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トイレに入ると、妹の経血の香がなまぐさく匂った。雪のように美しいひとも、このような赤色を垂れ流すのだろうか、と何となく考えました。
僕は母親くらいのひとに心こがしていました。あたかも雪のうるわしさを備え、しかし雪片をとかす月明かり宛らにあたたかいひと。
しかし、その雪も月光も、余所の庭を飾るものでした。ありていに言えば、人妻だったのですよね。
ふるい説話に、高嶺の花への恋着を断ち切れない男が、意をけっして、その花の糞を盗む、というのがあったように思います。
いくらなんでも排泄物は穢いので、それをじかの目の当たりにすれば、百年の恋も醒めよう。そうした心積もりで盗んだわけです。
魔が差したとしか思えない。そんな話が頭によぎった途端に、自分でも不思議な、意味不明な衝動がムクムク湧き上がりました。その盗人ソックリの行動に転じていたんですね。
僕の手はコーナーポットを開く。
もちろん。そこにあるのは、雪のひとのそれではない。妹のものです。
分かってはいます。が、このとき。
僕は女という観念を断罪しようとしていたのでしょう。木をみて森を。流菜という個体から、女性全般を抽出し、そうして唾を吐いてやろうと。罰しようと。それでもって諦めようと。ヘンなヤケッパチを起こしたわけです。
詳細な描写は割愛しましょう。
血について。
だが、それはいとも美しかった。
そう表せば十分でしょうか。
以来。僕はそれに取り憑かれたのでした。
形而上、吸血鬼と等しいものへ、変わり果てました。
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誤解があるといけませんので、付言します。
なにも僕は女性の肉が垂れ流す薔薇色に、ただならぬ情を催しているわけではないのですね。
あたらしい瞳をひらいたのは、血液という物質そのものに対してなのでした。