どうでもいい物を合わせると数がかなりあるんだけど、絶えず囁かれ続ける噂がある」


 ロンはそこで一旦区切り気持ちを落ち着けるように一息吐いてから言葉を続けた。


 「リーネ・ヴァルティウスに近づいた者は不幸に見舞われる」


 その言葉がロンの口から出るとリーネはスカートを、アヤは拳を強く握った。2人の姿を見ながらコウはロンに目で話を促す。ロンも静かに頷き詳しく話す。


 「この噂は身も蓋もない適当な噂ではなくて、実際に不幸……というか被害にあった生徒がいるんだ」


 ロンによると中等部の頃に、授業でグループを作り学園外に出て課題をこなすものがあったらしい。この頃のリーネには噂などはなく、対人関係に不慣れながらも容姿や優しい性格がそれを補い、周りにはたくさん人が集まっていたという。そんな中、授業の際にリーネ達のグループが移動している時に魔物に遭遇したり、盗賊を名乗る集団に襲われ怪我をしたりする生徒が出てしまった。

 最初の内は事故だとか、普通に不運だとされ処理されていたのだが、ある時生徒達は気づいた。それは………


 「怪我を負ってしまう生徒が出た事件・事故に毎回リーネちゃんという存在があり、また何度もあった事件、事故に巻き込まれながらリーネちゃんは負傷したことがないんだ」


 そして生徒達はこう考えてしまった。リーネ・ヴァルティウスは不幸を呼んでいる。または不幸を起こして周りを巻き込んでいるのではないのか? と。

 その考えに至った生徒達の態度は激変した。端整な容姿に群がっていた者達はリーネが誘いを断る度に、「思わせぶりな態度を取っていたくせに」と勝手なことを言い。優秀な成績を褒め称えていた者達はリーネが優秀な成績を取ると、「ズルをしたに違いない」と嫌みを言う。

 そしてリーネの周りからは徐々に人が減り、最初から側にいたアヤだけが残り、リーネの姿を見る度に噂が囁かれるという現状になった。それは今も続いている。


 「……俺が知ってる事はあくまで噂の内容だけで、実際のことは全く分からない。だけど、この噂が生徒の間でリーネちゃんに対する認識になっているのも事実なんだ」


 そう言うとロンは口を閉ざし、リーネとアヤを静かに見る。ここからは二人に話を引き渡すという事なのだろう。リーネはスカート握ったまま静かに顔を伏せていてアヤも俯いてしまっていた。

