97.希少な魔操種
レビル・ビパックが沈んでいった水面を見つめながら、リエティールはなんとか捕まえられないかと考えた。貴重な氷属性ということで、命玉だけでも手に入れることができれば、いずれ何らかの役に立つのではないかと考えたためである。自分自身の役に立つかもしれないし、万が一資金難になった時には換金することができるかもしれないと思ったのだ。
となれば早速行動しなければならない。ここは川と繋がっているため、うかうかしていればビパックは川の方に逃げてしまい遠くへ行ってしまうかもしれない。
リエティールは辺りを見渡して近くに誰もいないことを確認すると、湾処と川の繋がっている箇所に手を差し入れて魔法を使役した。
すると見る見るうちに凍っていき、境目には厚さ3センチ程度の氷の壁が出来上がった。壁は水底まで広がっており、中から出るには壁を乗り越えるか壊すかしか方法は無い。
できれば水面に姿を現してほしいとリエティールは思うが、レビル・ビパックは氷属性の魔操種だ。である以上、魔法を使って氷の壁を壊そうとしてくる可能性も十分にある。水中の深くで突破されてしまうことでもあれば、簡単に見逃してしまうであろう。
そのことも考えて、リエティールは壁ができた後も魔力を流し続けていた。こうすることで魔法によって抵抗された際に、その場所が感覚で察知できるのである。
壁を作ったのは閉じ込めるというのが一番の目的であるが、それだけであればもっと魔力を消費して分厚く頑丈に作る。しかし閉じ込めるだけでは捕獲することはできないため、こうして魔力を節約しつつ、目に見えなくても感覚で位置を把握するというのがもう一つの目的でもあった。
そうしているうちに、彼女の狙い通り壁の一箇所に魔法が放たれた感覚を察知した。感じ取ると同時に、その場所の内側に向けて氷を生み出し、他の壁を消しつつ、できた氷の塊を水面へと持ち上げるように操作する。
「ピャッ! ピャッ!」
水の中から出てきたのは、氷に包まれてもがいているレビル・ビパックであった。ビパックは今も魔法で氷から逃れようとしているが、その魔力を上回る魔力をリエティールが氷に込めているため、逃れることはできずにいた。
リエティールがそれを自分のほうへ引き寄せようとすると、ビパックは逃げるのを諦めて彼女に向けて氷の礫を放って攻撃してきた。臆病であろうとも、無条件で人を襲うとされている魔操種である。逃げられないと分かれば攻撃に転じるのは当たり前であった。
その考えが抜けていたため、リエティールは不意をついたその攻撃に驚いたが、氷の礫はコートに当たるとあっさりと弾かれて地面に落ちた。当たった衝撃も殆ど無く、どうやらソレアが言っていた「駆け出しでも仕留められるほど弱い」というのは本当のようであった。「動きが遅い」というのも、どうやら移動速度だけではなく攻撃速度も含めてのことだったらしい。
それでもビパックは精一杯リエティールに攻撃を続ける。丸っこい見た目とその必死さも相まって、どこか愛らしくも感じるが、魔操種である以上手加減はできない。リエティールは心の内でそう自分に言い聞かせ、槍を構えると、その喉元に刃を突きたてた。
新しい槍は以前使っていたものよりずっと扱いやすく、切れ味も向上していて驚くほどあっさりとビパックに止めを刺した。
吊るす場所を氷で簡単に作ると、リエティールはビパックをロープで縛り吊るして、再びアカドモアレを何本か摘み取り、頃合を見てビパックを川の流水でしっかりと洗ってから、クシルブへと帰った。
ドライグに到着し、リエティールは依頼の達成報告を済ませて報酬を受け取った後、素材の買取受付へと並びなおした。
彼女の番が来て、リエティールは受付に一つの袋を乗せた。中身は勿論ビパックである。この袋は先日のソレア達との買い物の時に、あった方が良いといわれて買い足したものである。
川から帰る前に、解体しておいた方がいいだろうかとも思ったが、貴重な魔操種である以上下手に手を出して価値の高い部位を捨ててしまったりなどしたらよくないと思い、命玉だけを採ってあとはそのまま袋に入れて戻ったのである。流石にコートの内側から取り出すには不自然な大きさだったため、クシルブに入る前に魔法で作った空間から取り出して背負って持ってきた。
受付嬢は袋の中を見、それからリエティールの顔とカードを見て、もう一度袋の中身を確認した後「奥で査定をしてまいりますので、少々お待ちください」と言い、リエティールに順番待ちの番号札を手渡すと奥の部屋へとビパックを持っていった。恐らくは、リエティールのような小さく駆け出しのエルトネが、希少な魔操種を倒してきたと分かってしまうと、騒ぎになる可能性があると考えて気を使ってくれたのだろう。細々とした素材が多い場合にも奥の部屋での査定は使われるため、感づかれる可能性は低いのである。
リエティールは札を手に、結果が出るまで壁際で時間を潰すことにした。
暫くして番号が呼ばれ、リエティールは受付へと向かう。そうして受付嬢はそっと硬貨の入った袋と内訳の書かれたボードを差し出した。
袋を受け取りつつ詳細に目を通す。メインとなる命玉はリエティールが持っているため、全体の金額はそこまで高くは無かった。だが、毛皮は貴重品として人気が高いらしく、そこそこ良い値段がつけられており、他には前歯等にも値段がつけられていた。
残念ながら、強い魔操種と言うワケではないため、ヤーニッグのように右目の目玉や臓器などには値段がついていなかった。その代わりに肉には値段がついていた。
リエティールは受付嬢に感謝の言葉を告げると、ドライグを出て宿に戻った。




