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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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82.緊急依頼

 カンカンカン!


 ドライグ内に突如響き渡る鐘を打ち鳴らす音に、内部は騒然となった。この鐘の音は緊急依頼が発生した時の合図であり、またその危険性を知らせるものでもあった。

 ユーブロと言葉を交わした後、ラレチルは彼を奥の部屋に連れて行きより詳しく情報を聞き出し、依頼を出すための概要をまとめていた。

 ラレチルが奥の部屋から姿を現したことで、ドライグ内にいたエルトネ達の視線が一斉にそちらを向く。彼は「静かに」と通る声で一言発すると、辺りは静まり返る。そして緊張した空気の中、彼は大きな声で概要の発表をする。


「緊急依頼の発生を報せる!

 標的はルボッグの群れ、発生場所はニルファブの森西部の表層部。 駆け出しのエルトネ四名のパーティが依頼の遂行中に複数のルボッグに襲われ、内二人は逃げ延びたが、一人は攫われ、一人がそれを追って中層部以深へ進入したと思われる。

 最終目的はルボッグの撃退及びエルトネ二名の救出だ」


 ニルファブの森の表層部にルボッグが出たという情報に再びどよめきが起こる。初心者のエルトネがよく行く場所にルボッグのような魔操種シガムが進出してきたとなると、放置しておけば被害が拡大し、初心者のための狩場が減ってしまうということが目に見える。

 だが、ルボッグは個々の知能が低いため、群れていてもある程度の実力があるエルトネが複数で挑めばそれ程苦戦しないだろうと、何人かのエルトネが名乗り出ようとした時、ラレチルは概要の続きを口にした。


「……ただし、そのルボッグの群れの中に上位種ロイレプスがいる可能性が高い。

 奴等は罠を仕掛けて別の魔操種を捕獲していたそうだ。 連れ去られた一人も、罠に足をとられて身動きができなくなったところを捕縛されたそうだ」


 上位種。その言葉にどよめきが更に大きくなり、名乗り出ようとしていた数名も口を半開きのまま動きを止めてしまった。

 ルボッグの中に知能の高い者が生まれ、それが指揮を取っているとなると、討伐の難易度は跳ね上がるだろう。ルボッグの弱点である知能の低さがまとめてカバーされてしまうからだ。知能の高い魔操種一体を相手するより、知能の高い一体が指揮する軍勢の方が厄介である。

 それに加え、今のドライグには人数が少ない。丁度昼時を迎えた時間であり、昼食目当てで来ているエルトネ以外にはあまり人数がいなかった。それというのも、エルトネの一日は朝に依頼を受注し夕方に帰還するという流れが基本であり、朝以外の時間帯に依頼を受ける者は少ない。いるのは寝坊したかマイペースな者、あるいはその日は休むと決めている者くらいである。


 そんなエルトネ達の中から一人の男が席を立ち、ラレチルに問いかけた。


「ドライグ長、その、森に残された二人のエルトネと言うのは?」


「どちらもランク0の新人だ。 一人はニールという男で、もう一人はリエティールと言う少女だ」

「リーが!?」


 ラレチルが名前を出した直後、その男の隣に座っていた青年がガタッと音を立てて席を立ち上がった。その顔には驚愕と焦りが浮かんでいた。また質問した男も嫌な予感が当たってしまったというような、苦い表情をしていた。

 リエティールの名を聞いて立ち上がったのがイップであり、質問をしたのがソレアであった。二人は駆け出しのエルトネと言うのを聞き、まさかリエティールが、と思い尋ねたのであった。しかしそのまさかが本当に当たってしまうとは思っていなかったらしく、二人は顔を見合わせていた。

 彼らが何故今ドライグにいるのかと言うと、二人は昨日一日中狩りに勤しんでいた。そして今日は午前中をゆっくり過ごし、午後は消費した分の道具を買いに行こうと決めていたためである。

 そしてやがて二人は決心したように頷きあい、ラレチルの方に向き直ると、こう発言した。


「ドライグ長、その依頼に参加します」

「お、おいらも行くっす! リーはおいらの大切な後輩っす、絶対に助けるっす!」


 二人はすぐさま意思表明をし、ドライグ長の元まで進むと受注書に名前を書く。しかし幾らやる気があっても、上位種が率いると考えられる群れに二人だけで挑むことはできない。その後もエルトネの参加を募り、最終的に彼ら以外にも数名のエルトネが名乗りをあげ、その全員にユーブロを加えてパーティを組み、早速ニルファブの森へ急ぐことになった。


「よろしくお願いします。 どうか、二人を助けてください……!」


 深く頭を下げてそう願うユーブロに、全員が力強く頷き返す。


「ルボッグは獲物は溜め込む習性があるから、早く行けば大丈夫なはずだ」

「でも危険には変わりないっす! 急ぐっすよ!」


 ちなみに、ソレアとイップの頭の中では捕まったほうがリエティールと言うことになっていた。

 ルボッグにとって人間ナムフも食料でしかなく、容赦なくその身を喰らう。しかも味に頓着しない彼らは動きを封じられれば止めを刺さず、生きたまま喰うのだというから恐ろしいのである。

 ただし、その習性に救われることがあるのも事実である。暴れる獲物は殺すらしいが、他の食料がある場合は大人しくしていれば延命はできる。そのため捕まっても助けを大人しく待てば生きて助かる可能性を残すこともできる。しかし、リエティールはルボッグの習性は恐らく知らないだろうと考えた二人は、リエティールがただ静かに待っていてくれることを切に願いつつ、他のエルトネ達と共に速いペースで歩を進めるのであった。

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