 コウはそれに対して何も言わず、冷めてしまったコーヒーを静かに飲む。

 生徒の数が増えて騒がしくなった喫茶店の一席は周りに合わない静かな重みを醸し出していた。


 「私が…。私が悪いのです……!」


 少し時間が経った頃、アヤが独白を言うように言葉を漏らし始めた。


 「二人が知っているようにお嬢様は何者かに命を狙われています。それは最近の話ではありません」


 「それはつまり、中等部の頃から続く事件、事故はその何者かによる事だと?」


 「はい」


 頷くアヤは更に言葉を漏らしていく。


 「私が…。私が未熟なばかりに有事の際にお嬢様を守るのが精一杯で、周りの生徒を守ることが出来ず、結局はお嬢様を苦しめることに……!」


 リーネが怪我をしないことに対する疑問の答えは簡単……。本当に簡単で単純な事であった。その真相はリーネを守る盾がいつも側にいたからだった。


 悔しそうに俯くアヤであったが、静かに近づいていたリーネがアヤの頬に優しく包むように手を添えて顔を上げさせる。


 「お嬢様…?」


 「アヤ。俯かないで下さい。あなたが俯く理由なんてないでしょう? だって私はあなたのおかげで怪我一つ無く今日まで過ごせたのだから」


 「しかし!」


 「アヤ、いつもありがとう」


 そう言ってリーネは大切な宝物を扱うようにアヤを抱きしめた。


 「っ!! も、もったいない… お言葉です……」


 コウの位置からでは二人の表情を見ることは出来なかったが、アヤの声は震えていた。



 コウとロンは何も言わずに姉妹のような、親子のような二人を黙って見守っているのであった。




 「み、みっともない所を見せました」


 しばらく抱き合っていた二人だが、アヤがコウ達が見ているのに気づくと慌てて恥ずかしそうにリーネから離れる。その様子を見てリーネはおかしそうに微笑んでいた。


 「いやー、アヤの方がしっかりしてそうな感じだったけど、実はリーネの方が姉役だったとは……」


 「自慢の妹です!」


 コウが微笑みながら言うとリーネも悪のりに付き合う、それをアヤが顔を赤くしながら話を変えようとする。


 「そ、そんなことよりグループ登録の話……を?」


 そこでロンが下を向いて表情が窺えないような状態でプルプル震えている事に、アヤが気づいた。


 「ど、どうしたんだ?」


 普段道理のアヤならそれを無視したのだが、少々感情が高ぶっていたこともあり話しかけてしまった。


 「…わ……い」


 「うん?」


 「アヤちゃん、可愛いいいいいいい!!」


 「えぇ!?」


 そして、いきなり叫んだかと思うとロンがアヤに飛びつくように抱きつく。


 「アヤちゃん、マジ可愛い!!もう、くぁわいぃ!!」


 「ちょっ! 貴様! なんだ、この、離せぇ!!」


 本当ならいきなり飛びついてくる輩などカウンターで沈めるアヤなのだが、今回ばかりはテンパっていた為に反応出来ずにロンに抱きしめられてしまっている。


 「俺の胸で泣きなああああ!?」


 「っ!! いい加減にしろーーー!!」


 頭突きをしてロン一瞬怯んだところ、隙を逃さず掴み豪快に投げ飛ばすが、ダメージが無いとばかりに直ぐに立ち上がるとロンがアヤに迫る。


 「この愛は無敵!!」


 「何なんだこの耐久度は!」


 アヤが少しだけ涙目になっていた。ちなみにロンの耐久度が高いのはコウがいつも投げたり、蹴ったりしてるためだったりするのだが、アヤがそんなことを知っているはずが無かった。


 二人のじゃれ合い(?)を少し離れたところに避難して見守るコウとリーネ。流石にここまで騒ぐと認識阻害の魔術など意味など無く、すっかり生徒達の注目を集めていた。


 「元気な奴らだな……」


 コウが二人を見た素直な反応を口にする。それをリーネがおかしそうに笑い頷く。


 「本当にですね。アヤがあんなに元気なの久々に見た気がします」


 そして表情を硬くすると、リーネがコウに問いかけた。


 「もしあの時、私の噂を知っていたら同じように助けてくれましたか?」


 あの時というのは言わずもがな初めて会った時の事だろう。


 「……避けられるリスクは遠回りしてでも避けるって言うのが俺の考え方だ」


 「っ! そう、ですよね……」


 問題に巻き込まれるなら手を引く、これは卑怯なことではない。むしろ賢い選択とも言えるだろう。コウの答えは間違っていないし、リーネもそれを間違いだと思わない。


 「……私たちとグループ登録をするという事はどういう事なのか、噂の話で分かっていただけましたよね?」


 「あぁ、間違いなくリスクを背負うことになるだろうな」


 「はい……」


 少し浮かれていたかも知れないとリーネは思った。


 正直、今まで同学年……。いや、学園でリーネ達の問題に巻き込んで無事に済む生徒はいないと思っていたのだ。

 そこに現れたのがコウという未知数ながらもかなりの実力を持った存在が現れたのだ。だから、頼れると期待してしまったのかも知れない。

 アヤも毎度怪我を負いなが自らを助けてくれているが、そろそろ限界が近いとリーネは思っていた。 何度も何度も襲われるうちに、敵の質が上がってきており、アヤ一人ではきつくなってきている。


そして何より、限界なのは傷を負いながらも守ってくれるアヤを見る自分自身であった 

自分なんかを身を挺して守ってくれる健気なアヤが傷ついていくのを見ているのが精神的に限界に近づいていたのだ。

 自分で勝手な話だと思った。言い方を変えればアヤを負担に思っているのだ。


 そんな風に自重気味に考えに耽っていると、コウがポツリと言葉を漏らした。


 「グループ登録の話だけどな」


 「はい……」


 リーネはゆっくりと目をつぶる。思えばこの数日は楽しかった。コウに出会うあの日まで、毎日いつ来るか分からない襲撃に怯え心休まらない日々を過ごしていた日々を考えるれば、本当に楽しかった。

 何より実力抜きにしてもコウという存在と過ごした時間は、リーネの心を暖かくしてくれた気がした。噂を知らなかったという理由かもしれないが、普通に接してくれ、不思議な安心感を与えてくれた。


