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 トイレに入ると、妹の経血の()がなまぐさく匂った。雪のように美しいひとも、このような赤色(せきしょく)を垂れ流すのだろうか、と何となく考えました。


 僕は母親くらいのひとに心こがしていました。あたかも雪のうるわしさを備え、しかし雪片をとかす月明かり(さなが)らにあたたかいひと。


 しかし、その雪も月光も、余所(よそ)の庭を飾るものでした。ありていに言えば、人妻だったのですよね。


 ふるい説話に、高嶺の花への恋着(れんぢゃく)を断ち切れない男が、意をけっして、その(ひと)(まり)を盗む、というのがあったように思います。


 いくらなんでも排泄物は(きたな)いので、それをじかの目の当たりにすれば、百年の恋も醒めよう。そうした心積もりで盗んだわけです。


 魔が差したとしか思えない。そんな話が頭によぎった途端に、自分でも不思議な、意味不明な衝動がムクムク湧き上がりました。その盗人ソックリの行動に転じていたんですね。


 僕の手はコーナーポットを開く。


 もちろん。そこにあるのは、雪のひとのそれではない。妹のものです。


 分かってはいます。が、このとき。


 僕は女という観念を断罪しようとしていたのでしょう。木をみて森を。流菜という個体から、女性(イヴ)全般を抽出し、そうして唾を吐いてやろうと。罰しようと。それでもって諦めようと。ヘンなヤケッパチを起こしたわけです。


 詳細な描写は割愛しましょう。

 (それ)について。


 だが、それはいとも美しかった。

 そう表せば十分でしょうか。


 以来。僕はそれに取り憑かれたのでした。


 形而上、吸血鬼と等しいものへ、変わり果てました。



 ✳︎✳︎✳︎



 誤解があるといけませんので、付言します。


 なにも僕は女性の肉が垂れ流す薔薇色(ヴァーミリオン)に、ただならぬ情を(もよお)しているわけではないのですね。


 あたらしい瞳をひらいたのは、血液という物質そのものに対してなのでした。



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