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第十話:喫茶店で その1

拙い文章ですが暇つぶしに貢献できたら幸い。


 ホームルームも終わり、待ち望んだ放課後を満喫する生徒達。

 友人と駄弁る者、静かに本を読む者、昼寝するために寮へと向かう者。

 各々が自由を謳歌する中、コウ達一行は学園の敷地内にある喫茶店へと来ていた。


 クライニアス学園にはガルバシア王国に属する様々な国から生徒が集まってくる性質から、寮住まいの生徒が多く、長いこと住むことになる学園でストレスを感じることの無いように、学園の学舎にして象徴とも言える〔パースライト城〕を囲むように様々な施設が存在する。

 コウ達のいる喫茶店を初めとして、学生には欠かせない学食や購買、鍛錬の場であるグラウンドなどはもちろん、雑貨屋もあれば本屋や食品店、魔術用品を取り扱う店もあれば武具を置いてある店もある。

 流石にロンが欲しがるようなカラクリ道具や乙女の欲しがる、ぬいぐるみといった物はないが、それらは外出許可を取れば街に買いに行けることになっている。

 

 店によってはその場で直ぐに買うことが出来ず、注文してから後日手に入れる、という形式の所はあるが高望みしなければ欲しい物はほとんど手に入ると言ってもいいだろう。


 そんな風に集められた店の一つである喫茶店にコウ達はいた。

 周りを見るとコウ達の他に放課後の憩いの場として喫茶店を利用している者達や、待ち合わせをしているのかチラチラと時計を見ている者など数は少ないが生徒達が和やかに過ごしていた。


 「流石にこの時間は結構空いてるな」


 コウがそう言うとメニューを真剣に見ていたロンが一瞬顔をこちらに向ける。


 「だねぇ。今日は昼飯の前に授業が終わったから、みんな学食とか購買の方に行ってるんじゃないのかな」


 そう答えると再びメニューへと目を向けるロン。

 どうやらこの男は奢りということで遠慮無く高いものを頼もうとしているようである。


 「……あんまり高いのは無しだからな」


 一応釘を刺しておくが、返事がないところをみると効果は期待できなさそうであった。

 コウが財布の残金を確認しているとホームルーム後からずっと黙っていたリーネが意を決したかのようにコウに話しかける。


 「あの、コウ…」


 が、どう切り出したらいいのか分からないのか言い淀んでしまう。

 その様子から聞きたいのであろう内容を察してコウの方から切り出す。


 「なんで俺が成績最下位なのか、だろ?」


 コウが言うとリーネ、それから同じように黙っていたアヤが頷く。

 遠距離から魔術を使いリーネを守り、素早い動きで魔物を駆逐したその腕が成績最下位だというのは冗談を聞いているようなものである。

 

 「コウの動きは優秀と言われている生徒と同等、あるいはそれ以上のものだと感じました」


 「少なくとも成績最下位の者の実力ではないですよね?」


 リーネに次いでアヤが聞く。

 アヤはコウの実力の片鱗しか見ていないのだが、リーネの認識を否定せずにそのまま受け入れる。

 そこにコウは二人の信頼関係が窺える、と密かに思うのであった。


 二人は緊張した様子でコウの答えを待っており、コウの口が開くのを見逃さないと言わんばかり凝視していた。

 

 そしてコウが口を開く。


 「二人は何も注文しないのか?」


 「……………」


 あくまでマイペースなコウに二人は呆気に取られ、流石に文句の一つでも言おうと口を開きかけるが、二人の前にコウがメニューを突きつけるように出すと渋々といった様子で受け取る。

 

「コウ! 俺はこの昼限定スペシャルサンドとパフェな!」


 先ほどの緊張した空気をものともせずにメニューを決めていたロンに、リーネは力なく溜め息をつき、アヤは視線でロンを抉るかのように睨み付ける。

 

