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物言わぬ芸術家

やばいってやばいってやばいって!!

出たんだよ化け物が!!


は?いやいやいやアンデットだよアンデット!ゾンビとかちゃっちい、いや、ちゃっちくはないけど!ちゃっちく見えるくらいやばいのが!

あの山の向こうに屋敷あるってんで行ってみたらほんとにあって、中に入ったら・・・でたんだよ!動く鎧が!!


いや絶対中になんもないって!!金で頼んだ連中も簡単に殺されちゃってさ!!


へ?入った理由?


そりゃー・・・金目の物があるかなーって・・・


ちょっちょちょまだ盗んでないって!!本当なんだってぇえええ!!!



 『デュラハン』



 首無し騎士と呼ばれ、鎧の内側には恨みの集った魂が憑依したとか、その集合体とも言われるモンスター。



「いぇめでぐれぇええっ・・・!!??」



 一説によれば、良質な鎧に乗り移るという話もあれば



「し、死にだぐぅぅうっ!???」



 魂の質によって鎧が強固になるのではと、噂されるほどに鎧は厚く、共通して武器の扱いに秀でていた。



「こんなのがいるだなんでぇええっ!??」



 彼等の手にある剣や盾は不思議な力も宿るのか、研磨をする必要がないほどの極上品であり



「ひぇっ助けっでっぇぁ!!??」



 デュラハン狩りなる者達がいるほどに、倒して得られる物は非常に大きい。



「ま、魔法だ!!雷撃を喰らわしてやれ!!!」



 それ故に、強固な鎧に霧の様に掴めぬ霊体相手に物理的干渉で倒すことは非常に困難を極めるのだ。



『雷雲よ!!仇なす敵の頭上へ纏いて轟き落ちろ!!』



 対処法としては動けなくなるまで鎧を潰すか、遠方からの魔法による攻撃が効果的であり、安全と効率を考慮すれば後者が必須となるだろう。


 特に鋼の鎧に染み渡るのかは定かで無いが、雷による攻撃には弱く、決して無敵というわけではない。




 仮に、鎧が成長するのだとしたら。




「なんで効かなっゔぇ!??」

「こいつっ!!魔法の鎧をぉおおぁああああ!!??」




 このデュラハンは生物では敵わない、英雄級の強さにまで上り詰めていたのだろう。







 ヒトの居ない廃墟の庭に闇夜の如き影が立つ。



 庭というにはどれも枯木に枯草で、枯れ葉は落ちて、白に覆われる。



 例外とするならば白銀に埋もれた世界に吹き出す噴水、広がる絨毯。

 そのどれもが(あか)い、(あか)い、(あか)い。



 ーーー朝焼けは 悪くないーーー



 骸が一つ、二つ、三つ、四つ、五つ・・・六つ。

 武芸の欠片も得ていない、弱き者。



 返り血を一つも浴びずに佇む漆黒の甲冑は、言うなれば腕の良い絨毯職人(殺し屋)だ。


 数度と渡り訪れる素材(ヒト)の質は毎度と劣悪ではある代わりに()()落としには丁度よかった。



 ーーーこの身が()びる 事はないがーーー



 地に堕ちる筆にしては色は単一色と品が無い。


 後脚を掴んで運ぶ、六つ分。



 一纏めにして、獄炎を浴びせる。

 そのどれもが(あお)い、(あお)い、暮夜(あお)い。



 ーーー夜空も 悪くないーーー



 生者が死に至る時、朽ちた身を燃やして弔う事で魂が浄化されるのだという。



 ーーー己が燃えても 浄化はされないがーーー



 辿った足跡を踏み返し、廃墟へ戻る。



 氷柱のようにいつ壊れるやもしれない扉を開けば・・・見渡すばかりの絵画に壺、骨董品や美術品の数々が出迎えてくれる。



 ヒトの描かれた・・・何か。

 獣を象った・・・何か。

 不思議な形をした・・・何か。



 何よりも、空を巡る太陽と青き月の中間を想わせるこの空間が愛おしかった。



 時とはなんと残酷か。

 風邪吹くたびに欠けては(めく)れ、欠けては剥がれる。



 己の屈強な拠り所()とは真逆。



 儚くて、繊細で、諸刃のよう。



 脆いヒトの作りし物だから儚く見えるのか。


 弱いヒトの製りし物だから繊細なのか。



 白銀を失われた世界に生まれる花々のような華奢な作品を、己が身では焦がしてしまう。壊してしまう。



 失うことが恐ろしい。



 ーーー恐ろしい?ーーー



 それは・・・何故か?何時からか?

 虚な中に生まれるこの気は何だというのか?



 ーーーまたも 崩されてしまったーーー



 ヒトが嫌いな訳では無い。


 美しき芸術品の数々を作り出した、ヒトの身が羨ましい程に好きなくらいだ。



 だが、来るヒト全てが価値の知らない獣と変わらない。



 ーーー価値を知りながら 何故壊す 何故盗むーーー



 直そうとは試みるが、技術に理解が至らず意味がない。



 一度だけ、頭を失ったヒトの像に己の兜を乗せてみて上手くいったと感じた時があったのだが・・・大きな問題に気づかされた。



 ーーー()が 回らないーーー



 己に首が無い事を忘れていた。

 しかも像が見れないという、大失敗だ。



 己にできる事あれば、散る赤に焦がす青。



 暁はすぐ乾く。


 暮夜が見える者はいない。



 赤から青へ。青から赤へ。


 その中間が素晴らしい。

 その狭間が美しい。

 その透間が愛おしい。



 己の拠り所()のなんと強靭で悲しき事か。



 命を散らせ(殺し)魂を焦がす(燃やす)。二手しか打てない己が恨めしい。


 ヒトに伝わる言の葉を持たない己が芸術品の素晴らしさを説く事はできない。



 ーーー口が無いからーーー



 人が恐れて逃げてしまうのだ。



 ーーー強いからーーー



 どうすれば、空虚な内側を伝えることができるのだろうか?


