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いっしょにいましょ!

っちぃ!!なんてこったい!

逃げられちまった!


くそ こんな暗くちゃ見えやしねえよ


あのへんなガキなら見世物で高値で売れそうだったっつーのにアニキにどやされちまう!!


んまー・・・


この森からでたらあとは薮1つねえような剥げた平原だし

生き延びんのも無理だろーけどな

戻ってきたらぜってぇ一発憂さでも晴らしてやらぁ!うひゃひゃひゃ!!


とりあえず木に目印でも付けっかー がりがりーっとな!


迷う前にアニキんとこに



は?な なんだお前ら ちちちかよんじゃねぇ!!!



ぎぃぃゃあああああああああああああああああぁぁあああっっっ!??????



 『ドライアド』



 人の女性を模したその姿は見目麗しく、一説では木の精霊と称されているモンスター。



 だが、木に宿り、木と共に育つ彼女たちに一度敵意を向けてしまえば恐ろしい化け物へと変貌し容易く刻まれ肉片へと成れ果てるという。



 ドライアド達の共通認識として、無駄に、不用意に、木を(けが)しては切り倒す者の多い人間という種族には憎悪しかないが、テリトリーから逃れることができればそれ以上襲ってくることがない。



 人々はそんなドライアド達を容姿や自然を愛する女神と崇める者もいれば、木の化け物として畏怖する者もいるとか。



 大自然の化身とも言えるドライアドにも、大樹と種子のようにただ無意識に育つだけでなく、親と子のように教えを説きながら成長していく知恵と意志を持っていた。




 ・・・とは言ったものの。

 とある川辺で育ったそのドライアド。



「チョーうチョサン♪ハ〜チサン!お〜ハヨぉ〜〜♪♫」



 ()がつくほどに()()だった。



 若木に宿るその容姿は『少女』のように幼く、(やわら)かで、雛菊(パンジー)のように愛らしかった。



「あタマノおハナーおいシイー?おいシイ〜??あハハ♬あハハ♪♫」



 魅惑に寄せられ飛び交う虫達が少女の友人、(つの)って育った花達は少女の隣人。



 花畑(のーてんき)なはぐれ者がそこにいた。



 川が近くにあったから、森が近くにないからか。


 こんなか弱い少女が生き延びたのはそんな理由だけではない。



「ぁ!ぁワワワ!ワワワ!!」



 くーるくる回って遊んでいたかと思えば一瞬にして少女は若木の宿へと取り憑いて、若木の周囲に影はない。


 そこは流石のドライアドか、(すぐ)れた知覚で何かに感付き少女は見事に擬態をする。



 警戒だとか隙を見て殺そうとか、獣のようなそんなんじゃなくて、ただの恥ずかしがり屋なのだ。

 アホのくせに。




 少ししてから姿を見せたのは・・・ヒトの子。

 それも若い、多分男の子。



 ・・・!!



 少女は根元で仰向けになるその姿を見て、声を出しかねない程に(こころ)の奥から揺さぶられる。



 ()(とげ)のように細長く、優雅に舞う蝶のよりも愛らしい少年の姿に心を奪われたのだ。


 

 それが一目惚れなのだと気づけないほど少女はお花畑だったが・・・、少年の体はあちこちにアザがあり、ボロボロだった。



「ふぅ・・・ふぅ」



 息も絶え絶えで、明らかに弱っているのだと気づいた少女はお構いなしに姿を現し少年の体を根で包み込みはじめたのだ。



「ナおシテあゲる!」

「ぇ、えぇえ!??」



 にゅぅっと木からヒトっぽい何かが出てきては、その足から伸びる根に絡まれて少年は慌てて振り払おうとするが、これが意外と力が強い。


 成す術なく手足が絡まっていく。



 だが、体の痛みが少しずつ引いていくにつれ、ドライアドの少女が栄養を分けて癒してくれたのだと気づいた頃には体の傷は1つ残らず消えていたのだ。

 


「あ、ありがとう」

「スゴいデショ♩♫スゴいデショ♪♫あハハあハハ♪♫」



 自身の養分を分けるなどという行為は普通のドライアド達にしてみれば自己犠牲にも等しい外法。


 この花畑(のーてんき)がそんな事を知るわけない。



「うん!すごい!!ほんとうに、ありがとう・・・!!」

「あハハ♪あハハ♪♫あハハハハハハハハ♪♫♪♬」



 初めて、それも惚れた相手に言の葉で礼を受けた少女は天にも伸びる気持ちを抑えきれず ぐるぐるぐーるぐる回り出す。



 とにかくとにかく喜んでもらおうと川辺の水をニ肢(にあし)を使って(すく)っては少年の口に運んであげたり、ただただ回るだけの踊りをしたり、調子に乗って抱きついてみたりと感極まった少女はとにかくやりたい放題。



 それでも少年は少女のしてくれる全てが嬉しくて一緒になって遊ぶものだから、枝木(ゆび)の先まで少女は幸福に打ちひしがれる。



 そうして仲良く遊んでいると、少年が思い出したかのように暗い表情となり、少女は気になり、どうしたの、と聞いてみてまた驚いた。



 ヒトであるはずの少年はヒトではなく、それが気味悪がられて襲われ逃げたこと。


 行く場所も無く、帰る場所も無い。



 少年は一人ぼっちだったのだ。



 日が(うえ)に、日が(した)になったとしても。

 ずっとずっと、遊んでいたい、一緒にいたい。



 じゃあ、それなら簡単だ。



「ココデいッショニ クラシマショ!」



 もしヒトが現れたら、葉っぱで隠してあげる!


 もし怪我をしたら、根っこで治してあげる!


 もしお腹が空いたら、実を分けてあげる!



 だからね?



 ずっと、ずーーーっと、一緒にいてね!





  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 遠い昔。



 名の無い平原に伸びた一本の若木は大樹と成りて、森を産む。



 大樹の(かたわ)らには見る者全てが見惚れてしまう長耳(ながみみ)の男がいたという。



 (おお)きく。

 (たか)くて。

 (よご)れることなく。

 


 少女と少年は(より)そい、愛が実って(はは)となる。



 (ささ)えて(さか)えて、育ち実るは柛実(まこと)の愛。



 少女(若木)であった(大樹)はこう言った。



『だれもくるしまない、へいわで あらそいのないせかいを つくりましょう!』



 雛菊のように愛らしく、美しい。



 愛は森となって(つつ)まれ、二人は末栐(すえなが)く・・・森の中で暮らしたそうな。

ほっほっほ いらっしゃい

この老体にどんな御用ですかな


はて とおくにみえる森の事とな?


そうじゃなー

わしの祖父のそのまた祖父の話になるのじゃが


森の中には目が飛び出るほど美しい女性だか・・・男であったか?

長耳の者たちが住み着いておるそうじゃ


じゃが 不思議なことに真っ直ぐすすんでいるはずが

いつの間にやら森の外に追い出されているというもんじゃから

今じゃ諦めて誰も近寄らんでな ほっほっほ


村の者達は この森をこう呼んでおるよ


『エルフの里』とな

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前半の淡々とした語りからの、後半の真実が明らかになる展開に「うわぁ」(←褒め言葉です)や「そうだよね、それだよね」(←喜びの褒め言葉です)と各話で唸らせていただきました。 3話目のルビの…
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