「ぇ…。何!? なんで俺睨まれてるの!?」


 どうやらメニューに集中していたせいで二人の様子に気づいていなかったのか、現状の把握が出来ずにロンが慌て出す。

 それを横目にコウは一応注文が決まった様子の二人を確認してから店員を呼ぶ。

 各自、店員に自分の注文を伝えた後、少しの間が空いた。

 リーネとアヤはコウの見たまま喋らず、ロンはアヤと昼飯を一緒に過ごしているという事実に、今更気づき無駄に緊張して固まっていた。

 食前に来る各自が頼んだ飲み物を店員が持ってきた後、コウが静かに口を開いた。


 「とある人物との約束、いや契約と言ってもいいかもしれない。学園に属している間は実力を隠すように言われてる」


 今にも痺れを切らしそうだったリーネとアヤは、コウの言うタイミングが不意打ち気味だったせいか、一瞬把握できていないようであった。

 最も不意打ちでなくても、同じように直ぐには理解できなかったかもしれないが。


 それに構わずコウは続ける。


 「とある人物の詳細は言うことはできない。それも契約の一つにもなっているし、隠している理由も言えないことになっている」


 何か質問あるか?と締めの言葉を言うコウに、リーネとアヤの二人は思わず黙ってしまう。

 その様子に先ほどまで石像のように固まっていたロンが苦笑しながらコウに言う。


 「何か質問あるかって、大体の聞きたいことはお前が全部言わないって言った後だから聞きづらくもなるだろうよ」


 二人がロンの言葉に肯定するように頷くとコウは困ったように笑う。


 「まぁ、いきなり言われたらそうだよな。でも、それ以外の質問なら答えられるから頑張ってくれ」


 何処か投げやりの言葉に更に混乱しているアヤの横で、リーネが考え込むように顔をしていた。


 「どうした?」


 それに気づいたコウがリーネに問いかける。


 「い、いえ。何でもないです……」


 慌てたように言葉を濁すリーネをアヤとロンが不思議そうな顔で見つめる。


 「本当に何でもないです……」


 何処か寂しそうな、辛そうな顔をするリーネにコウが静かに問いかける。


 「俺が何処かの国の密偵ではないかと疑ったか?」


 その言葉にアヤがハッとさせられる。

 現在ガルバシア王国はとある問題を抱えていた。

 それはグランスウォール大陸南にあるヴィリアス帝国と何度か小競り合いが生じていることだ。

 今は互いに無理矢理な正当性を主張して大きな問題に広げないようにしているが、それもそろそろ限界が近く、戦争になることも囁かれているくらいであった。

 その現状のためかヴィリアス帝国からはもちろん、他に存在する国々からもどちらが優勢かを調べるために、密偵が幾度も放たれているのであった。


 そしてコウは実力を隠していて協力者がいるような事を言っており、詳細を話すことは出来ないと言う。

 普通に考えれば、自分からそのようなことを言う密偵などいないが、現状が現状のために疑うのは致し方がないといえた。


 「いえ! コウを疑うだなんてそんな……」


 そう言いながらも最後の方は声が小さくなってしまうリーネであった。

 そのせいで、否定の言葉は無意味と言えた。

 せっかく友人になれた者を疑うのは心苦しいと感じているのだろう。

 言葉を返せずに俯くリーネに変わってアヤが質問する。


 「自分からそのように言い出すからには身の潔白を示す物がある、ということですか?」

 

 口調などは先ほどと同じようではあるが、態度には警戒心を露わにしており、いざというときは直ぐに動けるようにだろうか静かに身じろぎをする。


 「いや、無いが? ついでに学園に登録してある俺の情報は大体が偽装だしな」


 コウが何てこともないように普通に言うと、アヤが更に警戒の色を強くする。

 緊張がその場を支配する。


 ロンがまさか、このようなになるとは想像できていなかったのと、ほんの10分くらいに味わっていた青春色の緊張とは真逆の緊張感のせいで固まり、コウがアヤの睨むような視線を飄々と受け止めていると、リーネが口を開く。


 「アヤ、コウに失礼です」


 「ですがお嬢様!」


 「アヤ」


 リーネが二度名前を呼ぶと渋々といった感じでコウから目をそらすが、警戒した様子まで消えることはなかった。

 その態度を再度窘めようとするが、こちらのほうを優先した方が早いと判断したのかロンに問いかける。


 「ロンさん、貴方とコウのお付き合いはいつからですか?」


 まさか話を振られると思っていなかったようで、固まっていたロンが慌てて答える。


 「コウとは高等部の一年からの付き合いです! こいつは高等部から学園に編入してきました!」

 

