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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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83.戦いの始まり

 ユーブロがエナを背負いクシルブへ急いでいた頃、リエティールは草の茂みに身を隠してルボッグ達の様子を覗っていた。

 あの後、リエティールは連れ去られていくニールを助けるために無我夢中で追いかけていたのだが、ルボッグ達の妨害によりまともに追いかけることができずにいた。それどころか戦闘経験が浅い彼女にとって魔操種シガムとの多対一の状況は非常に危険な状況であった。槍で多数の棍棒の攻撃を往なして先へ進むというのは至難の業であり、完璧に足止めされてしまっていた。

 このまままともに取り合っていればいずれ自分も捕まってしまう、と冷静になり判断したリエティールは、途中で道を逸れて距離をとり、ルボッグ達の警戒から逃れるために必死に息を殺して身を潜めた。

 その行動は功を奏し、ルボッグはリエティールは逃げたのだと判断し、彼女を攻撃していた数体はニールを背負っているルボッグの後を追って去っていった。

 幸いにも彼らは同じルートを何度か利用しているようで、ルボッグ達の走っていった後は薄らと獣道が形成されていた。

 コートに守られていたため、何度か殴打を受けたものの傷にはなっていなかった。息を整え、リエティールはそっと獣道に顔を出して様子を窺った。それからルボッグ達がもういないと確認した後、彼女は慎重に先を急いだ。


 そしてルボッグ達の住処をみつけたリエティールは、気がつかれないように隠れながら思案していた。

 そこは少し開けた場所であり、ニールは他の獲物らしい魔操種達と同じ場所に縛られた状態で放置されていた。目立った外傷は無く、恐らく恐怖で気絶しているのだろうと考えられた。

 そこから少し離れた箇所にルボッグ達が集まり、ティバールの死骸に噛み付いていた。どうやら刃物や火といった道具は持っていないようで、割れて尖った石を使って皮を切り、碌に血も抜かずに喰らっているようであった。あまりにも血生臭い光景に、リエティールは思わず顔を顰めた。そして、このままではいずれニールも同じ目にあってしまうと考え、早く助けなければならないと決意を一層固くした。

 その集まっている箇所からまた少し離れたところには、土を堆く盛り、そこに穴を開けたような、寝床らしきものが幾つか並んでいた。

 これこそがハトレの魔法で作られたもので、彼らがどこにでも棲み付いてしまう理由である。その大きさは一つにルボッグが二、三体ほど入れる位のものであったが、その中で一つだけ、一際大きいものがあった。リエティールの位置からでは中は見えないが、恐らくあの中に群れのリーダー格が潜んでいるのであろう。


 リエティールはどうやってニールを助けるべきか考えた。大回りでニールのいる場所へ近付き、縛っている蔓を切り、なんとかして起こしてこっそりと連れ去るのが安全なのだろうが、気がつかれた場合のリスクが大きい。ニールが起きたばかりでは動きも鈍いであろうし、もしかすると恐怖で足がすくんで逃げられなくなる、という可能性もある。リエティールはニールより背が小さいため、力があるとはいっても引っ張って走るのは難しいだろう。

 できることならば、ニールを守りつつルボッグを倒すのが一番である。

 まともにやり合えば、リエティールではこの群れには敵わない。しかし、全力で挑めば勝算は十分にあった。


 リエティールはニールのいる場所へそっと近付き意識を集中させると、そこを覆うように氷の魔法を行使した。見る見るうちにニールは氷の壁に包まれた。

 ニールは気絶しており、他の人間ナムフは存在しない。この状況であれば魔法を存分に使っても問題ないと、リエティールは判断したのである。

 しかし、ユーブロは恐らく町へ助けを呼びに行っているはずだとリエティールは考えていた。見られてしまう前に終わらせなければならない。

 突如現れた氷に、獲物に夢中になっていたルボッグ達の何体かが異常に気がつき、やがて全員が警戒態勢に入る。まだリエティールの存在には気がついていないようであった。

 リエティールは身を潜めたまま、自分の周囲に尖った氷の塊を幾つか作り出す。そしてそれをルボッグのいる場所へ向けて勢いよく打ち出した。


「ガギャアッ!」


 幾つかは外れたが、命中したルボッグはそれぞれ悲鳴をあげて暴れまわる。そして氷が飛んできた方向に何かがいると気がつき、明確に戦闘体勢を取り始める。


 もしもこの時、リエティールが氷竜エキ・ノガードが人間に対してしたように、巨大な氷の楔を無数に打ち出すことができていれば、一瞬で決着はついていただろう。しかし、現時点でのリエティールの魔法には何点かの制限があった。魔力量は多いため、大きな氷を作り出したり数を生み出したりすることはできる。しかしそれを動かすとなると制限が掛かってしまい、無理をすると十分な技術を発揮できなくなってしまう。

 例えば同時に何個もの氷を動かすとなると、数に応じて魔力の減少量が急増し精神的な負荷が掛かり集中が乱れる。あまり大きな物を動かそうとしても同様であった。

 リエティールも最初は一気に片をつけようとしていたのだが、生み出している最中に魔力の減少が加速していることに気がつき、途中で止めて打ち出したのである。

 冷気を放って一気に凍らせるという手段もあったが、生き物を一瞬で凍らせるほどの冷気となると、やはり相当の負担がかかり、しかもそれを群れ全体を包むように放つというのは一層困難であった。もしできたとしても、周囲の植物も凍らせて駄目にしてしまう可能性が高かった。もしそうなればユーブロが戻ってきた際に咄嗟に隠すことができなくなる。


 しかしそれらの制限があったとしても、無理をしなければ氷竜の持っていた技術を使って精密に氷を操ることができる。存分に魔法が扱える状況であれば、たとえルボッグの群れであっても、状況はリエティールに有利であった。

 ルボッグ達は襲ってきた存在が先ほど逃げた獲物だと気がつくと、雄叫びを上げて怒りをあらわにし、棍棒を振りかぶって一斉に襲い掛かった。

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