 しかし、それもこれから終わる。


 「まぁ、いろいろ考えた結果だから、恨みっこ無しで」


 「はい……」


 笑いながら話すコウを見て、リーネはやっぱりこの人は優しい人だと思った。噂を聞かなかった時と同じような態度で接してくれるのだから。


 「これからもよろしく。グループ組んでも表向き活躍できないが最善を尽くすからな」


 「はい……」


 明日からこの暖かみに触れることが出来ないと思うと、寂しいという気持ちも確かにある。しかし、この人を巻き込まない事で危険から遠ざけることができるなら、それはそれで良いのかもしれないと。リーネが心の内でなんとか前向きになろうと――――


 「はい?」


 (コレカラモ ヨロシク?)


 リーネの聞き間違いでなければ確かにそう言ったように聞こえた。


 「え、コウ? あのよろしくって?」


 「ん? だからグループ登録だよ。自分で言ったんじゃないか」


 おかしな奴だな、とコウが笑うが、リーネは完全に混乱していて同じように笑う余裕なんて無かった。


 「あれ……。恨みっこ無しって……」


 「ロン曰く、俺って結構無茶苦茶らしいけど、今更キャンセルは無理だからな? 後々恨んだりするなよ?」


 「リスクは避けるんじゃ……」


 「こんな巻き込まれて面白そうなこと何で避ける必要があるんだよ」


 笑いながら答えるコウを見て、リーネは思わず腰が抜けたかのように座り込んでしまう。


 「おい、大丈夫か?」


 コウが笑いを引っ込めて急に座り込んだリーネを心配そうに見つめてくる。その顔を見てリーネは思い出した。なんで忘れていたのだろうかと思えるほどだった。

 

 言っていたではないか。

 

 「 助けるのが困難な命でも全力で助けようって決めてる」


 そんな人が危険を避けて行くわけがない、そんな人がリスクを考えて行動する訳がないでないかとリーネは今更になって思い至った。


 「おい! 本当に大丈夫か?」


 リーネが反応を示さないので座り込んだリーネに目線を合わせるように自分も座り、肩に手を置き揺さぶりながらコウが周りにいる生徒の注目を集めるのを気にすることなく強く呼びかけてくる。


 「だ、大丈夫です。ちょっと緊張がなくなったら立てなくなっちゃって」


 「……持病とか持ってないだろうな?」


 コウが真剣な目でリーネの目を見ながら問いかけるので、本当に持ってないことをアピールするために目を見ながら何度も頷く。

 それで、やっと納得したのかコウが呆れたように笑うと軽くこづいて笑いかける。


 「まったく、いきなり心配させないでくれよ」




 遠くからロンとアヤの元気な声が聞こえてくる。どうやら喫茶店を抜け出し騒いでいるようだ。リーネはそれを聞きながら、長らく感じていなかった本当の安らぎを感じるのであった。








 ※著者が最近後書きを愚痴を書いたりするところみたいな考えを持っているので、暇な方だけ見ることをお勧めします;;




 秋風を冷たく感じ、本格的な秋を感じる今日この頃。

 皆様、いかがお過ごしでしょうか。


 うましかです。


 前話からまた間が空いてしまいました。

 というのも、今回ばかりはちゃんとした言い訳を用意しました。

 それは……。受験と中間考査でした。

 これなら仕方がないですよね!


 ……スケジュール管理をしっかりしていれば余裕で書く時間を作ることができる?

 

 返す言葉がありません


 といっても、この二週間弱?何もしてこなかった訳ではありません!

 ここまで読んでいただいた人なら分かると思いますが今回の話、非常に長いです。(自分的に


 何でこんな長いかと言うと、時間を見つけては少しずつ無計画に書いていたらここまで膨れてしまったという駄目理由です。はい。


 本当に駄目人間ですね;;


 上下に分かれた話を書いたのに続きを書くのが遅くて申し訳無いです。

 自分の駄文なんかを温かい目で見に来ている方が待っていてくれたようなので本当に自分の駄目っぷりを感じております。


 窓を開けっ放しにして寝たら風邪を引いてしまい、しんどい受験と中間考査を経験した うましか でした。


 ……あれ、風邪を引いたって事はバカじゃないいのかな?(バカはバカ



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