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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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98.七日目の朝

 宿に戻って食堂へ向かうと、そこにはリエティールの帰りを待っていたかのように三人掛けの席を確保しているソレアとイップがいた。

 イップは食堂の入り口まで来て、リエティールの腕をさり気なく引き席まで連れてくると、ソレアが何を食べるかとメニューを差し出して聞いてきた。

 リエティールは戸惑いつつも、ニターグという料理を注文した。ワルクの肉と数種の野菜の上にソースなどを乗せて香ばしく焼いたもので、ソレアのオススメであった。

 やがて香ばしい匂いと共に料理が運ばれてきて、三人で何気ない話をしながら食事を進めた。そんな話の中で、ふとソレアがリエティールに尋ねた。


「ところでリー。 前に図書館に行ったが、どうだった? 読みたい本は読めたか?」


「知りたいことは大体分かりました。 ただ、知らないことがまだまだ多いので、もっとよく読みたかったです」


 リエティールがそう答えると、今度はイップが、


「具体的には何の本が読みたいんすか?」


と尋ねる。


「うーん……魔法のこととか、もっと知りたいです。 それから、生き物のこととか……」


 彼の問いにリエティールがそう答えると、イップは成る程と言いつつ首を捻る。


「魔法のことは流石においらもあんまり詳しくないっすから、教えてあげられる様な事は無いっすね……」


 イップの言葉を聞いて、リエティールももっと本が読みたくなり、小さく「明日は図書館に行こうかな……」と呟いた。するとそれを耳にしたソレアが、


「そんなに焦らなくても、王都に向かう途中の町にも図書館はあるぞ。

 明日がここでの最後の滞在日なんだろ? せっかくならもっと町を見て回るとか、ここでしかできないことをやっておいたほうがいいんじゃないか?」


と言う。そのどこか慌てた様子に違和感を覚えながらも、彼の言うことも尤もなので、明日は図書館に行かないで町の様子をもっと目に焼き付けておくほうが思い出になるだろうと考え直した。

 聞けばこうして食事を一緒にとろうと思ったのも、明日が最後であるからだという。リエティールは二人の気遣いに感謝しながら、ニターグを綺麗に平らげて部屋に戻った。



 翌朝。これがクシルブの町で過ごす最後の日の始まりである。宿の滞在日数は七日であり、今日泊まるのが最後である。別に追加料金を払えば日数を延ばすこともできるが、ペンダントも武器も完成した今となってはここにこれ以上滞在する理由も無く、できる限り早く先に進みたい彼女にとって、予定を延期するつもりは無かった。


 ともあれ、名残惜しい気持ちは無いわけが無く、特に今までよく行動を共にしてきたソレアとイップの二人と別れるというのは辛いものもあった。

 二人は初めて会った時から、目的を曖昧にするリエティールのことを少しも疑うことなく親しくしてくれた。これからの旅で必要になるであろう知識や技術も詳しく教えてくれ、先日の危機にもいち早く駆けつけてくれた。

 別段ソレアのことはまるで父親のような兄のような、とても身近な存在に思えた。たとえ彼のその優しさが、リエティールの幼さゆえから来るものだったとしても、彼が心の底からリエティールのことを思ってくれていたのだということは、言葉にしなくてもわかることであった。

 勿論イップのことも親しく思っている。初めて会った時はどことなく抜けていそうな印象であったが、今となってはソレアが最初に言った通りしっかりしており、面倒見が良い頼りになる先輩という存在になっていた。本人が意識しているのかどうかは分からないが、彼のさり気ない気遣いには幾度も感謝を覚えた。


 そのため、リエティールは今日という日は二人と一緒に過ごしたいと考えていたのだが、彼らは今日早く起きてどこかに出かけてしまったらしく、リエティールが起きて声を掛けに行った時には既に宿を出てしまっていた。

 残念ではあるが、いないのであれば仕方ないと割り切り、リエティールは宿から出て町へと赴いた。図書館には行かないが、図書館前にある広場の看板を見るためそちらへ向かう。


 広場まで来ると、看板の前にはやはり人が多く集まっていた。大きい看板は地図としての役割以外にも待ち合わせ場所としての役割も果たしているのだろう、地図を見ずに立ち止まっている人も多くいる。

 しかしまだ朝のため以前来たときよりも人は少ない。リエティールは上手く人の間を抜けて、特に苦労することなく看板までたどり着いた。

 リエティールが探しているのは以前も見たセルム商会の場所であった。セルム商会と言えば、リエティールとソレアをこの町まで乗せてきた馬車の主であるグレンデップ達の所属している商会である。

 グレンデップ達はこの町まで連れてきてくれたということ以外にも、まだドロクのスラムで暮らしていた時に服を買い取ってくれたということに対する感謝もある。彼らが今ここにいるかは分からないが、町を出る前にできれば挨拶はしておきたいと思ったのである。

 リエティールは地図の中で、この広場からセルム商会までの道のりを何度か目線で往復し記憶すると、中心のシンボルでもある役所の尖った屋根を目印にしながら、少しずつ人が増えていく道の中を歩いていった。

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