 何故か敬語で答えるロンは置いておき、その答えが決定打となったのかアヤは立ち上がると、いつでも動けるように重心を低くし身構える。

 

 クライニアス学園に通う生徒の大多数は中等部から高等部へと上がった者達で、高等部から編入してくる者などほとんど居ない。

 それは中等部から通して基礎過程をクリアさせ、高等部二年から選択授業を学ばせてエキスパートを作り上げるクライニアス学園の特性を考えると当たり前と言えた。

 クライニアス学園の他に騎士や魔術師を育てる機関が存在しない以上、それなりの実力無しで編入など不可能なのである。


 「アヤ、失礼です、座りなさい」


 「しかし!」


 再び注意され、抗議の声をあげるアヤであったが、リーネが静かに見つめることで嫌々といった様子で席に着く。

 最近になって、と言っても1年前ではあるが学園に来たばかりということで更に疑わしくなったのも事実である。

 アヤの態度は過敏ではあるが納得できるものであった。


 「コウ」


 対照的にリーネは落ち着いた様子でコウに問う。

 それに対してコウは喫茶店に入った時から変わらない態度で接する。


 「なんだ?」


 コウはこの時、追求の言葉を言われると予想していたのだが、リーネが言ってきたことは予想とは違うものだった。


 「何故あの時、私を助けてくれたのですか?」


 あの時というのはもちろん、魔物―――ドリーク達に襲われていた時の事なのだろう。

 

 「コウは私が学園の生徒だと分かっていながら助けてくれましたよね? 実力を隠しているなら助けないほうが良かったはずです」


 正確にいうと学園の関係者だろう、位にしか推測していなかったのだが、それは問題ではなかった。

 確かに成績最下位の生徒を演じている以上、ドリーク達を簡単に倒したのは疑問に思える点である。

 仮にリーネを放っておくのが良心を痛めるという理由で助けたとしても、成績最下位を演じる者としてのやり方があったのではないか、ということだ。

 アヤはリーネを助ける際に魔物から逃げたと聞いていたのだが、リーネの物言いから魔物を倒したのだと察した。

 

 リーネとアヤの視線をポーカーフェイスでコウが受け止めていると、場違いな事に吹き出すのを堪えている者がいた。


 「ぷっ、くっく」


 場の空気の重さに固まっていたはずのロンであった。

 その態度にすかさずアヤがロンを責める。


 「貴様! 何がおかしいのだ!」


 いつもなら直ぐさま謝るロンであったが、今回ばかりは本当に笑いを堪えられないといった様子で答える。


 「だ、だって、コウが今ポーカーフェイス作ってるのは助けた理由を真面目に言うのが恥ずかしくて言えないからだぜ、きっと」


 「えっ……?」


 あまりに予想外の言葉にアヤが一瞬素に戻ってしまう。

 すかさずコウが反論する。


 「別に恥ずかしがってる訳じゃない。言っても信憑性が薄いだろうという点を考えると、どうしたものかと考えてただけだ」


 そう言うコウには確かに羞恥の色はなく、むしろ本当に困っていたようだ。


 「なんだよ。笑って損したわ」


 そう言いながらもニヤニヤが止まらないロンであった。


 「……えっと、それで何故助けてくれたのですか?」


 急に場の空気が変わったことに戸惑いながらもリーネが聞くと、コウではなくロンが代わりに答える。

その表情は笑ってはいるが、どちらかというと微笑みといえるものであった。


 「こいつはさ、助けられる命は助ける。いや、助けるのが困難な命でも全力で助けようって決めてるみたいなんだよ」

 

