第一話:学園への帰り道
【重要】
この物語は現在改訂中でございます。
初めてお読みになる方は、二度手間になりますので、「改訂後 第二十一部 第〇話:開幕の話」から読み進めて頂くことを強く推奨致します。
剣と魔法が交差し、この世界に住むすべての生き物が生まて降り立つ大陸『グランスウォール』
険しい山や深い森、青々した平原と言った様々な顔を持つこの広大な大地には、人や魔物といった様々な種族が多様に存在している。
大陸グランスウォールにある、ウィールス平原。
野生化した芝が奇麗に敷いたように続いており、所々に花や木といった様々な植物が自由に生息している平原である。
日が1番高い時間にその平原を緩やかな速さで動く荷馬車があった。荷馬車には二人の男が乗っていた。
「ふんふん〜ふん〜♪」
人影は二つとも男のもので、一人は襟の縁が青いローブをを着ており、上機嫌そうに鼻歌を歌いながらガラクタをいじっていた。二人目の男も、同じローブを着ており、上機嫌な男と対照的に項を垂れながら隣に座り、馬の手綱を引きながら
「はぁ…」
と、溜め息をついている。
「なんだよコウ。溜め息なんかついて、もうすぐ学園だから元気出せって!」
溜め息をついている男、コウ・クラーシスに陽気に話しかける男。
名前をロン・スティニアと言い、顔はそれなり整っていて、貴族であるため金もあり、女の子大好きでよく変態しているが、気さくな性格のせいか友人も多い。
多少強引なところもあるが、それに嫌気さがでないのはこの男の魅力だろう。
現にコウは、休日の学園寮で寝ていたところをたたき起こされ、こちらの抗議を聴かずに半強制で空の荷馬車に乗せられてしばらくしたら、「まぁ、いいか」位の気持ちにはさせられていた。
行きまでは・・・。
「お前さ、なんでこんなガラクタ運びに俺を付き合わせたんだ?」
振り返りつつコウは溜め息と共に言葉をもらす。
そこには大量のガラクタの山。
文字通り山である。
屋根のない荷物を乗せるだけの荷馬車に、これでもか!というほどガラクタが積み上げられていた。
コウの愚痴を聞き、ロンは口を尖らせる。
「ガラクタとは何だガラクタとは。これは宝の山だ!!」
「いいや! ガラクタだね!! むしろゴミだろ!」
「ガラクタならまだ使い道がありそう感があったのに、ゴミ呼ばわり!? テメェの目は節穴なんだよ!!」
そう叫び、先ほどから弄んでいたガラクタをコウの頬に眼前に持って行きながら怒鳴るように説明を始める。
「例えばコレだ! これはな、魔力を動力としないで動くカラクリ時計だ!」
「いや、近すぎて見えないから……」
コウは、ロンの手からカラクリ時計をもぎ取り、目を細めて観察してみる。
一般的な『物』はそれぞれによって必要な量の差はあるが、内部に組み込んである魔力石と呼ばれる魔力を溜めることの出来る石の中から魔力をと取り出し、それを動力として自らを動かすのである。
「ふ〜ん、魔力石が空になって使い物にならなくなる心配もないと?」
本来、魔力石は消費されて空になると、魔術師に魔力を注いでもらったり、魔力石そのものを交換したりするものである。
しかし、魔力石は高価な物で、時計ほどの小物を動かす程度の微々たる魔力しかない魔力石でさえ庶民には簡単に手の出せない代物である。
では魔術師に頼めばいいかというと、そうでもない 。
魔術師というのは大抵が貴族の者であり(これは魔力を扱う才が血筋に関係するからである)、貴族の人間は庶民の者を下々なる者として見下している者が多いので、仮に庶民の者が貴族の人間に頼んでも簡単には動かないという訳である。
「そう、そこだ! この時計の凄いところは魔力がいらない、つまり貴族だろうと庶民だろうと関係なく誰でも使えるって所だ!!」
ロンは興奮しながら説明する。
「使い方はだな、まずこの穴に…」
「ああ、説明はいいや。大体理解したから、専門的な内容までは興味ない」
恐らくロンがたった今指さしている穴に、右手に持っている鍵のようなものを差し入れて回し、中の仕掛けが動き出すというものだろう。
本格的な仕掛けはわからないが、そこまで興味がある訳じゃない。
「…相変わらずつまらない頭の回転だな。」
説明したかったのだろう、とても残念そうに時計をしまっている。
とゆうか、頭の回転が早いのがつまらないと言われるのは心外であった。
「まぁ、その鍵っぽいの持ちながら説明始めたら誰だって関連性には気づくだろ」
ロンがガラクタについて語り出すと長くなるので、先に想像を適当に働かせて説明をさせないのがコウの中で自然なことになっていた。
だが、ロンはこの程度ではへこたれない男であった。
今度はガラクタの山から拳三つ分ほどの長さの筒を取り出し、筒の片端に目が付くか付かないかというほど近くに持って行き、遠くを指さしながら筒の正体を説明する。
「これはなぁ!望遠鏡といって、遠くにあるものが大きく鮮明に拡大されて見えるという優れものだ!!あの看板には『ここから北クライニアス学園あり』と書いてあるぞ!」
