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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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94.洗練されたデザイン

 今日、リエティールはその背に槍を背負っていた。ペンダントを受け取るためだけであればわざわざ持ってこなくてもよかったはずである。しかし背負っているのにはちゃんと理由があった。

 リエティールは店を出て大通りに戻った後、再び別の脇道へと入る。その道は鍛冶屋「ラエズ」に繋がる道であった。

 リエティールはペンダントを受け取った後にこちらを訪れることに決めていた。アクセサリーのオーダーメイドをした翌日に武器の注文をしたので、おおよそ武器が形になっているかもしれない、もしかすればもう完成していて受け取れるかもしれない、と考えていたのだ。


 店に到着し、リエティールはその扉を開けて中に入る。そして店の奥に向かって「こんにちは」と声を掛けると、すぐにエレクニスが姿を現した。


「やあ、君はリエティールさんか。 いらっしゃい」


 彼はリエティールを見るなりそう言って爽やかに笑う。先程見たユルックの寝ぼけた顔とは正反対である。

 リエティールも軽く頭を下げて挨拶を返す。


「……で、君が来たのは武器の完成度合いの確認のためだね?」


 エレクニスが問いかけ、リエティールは頷いて肯定する。すると彼は以前リエティールを招いたのと同じ部屋へ入るように手招きした。


 部屋に入り、リエティールは近くの適当な椅子に座るように言われ待っていると、エレクニスは奥から布に包まれた小さなものを持ってきた。彼はそれをリエティールの前にある机の上に置くと、


「槍はまだ仕上げの作業中なんだけれど、こっちは完成してるよ」


と言って布を解いた。リエティールが覗き込むと、そこにあったのは三本の短剣であった。剣を小さくしたような見た目であるが鍔が無く、厚みが薄くスラリと細めの印象を与え、刀身の部分は滑らかな曲線を描きつつ鋭く尖っている。

 三本あるのは、恐らく投げて使う場面を想定してのことであろう。一本だけだと投げた瞬間近距離戦闘の手段を一時的に失ってしまうため、一般的には短剣は複数持っているのがよいとされている。

 リエティールがエレクニスの顔を見ると、彼は目を合わせて頷き、持ってみて欲しいと言う。その言葉に甘えてリエティールは短剣を一つ手に取った。細めの柄は彼女の小さい手でもしっかり掴むことができ、きつく巻かれた布がフィット感を与え滑り止めの役目も果たしているようだ。


「どうかな? リエティールさんの手に合うサイズになるように気をつけたんだけど……」


 エレクニスにそう尋ねられ、リエティールは問題ないということを伝えると、彼はよかったといって嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 リエティールがすぐに買ってもいいのかと尋ねると、彼は勿論と答えて値段を書いた紙をリエティールの前に差し出す。そこには使用した素材の名前のようなものも書かれていたのだが、リエティールにはよく分からないため、とりあえず値段のみを確認して支払った。先日の報酬で大分潤ったため、ナイフ三本を買うくらいであればかなり余裕があった。


「槍の方は今父さんが仕上げ作業をしているけど、よかったら見ていくかい? もしかしたらもうすぐ完成するかもしれないよ」


 リエティールが短剣を仕舞ったところで、エレクニスがそう提案した。

 自分の槍が作られているところを見るということに興味がわいたリエティールはすぐに頷いて、彼に連れられて工房へと入った。


 熱気が満ちている工房の中では、彼の父である店主のニリッツが、槍のパーツを手に難しい顔をしていた。

 エレクニスに「集中しているから声を掛けないように」と言われていたので、リエティールは静かにその様子を見つめていた。ニリッツは二人が入ってきたことにも気がついていない様子で、真剣な眼差しをパーツに向けていた。


 見つめている先で、ニリッツは穂先と柄の接合作業を始めた。慎重に作業が進んでゆき、刃と柄が一つになると一気に槍らしい姿となる。

 流れるような手つきで見る見るうちに洗練された姿になっていく槍を見て、リエティールは感動すら覚えて固唾を呑み、深く見入っていた。隣に居るエレクニスも、直向な目つきで彼の作業を瞬きも忘れるほど見つめていた。


 ニリッツが動き始めてからまた更に時が経ち、ついに彼は大きく息をついた。どうやら完成したようだ。その手に握られている槍は彼の体格と比べると随分小さく見えるが、存在感のある美しい見た目をしていた。

 そこでようやく彼は二人の存在に気がついたようで、何食わぬ顔で、


「おお、いたのか。 ほら、こっちへ来い」


と手招きして呼び寄せた。言われるがままに二人は彼と槍へ近付く。

 槍の穂先は基本的な槍と同じ形をしているが、途中から片刃のようなデザインになっている。刃はなだらかに曲線を描いており、先程の短剣と似たような雰囲気を持っている。

 接合部には美しい装飾がつけられていた。翼で柄を包み込むような形は立派で、しかしシンプルな装飾はとても洗練された印象を与える。よく見れば翼だけでなくその根元辺りにも小さく繊細な装飾が施されていた。機能美だけでなくそういった美麗さにも気遣われていて、大雑把な印象のニリッツがこれを作ったとは、リエティールにはすぐには信じられなかった。


「へへ、どうだ? 中々良い仕上がりだろう?」


 自信満々と言った様子でそう言うニリッツに、リエティールは間髪入れずに肯定を返す。すると彼は心底満足げに、そしてどこか照れた様子で笑った。

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