 己と違って、屋敷は脆い。

 いずれは空間の全てが塵へと成り果てるだろう。



 ーーーそれは 嫌だーーー



 この小さな空間を直すにはヒトの手が必要だ。

 だが・・・獣では困る。


 己は敵ではないと伝えたい。

 だが・・・この身を恐れて逃げるのだ。


 赤でも青でもない美しさを広めたい。

 だが・・・時は残酷だ。




 ーーーこの世界(屋敷)が 先に朽ちてしまう前にーーー




 その為に、己でできる事を成そう。



 赤でも青でもない方法で、成してみせよう。





  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 男が一人、女が一人、子供が一人が廃墟にたどり着く。



 3人は如何にも貧相な身なりは難民か。


 辺りは枯れ木ばかりで胃に詰める物も無ければ、(さえぎ)られては村も街にも見えないのだ。


 雪で埋もれた世の中で日差しの温もりが間も無く終える、その時に廃墟が見えて逃げ込んだのが失敗だった。



「走れ!!追いかけてきている!!」

「いやぁあああ!!」

「ごわいよぉお!!」



 美しかったであろう屋敷も昔の話。


 戸の倒れた入り口に入った中は暗がる闇ばかりが広がって視界を照らしてくれるのは割れた窓から差し込む僅かな日灯(ひあかり)のみ。



 隙間風の無い部屋を探して、二階を登った所で()は現れた。


 そこに居た・・・と言う方が正しいか。動きだしたのだ。


 入り口の横に飾られていた影のように黒ずんだ甲冑(かっちゅう)が三人へ向かって追いかけてくるのだ。



「あなた、う、上しか・・・」

「追い詰める気か・・・!!」



 地図も無い迷宮に見える扉が罠としか思えず、走り抜けた先で上へ上へとどんどん登らされていくのだ。


 このまま屋外へと繋がっているのだとすれば、翼の持たない存在を追い詰めるには恰好の場所だろう。



 だが、彼等に立ち向かう牙はない。


 鎧相手に非力な腕で挑むのは愚の骨頂にも等しい行為だ。



「登るしか、ない!!」



 鎧の足音が近寄る恐怖に抗えず生き延びる可能性を求めて三人は階段を駆け上がっていくのであった。






 必死に廊下を走り、階段を登った先には・・・当然だが、逃げ場はない。


 とうとう迫る甲冑に追い詰められた三人には飛び降りるか、手足を用いて抵抗する他に選択肢は無くなった。



 ガチャリ ガチャリと歩み寄る漆黒の死神が振り上げた禍々しい剣を振り上げるのを見て・・・子供を、女を、男が背中で庇い出す。



 硬い何かに突き立つ音が鳴り響き・・・。




 ・・・鳴り響くのだが、何も起きない。

 体に流れる汗が冷たい風に煽られるだけだ。



 男は勇気を振り絞り、恐る恐る瞳を開いて少し驚いた。


 両手で剣を地に突き立て、兜がこちらを見ているのだ。



「こ・・・殺さない、のか?」



 漆黒に染まった鎧の内に何が潜むか、いないのか。


 男の言葉が通じたのか、それとも応じたのだろうか。



 目があるのか定かでない兜の視線が男から真っ直ぐと屋上の外へと向けられる。



 女と子供も異変に気づき、漆黒の甲冑の向いた先を追いかけた先に・・・心を奪われた。




 世界を鮮やかに包む・・・黄昏を。


 枯れ木ばかりで、厳しい雪の上に立つ・・・夕焼けを。


 邪魔者1つ無い・・・美しい()()を。

 



 何を思うか、何がしたいか、物言わぬ甲冑は答えてくれないが、ただ一つだけ。



 ーーーこの景色を 見てくれーーー



 それだけは三人の心が打たれる程の堂々たる佇まいだけは・・・伝わってくるのだ。






 ある絵画師はこう語る。



 幼い頃、村を焼かれて逃れた先で見つけた屋敷に逃れた事で寒さを凌いだと。



 その屋敷の屋上から見渡す世界は絶景であり、遠くに港町が見えた事で救われたのだと。



 あまりに辺境に建てられていて住む気までは起きないが、感謝の気持ちの意を込めて・・・年に一度に美しい()()を描いた絵画を家族一緒で屋敷に届けているのだと。



 まるで墓標のようだと不思議に思うが、家主は今もいるらしい。

 奇妙に感じた住人が絵画師に聞くと、家族は微笑み家主の名を教えてくれる。




黄昏()色の芸術家』と。




 夕空のように、空虚で切ない感性を持った首無し騎士(デュラハン)



 (サビ)しがり屋の・・・はぐれ者なのだ。


屋敷ね


確かにあったねぇ

ずっとずっと昔の話さ


元は古物商の息子だかが住んでたとかね


あそこはえらく寒くて冬が長くてね

とても住めたもんじゃないけれど


そのおかげで 夕焼けが遠くまで届いてくれるからとか だったかね


結局 病気で倒れたって聞いてから 途絶えたらしくてね


さすがに今は 生きてはいないかね

うちのー おじいさんのー おじいさんの代の話なもんで

ここまでしか こんなおばあさんじゃ わからないね ひっひっひ

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