そういって、遠くにある看板の文字を読み上げる。
看板に近づくと、看板には確かにロンの言うとおりに文字が書いてあり、本当に普通では見えない距離のものが見えるようだ。
「へぇ、遠視系の魔術なしで遠くのものが見えるなんて驚きだな」
コウが素直に望遠鏡を褒めるとロンは気をよくしたのか、さらに説明を続ける。
「うんうん、やっとこの望遠鏡良さがわかったか。しかもだ、この望遠鏡という道具の素晴らしいの所はだな」
ここでロンは一旦区切ると爽やかな笑みを浮かべ、
「魔力を一切使わないから気づかれることなく、覗きが出来ることだ!!」
などと非常にアホな事を力説した。
ちなみに、何故覗きに魔力が関係するかというと、学園の更衣室などの着替えをする場所には感知や索敵の魔術結界が施されおり、結界内を対象とした全ての術式を調べ上げ術者を探し出すもので、今まで覗きを試みた勇者達は残らず捕縛されている。
「近づいて窓から覗けば絶対に見つかるから、捕まえて下さいと言ってるようなもの、しかし遠くから覗こうにも遠視系の魔術を使えば、やっかいな結界がそれを阻む。」
ロンは拳を握り、高々と持ち上げる。
「だが時代は俺に味方した! これさえあれば遠くからの覗きを可能とし、さらに望遠鏡の存在はあまり知られていないから、ばれる可能性もない!」
ついには望遠鏡を覗きながら口笛なんか吹き始めたロンを横目にコウはため息をつく。
「こいつはこの変態な所が無かったら普通に良い奴なんだけどな……」
この男、本当に気さくで良い奴なのだが、やばいくらい女の子に目が無く。いつも女の子の尻を追いかけているイメージしか持てないのが傷である。
学園に着いたら女の子達に警告しておこうと密かに考えていると、いつの間にか静かになっていたロンが望遠鏡を覗いたまま肩を叩く。
「何だよ?」
「いや、なんかやばそう」
「はぁ?」
顔を青くしたロンが望遠鏡を手渡してきて遠くを指さす。
言っていることの意味がわからなかったが、ロンの態度が冗談では無いことを物語っており、受け取る際に交換するように手綱を渡し、黙って望遠鏡を覗くとそこには、
「……なんでまた?」
フード付きのローブを着た人が魔物の群れに追われていた。
魔物の名前はドリークといい。爬虫類を思われる体を持っており、肉食で全長は平均的に7〜8歳くらいの子供位もある。舌を口の端からチョロチョロと出し入れを繰り返しと人によっては生理的に恐怖を覚える者も少なくない。しかも、四足歩行なのに鍛錬をしていない成人男性が本気で走った時くらいのスピードで迫ってきたりと。子供だけでなく、抵抗するすべがないと大人にとっても危険な存在である。
ドリークの群れに囲まれている者はフードを被っており、望遠鏡越しとはいえ、距離がありすぎるので詳しい身長や性別などはわからないが杖を振り回して牽制しているところを見ると魔術師というところだろうか。
「数は十匹位か? なんで護衛の一人もいないんだ? 殺されたのか?」
コウは望遠鏡を覗きながら、思いついた疑問を片っ端から並べた。
そもそも魔術師が一人で戦うというのがあり得ない話であった。
大抵の場合、術を唱える前に相手から攻撃を受けるのがおちであり、基本は術を唱えている間に自分を守ってくれる剣士などを相方にして戦うものだ。
魔術師はそこそこに優秀らしく、ただ杖を振り回すだけでなく呪文詠唱を必要としない初心者レベルの魔術で杖の先に火を灯して牽制したりと、なんとか凌いでいる。
……だが、それも限界が近づいてきたようだ。
「時間をかけ過ぎたな。爬虫類ども火を恐れなくなってきてる」
コウがぽつりと言葉を漏らす。
事実、ドリーク達は自分達に向けられる火が脅威のあるものでないと気づいたのか、最初は火を恐れて遅くなっていたスピードも、少しずつではあるが確実に早めているようであった。
魔術師の方もそれに気づいたのか、大分焦っているようにみえる。
そこまで静観していたコウはようやく助ける気になったのか、隣でハラハラと、まるで自分が襲われているかのように焦っているロンに望遠鏡を返しながら顔を怠そうにしかめる。
「面倒だけど、さすがに人命が掛かってるとなると見過ごすわけにもいかないか」
「ということは助けに行くわけだな!」
良かったぁ、などと呟くロンに対してこいつは普段自分のことを何だと思ってるんだ?
などと、内心思いつつ。大丈夫だとは思うが一応確認を取る。
「お前の事だから心得ていると思うが念のため言っとく、このことは……」
ロンは最初きょとん、としていたが顔に徐々に理解の色が広がり頷く。
「安心しろ。いつもの通りにだろ?」
第三者が聞けば理解できないやり取りであったが、この二人にはそれで十分らしく、コウも頷き返し、静かに声をかける。
『そこの爬虫類に追われてるフードの奴。聞こえるか?』
その魔術師との出会いがグランスウォールの歴史に残る出会いになるとも知らずに……