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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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85.圧倒的な力

「グゴォォ……」


 低い唸り声を上げるそれを見て、リエティールは完全に固まってしまった。ただまっすぐ自分に向けられた強い殺意に、その頬を冷や汗が伝った。

 その魔操種シガムの周りに、突き上げられたルボッグ達がボトボトと落ちてくる。地面と衝突した衝撃で即死していくが、中には低い角度で飛ばされたり、雪や他の仲間の死体がクッションとなり一命を取り留めたものも複数いた。

 巨大な魔操種はそれらを見ると、鋭く怒鳴りつけるように鳴いた。怒鳴られたルボッグ達はびくりと体を跳ね上げると、ボロボロであるにも拘らず近くに落ちている棍棒を手に取ってそれの周りに整列するように立った。


(これは、駄目だ。 勝てない……)


 圧倒的な威圧感に、いまだ十分な数のいるルボッグ達。巨大な土山を一瞬で作り上げる程の魔力の強さ。

 単純に魔力の強さや操作の巧みさであれば、氷竜エキ・ノガードの力を継いだリエティールの方がずっと上である。だが、リエティール自身が戦いにおいて未熟であり、氷竜も好んで戦いに身を置くようなことは無く、その不慣れさに加え、プレッシャーによる気後れがリエティールにけたたましい警鐘を鳴らしていた。自分では勝てない、と。


「ガアアアァーーーッ!!」


 空気を震わすような咆哮を合図に、ルボッグ達が一斉に襲い掛かる。先ほどのように正面から全員が襲い掛かるのではなく、リエティールを取り囲むように横に広がった形である。

 後方への後退を余儀なくされたリエティールは、素早く飛び退きつつ、もう使えないと判断して周囲に散らばった雪を消した。

 もしも先ほどのようにルボッグを埋めたところですぐに跳ね除けられて終わりだろう。それで上手くルボッグを倒しきることができたとして、巨大な魔操種をどうするべきか手段が思いついていない。

 駄目で元々、とリエティールは一番最初に仕掛けたような氷の楔を飛ばす攻撃を仕掛ける。とりあえず数を作り、大体の方向を合わせて飛ばしてみる。ルボッグの場合当たれば動きを止めることができたが、巨大な魔操種はまるで何でもないかのように、当たっても反応を見せない。どうやら皮膚の硬さもずっと上のようであった。

 攻撃してきたことに苛立ったのか、魔操種はルボッグのものよりも巨大な棍棒を振り上げ、リエティール目掛けて振り下ろした。動きがやや遅いため、見てから氷の壁を作り出して防ぐことはできたが、たったの一撃で氷に無数の罅が入り、一瞬で砕け散ってしまった。その威力の凄まじさは一目瞭然であった。


「このままじゃ、本当にニールさんが危ない……!」


 戦うにしろ逃げるにしろ、ニールを放っておくことはできない。リエティールはまずニールの拘束を解き、なんとかしてこの場から離れさせることにした。

 一撃を防いだ氷の壁よりもより分厚い壁を自分の周りに幾つも作りつつ、ニールを囲う氷を消して、氷のナイフを作って蔓を切る。

 ぐったりと横たわっていた体を抱き上げた、その時であった。


「う……」

「ニールさん!」


 小さな声をあげ、ニールが薄らと目を開いた。リエティールの後ろでは、魔操種が氷の壁を激しく叩きつける音が響いている。


「ここ、は……?」


 ぼんやりとした顔でリエティールを見返し、そう尋ねるように呟く。リエティールは一先ずニールが無事に目を覚ましてくれたことに安堵した。しかしその安心も束の間、背後で轟音が鳴り響いた。はっとして振り返ると、今まさに氷の壁が砕け散るところであった。


「逃げて! 早く!」

「え、う、うん……!」


 リエティールはすぐさまニールを引き起こして茂みのほうへと体を押す。ニールも尋常ではない状況であることを理解して、戸惑いつつもただ言われるがままにふらつきつつも森の中へと駆け出した。

 ニールが逃げるのと同時に、リエティールの背を巨大な棍棒が掠めた。その風圧は物凄く、リエティールは前のめりに吹き飛ばされ地面に倒れる。リエティールはすぐに手をついて体を起こし立ち上がろうとするが、危険を感じて転がるように横へ身をかわす。そのすぐ後に、リエティールがいた場所へ棍棒を振りおろしながらルボッグが飛び込んだ。


 ニールの目が覚めた以上、逃げてもらったとは言えどこにいるかは分からないため迂闊に魔法は使えない。リエティールはただ攻撃をかわし続けて助けが来るまでの時間を稼ぐしかないことを悟った。

 槍を支えにして立ち上がり、魔操種を見上げる。相手は自分が優位に立てていることを理解しているのか、その顔には厭らしい笑みを浮かべている。ルボッグ達も先ほどまでの怒りや困惑のような感情を見せるような仕草はもうしていない。

 一方のリエティールは、魔法を行使したことによるもの以上に、不安による精神的な疲労、そして勿論肉体的な疲労に息を荒くしていた。

 それでも、今ここで倒れるわけには行かないと、自分の気を引き締めて槍をきつく握りなおす。

 圧倒しているにも拘らず、相手が怯えて戦意を喪失しないことが気に障ったのか、巨大な魔操種は笑みを崩して不快そうに目を細める。


「ゴガアア!!」

「ガギャア!」


 魔操種の喊声を合図に、ルボッグ達が再びリエティールに襲い掛かる。リエティールは先ほどと同じように距離をとりつつ、反撃は狙わずにただ攻撃を往なしてやり過ごすことに専念し始めた。

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