死二ました
いつか旅行で行ったカルフォルニアのような砂混じりの薄黄色い空、天井にはめ込まれたステンドグラスから覗く光が俺を照らしている。
頰を叩かれ鼻血を詰まらせて窒息したのは夢だったのか。
石造りの教会に置かれた姿見を見て唖然とした。
まだ夢は覚めていないらしい。
ロングのメイド服に身を包み片手に背の丈程ある箒を持った少女がバカみたいな顔をして立っている。彼女の名前はメアリー、俺が夢か現実か憑依している体の持ち主である。
あの後何があったのか知らないが気づいた時には木製の椅子に座っていた。
塵しか入っていなかったばすのポケットには聖書のような小さくてページ数がある本が入れられていた。
それもいつの間に。
寝ている間に変なことされてないだろうな。
いくら自分じゃなくても夢でも意識が自分が動かしている体をべたべた触られるのは嫌だぞ。
何の為にあるのかわからない姿見の前で自分の体を確認していると、後ろで穏やかな笑みを浮かべている神父らしき人が見えた。
あの表情はあれだな。
『おお、メアリーよ、こんなところで死んでしまうとは情けない。』
だろ。……違う?知ってた。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
言葉に言い表せない頭がおかしい発言をしてみる。なんか言わなくてはいけないような気がした。
頭がおかしいと自分でわかっているやつは頭はおかしくない。すなわち少女に憑依して頰を叩かれて意識を失ってRPGのテンプレみたいに教会みたいな場所で目を覚ました俺も頭はおかしくない、むしろ正常 Q.E.D証明完了。
「おお 目覚めましたか そなたに "ノール"の 祝福が あらんことを」
変な間をとって突然喋りだした神父を放置して外に出る。
出ようとして思ったより扉が重くて開かない。ぐーと、押してみたが開かなくて、なにもかも貧弱なのが悪い、体の持ち主は肉を食えと悪態をついているとさっきの神父がやってきて扉を開けてくれた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
引き戸だった。そりぁ、あかんわ。恥ずかしい。
「いえいえ、お困りでしたらいつでも来てください」
灰色のもちゃもちゃした髭を生やした神父さんはニコリと笑ってみせた。
お爺さんなのに力あるんすね。びっくりドンキー。
「ああ、待ち為され」
そう言って呼び止めた神父は、ポケットに手を突っ込んで中から見覚えのあるコインを取り出した。
「お嬢ちゃん、大したお金じゃないが使いなさい」
控えめに言って聖人かな?
「え、あ、ありがとう、ございます」
つい、言葉を詰まらせた。
感動からじゃない、コミ症だからだ。
それでも感謝はしている。
ぺこりとお辞儀をして金銭を受け取った。
なんだかわからないけど、いい気分だ!
手を振って鼻歌を歌いながら道に出た俺は砂煙をあげながら走ってきた馬車に轢かれて死んだ。
2KILL