 こんなに正義の味方ごっこをやってる奴も珍しいよな

 と言ってコウを見るロン。

 口調こそバカにしているが、その眼は暖かなものであった。

ロンの言葉を聞いたリーネがコウを見ると、どこか居心地が悪そうに眼を逸らす。


 「……自分でも偽善だと分かっている。だけど絶対に妥協しないと決めたことだからな」


 その言葉には強い意志が込められている。

 リーネはそう感じ、アヤの方を見るとそこに警戒心というものは無くなっていた。

 そしてコウの方を向くと微笑みながら今の気持ちを伝える。


 「コウ、あの時は本当に助けてくれてありがとうございました!」


 そしてアヤの方を見ると、その視線に後押しされたのか勢いよく頭を下げる。


 「コウ殿! 先ほどの失礼な態度、誠に申し訳ございませんでした!!」


 思わずテーブルに頭ぶつけ、派手な音を立てたがそれでも頭を下げ続ける。

地面に額をこすりつけて謝ると言うが、これはそれのテーブル版といえた。

流石にコウはそれを止める。


 「いやいや、そんな本気な謝り方しなくていいから。というか、さっきの言葉のやり取りの何処に疑いを晴らす要素があったんだ?」


 困惑しながら止めるコウとその言葉が聞こえていないかのように謝るアヤ。

 そんな二人のやり取りを見ているリーネとロンは微笑むだけで止めに入らず、結局やめさせるのに数分かかってしまうのであった。

 

 ちなみに、先ほどのやり取りで疑惑が晴れた理由、コウが自分の決心を話す時に見せた表情が、優しげであるが強く揺るぎないもので、その真っ直ぐな姿勢が悪しき者を連想させるのが不可能なレベルだったという当事者にしか分からないような理由なのだが、それを知る日をコウが迎えることはなかったのであった。




 「本当に申し訳無い……」


 「いや、それはもういいから…」


 最後にもう一度、といったように謝るアヤにコウが疲れたように言葉を返す。

 その様子を見て再び笑うリーネとロンを恨めしそうにコウが睨む。


 「というか二人も笑ってないで止めに入れよ……」


 「だって見ていて本当におもしろい絵だったからな。普段のコウからは想像できない慌てようだったし。ねぇリーネちゃん」


 リーネは返答に困ったように笑うだけだったが、否定しない所をみると同じような感想らしい。

 その様子を見て、疲れたように溜め息を漏らすコウだった。


 「それで他に聞きたい事は何かあるのか?」


 コウが漏らした溜め息に言葉を乗せるように聞くと、リーネが少し思案しているかのような表情をつくり、アヤの方を見る。

 アヤが頷くの見ると、コウの目を真っ直ぐに見ながら口を開いた。




 「コウ、ロンさん。私たちとグループ登録をしてくれませんか?」





 その言葉を切っ掛けとして自分の行く末を決め定める“何か”が動き始めたのをコウ自身はもちろん、誰もが気づけないのでいたのであった。







 最近涼しい風が吹き肌寒くなってきました。

 夏から書き始めたこの話も気づけば第十話目ですね。

 この第十話は、自分が今まで書いた中で一番長い話となっています。

 これは第十話目!という事で気合いを込めて書いた為にこうなりました。


 ……などという理由はなく、三連休を利用してダラダラと書いていていたらこのような結果になってしまいました。

 しかも、その1とか…

 続ける気満々ですよ…

 書く度に自分の暴走癖が酷くなっている気がします。

 予定道理に書ける日はやってくるのでしょうか……


 いつもより長いだけあってか誤文字などが、かなり多かったです。

 何度も見直しているのですが自分で書いた文章なぶん、気づきにくい感じがあるので、誤字・脱字があるかもしれませんが、そこは生暖かく駄目出ししてもらえると嬉しいです……

 もちろん、自分で全ての誤字・脱字を直す努力をする所存であります。

 人任せで、本当に駄目人間な うましか でした。


 気温や天候の変動が激しい季節なので風邪を引く事の無いように、皆様お気をつけ下さい。




 P.S

 久々にアクセス数を見たら、二万を超えて三万アクセスを超えていました。

 思わずサイトのリニューアルが原因のバグなのかと思ったくらいです。(実はその説を捨てきれていなかったり

 これも毎度ながら皆様のおかげだと心から思っています。

 本当にありがとうございます!!

 机の前でぷるぷるさせて貰いました!



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