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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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92.嬉しい報せ

 報酬が全員にいきわたると解散となり、エルトネ達はそれぞれ食事をしたり道具を買い揃えたりドライグを出て行ったりと、普段の生活へと戻って行った。

 朝に依頼を受けて出発したが、今はもう昼を過ぎていた。昼食を食べるには遅く夕食にはまだ早い時間であったため、リエティールは軽い食事をすると、ソレアとイップの買い物に同行することにした。何件かの店を回り、リエティールも先日自分で買った物に加え、彼らのアドバイスを受けながら幾つかの道具を買い足した。それからソレアの薦める食堂でお腹一杯になるまで夕食を食べ英気を養った。

 夕方を過ぎて三人で宿に戻ると、リエティールはオルへ入ることにした。相変わらずオルは空いており、リエティールは髪と体を軽く洗うと湯船の中に身を沈めた。


「はぁー……」


 少し熱めの湯の中で深く息をつく。緊張と疲労がじんわりと湯の中に解けていくような感覚に、リエティールは目を閉じてリラックスしていた。

 今日はリエティールにとってとても長い一日であった。彼女は今日の出来事を振り返り、まだまだ自分が未熟であることを思い知らされた。

 もしもあのままソレア達の加勢がなければ、リエティールは間違いなく瀕死、最悪は死亡して、ヤーニッグが率いるルボッグの群れの食料と成り果てていたかもしれない。エナには申し訳ないが、あの時怪我をしていたおかげでユーブロがリエティール達を追わずに、迷わず町へ助けを求めに行くという判断をしてくれたのである。もしもエナが無事であれば、緊急の事態に慌てて正常な判断力を失い、助けを求めずに二人を追ってしまった可能性もゼロではない。


 リエティールがピンチに陥った時、その原因はリエティールがすっかり油断してしまっていたことである。突然相手の動きが止まったことに驚き、そして一瞬気が緩んでしまった。そして、何よりヤーニッグが初めてその姿を現したた時に使っていた魔法のことをすっかり失念してしまっていたのが最大の過ちであった。

 リエティールは相手の得意技を知っていたにも拘らず、目の前のことに夢中になりすぎてその優位性を活かせなかったのだ。

 地面は全て相手の武器のようなもの。それをしっかり注意しておけば、不意に違った動きを見せた時に地面を警戒することはできたであろう。しかしリエティールはそれを怠ったばかりに、まんまと敵の油断を誘う策に嵌り、攻撃を受けてしまったのである。


 リエティールは自らの胴体をそっと撫でる。大半逃げに徹していたこともあり、その白い肌に目立った傷は無い。突き上げられた時の一撃も、衝撃は受けたが傷にはなっていなかった。しかしそれは決して戦いで優位であったことを示すものではない。幾らそこに傷が無くとも、一撃で仕留められてしまえば意味は無いのだ。

 氷竜エキ・ノガードのコートも、攻撃を受ければ守ってくれるはずだが、衝撃までは殺せない。そう考えると打撃中心のヤーニッグ達とは相性が悪い。コートに守ってもらえるからと安心していてはいずれ足を掬われる。こうした不利な相手との戦いにおける立ち回りは、今回の戦いを教訓としてしっかり考えなければならないな、とリエティールは思った。


 色々と考え、リエティールは再び深く息を吐くと、湯船から上がって替えの服に着替えた。ちなみに今回は、肌着はしっかりとしたものをちゃんと用意していた。リエティールはレウトムに、心の中で改めて感謝した。


 リエティールが袋を手に受付へと戻ると、受付嬢は袋を受け取りながら、リエティールに伝言があると言ってきた。


「リプセーヴ宝飾店のエクナゲルさんから、注文の品が完成したので受け取りに来て欲しい、とのことです」


 その言葉を聞いてリエティールはぱっと顔を輝かせた。待ちに待ったエフナラヴァの命玉サールとの再会である。

 あの日命玉を預けてから、やはりどこか寂しいものがあった。エクナゲル達のことを信用していないわけではないが、やはり早く自分の手元に置いておきたいという気持ちが抑えきれずにいた。

 エフナラヴァは彼女の大切な家族であり、なにより放っておけない大切な妹である以上、自分の離れた場所にあるというのはやはり不安であった。

 勿論、ペンダントの完成自体を楽しみにしていたという点もある。エクナゲルの描いたイメージ図の時点で、リエティールは既に感動していたのであるから、それが実物となって自分のものになるというのは期待も膨らむことである。

 なので、この報せはリエティールにとってかなり喜ばしいものであった。彼女は感謝の言葉を告げると、どこかそわそわして浮き立った様子で部屋に戻っていった。

 その後、リエティールは明日が待ちきれずに、まだ眠るには早い時間であるにも拘らずすぐに布団の中に潜り込んだ。しかし楽しみのせいで心が落ち着かず中々寝付けなかった結果、翌日は遅く起きるはめになってしまうのであった。

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