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それにしても…、
…皮膚が汚れる。それだけのことが、どうしてこんなに嫌なのでしょうか。それだけのことを、どうして人は厭うのだろう、激しく。
それがオニオン・スープだろうが、水銀だろうが、あさぎいろの雨垂れだろうが、糞便だろうが。皮膚に付着する不純物を皮膚自身は許したりしない。
皮膚組織というのは精妙な検閲官で、ほんの幽かな異物の付着すら閲しだしますし、また、その異端をけっして容認したりしないのです。糸のハシほどだろうと容赦しない。その厳粛さはあるいは芸術家のそれですね。われわれの肉体にピッタリ張り付いた、ストイックなアーティストというところでしょうか。
かれの神聖なる審美眼は、いま僕の前膊にクセモノを見いだしていました。
「タラリ」「タラリ」
「タラ」
「タラリ」
「タラ、タラ、タラリ」
「タラ」「タラリ」
さも歌うかの調子で湧き流れる滲出液。
不可解な現象でした。幼いみぎり、いぬにカジられた創痕から、タラリ・タラリ。
本当に嘲けるかの調子で、体液のごときものがタラリ・タラリ。…リズミカルにタラリ・タラリ…、全く…、こいつを讒罵の歌ときめつけては過言でしょうか。
これを歌とするなら、たしかに蛮声のつむぐ不協和音ですね。狂想曲、六百と六十六番、題して、往古の深傷より流れ出ずる黄色い泉のバラード。