表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

3

「お兄ちゃん、ウチの中に()()が居るんだけどさ、どうして? 拾ってきたの?」


 さて面妖な。わが感覚の教師、流菜(るな)()もいわれないことを告げるのでした。


「ヘンなことしてると、また御父さんに怒られるよ。こんな(きたな)いコを拾ってきたりして。まあ、そりゃあ確かにカワイイけど…」


 みれば、制服姿をした流菜の足下、小ぶりな黒いぬがチンと座している。

 …不可解です。ネコならばまだ有り得るでしょうが、虫か何かのように窓の(スキ)から忍び込むとも思われない。玄関の戸締りは完全にしてあるハズ。おまけに此処は四階。ちょっとしたミステリーです。


「いや、流菜ちゃん、それは誤解だよ。僕だってココがペット飼育不可のURであること位、知っている。それに僕は()()がキライなんだよ。子どものころにカジられたからね。御存知だろう?」


 僕の右前腕部には、あたかも聖痕を思わせるクサビ状の瘢痕が点々と走っています。思い出したくもないのですが、名誉の戦傷のアトというわけでした。

 ゆえに、いぬを目の当たりにすると持病とでも言うべきキズの()()()に見舞われるのですね。げんに今も、シクシク疼く。

 こんなとき、無意識にキズを(あらた)めてしまうのが習い性。僕は古傷に視線を流したんですね。すると…、


 …奇妙なのですよね。


 とうに塞がっているはずの、何年もむかしの傷跡。そこから薄黄色な、滲出液(しんしゅつえき)めいたものがニジんでいるのでした。


 すこしばかり唖然とします。


 そんな僕の感情をよそに、いぬは、


「キュウゥ」


 と憎らしいみたいに鼻を鳴らすのでした。


「カワイイね、お腹が減ってるのかな?」


 妹が相好を崩しました。…が。

 …僕にはそうは思えなかった。


 くろぐろ濡れた()に、なにやら暗黒のごときものが潜んでいるのを感じ…、

 …単純至極な空腹感、愛すべき動物的希求、そんなものを超越した(ロゴス)の所在を感じ。


 トイレの前にしばし立ち尽くしました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