78.幼馴染
依頼受け付けの列に並びながら、四人は改めてお互いの自己紹介をすることになった。共に行動する以上、お互いのことについてしっかり知っておかなければならないとユーブロが言ったためであった。
「改めて、俺はユーブロ。 ランクは2の剣士だ。 一応このパーティでリーダーのような役割をしている」
「あたしはエナ。 同じくランクは2で、弓を使ってるわ。 あとは一応短剣も持ってるわね」
二人がそういい終えると、彼らの視線が向けられたニールは、慌てた様子で自己紹介を始める。
「あ、ぼ、僕はニールです。 えっと、ランクはまだ0で、登録したばっかりの……魔術師です」
ニールはそういうと恥ずかしいのか顔を俯き気味に逸らす。
彼らの自己紹介の内容は、メルグの推測と大体一致していた。
ユーブロは話し方や態度から、厳格で真面目そうな雰囲気を感じさせる。いかにもリーダーといった印象だ。
エナは金色の釣り目がちな表情に、はきはきとした話し方が、明るく快活な印象を与える。身軽そうな装備から覗く四肢は細いが筋肉で引き締まっており、鍛えているのが分かる。
最後に、ニールは臆病で大人しそうな青年であった。人見知りなのか目線があちこちに動き回っている。明らかに年下な見た目のリエティールにさえ萎縮しているように見える。
「リエティールです。 最近ここに来たばかりで、ランクはニールさんと同じです。 えと、一応槍を使います」
三人の紹介を受けて、リエティールも自らのことを話す。今更ではあるが、誘われた身であるとはいえろくな戦闘経験もない自分が討伐依頼を受ける三人と同行して足手纏いになるのではないかと、若干の不安を覚える。
しかしそんな不安を払拭するかのように、エナは明るい声でこう言った。
「やっぱり、あの依頼を受けるってことは駆け出しの子だったのね。 ふふ、ニール良かったじゃない。 貴方と同じよ。 だからそんなに気を張らないで、リラックスしなさい? そんな難しい依頼じゃないんだから」
どうやら、彼らの狙いはニールと同じくらいの仲間を見つけることだったようで、恐らく同じくらいの者同士で打ち解けて欲しいようであった。下手に強い人を引きいれようとしても、彼の場合はかえって一層萎縮してしまうのだろう。
リエティールはそう思って、ニールに視線をはっきりと向けて「よろしくお願いします」と優しく声をかける。それに対してニールは、身を硬くしながらも頷いて「よ、よろしく……」と答えた。
そんな彼を見て、ユーブロは心配したほうが良いのか安心して良いのか、といった複雑そうな顔をしていた。
そんなこんなで列は進み、彼らの番が回ってきたので、其々依頼の受注手続きをする。まず依頼書を提出し、受付から依頼のより詳しい詳細が告げられる。
今回四人が向かうのはクシルブの東に広がる「ニルファブの森」という場所で、その規模は中々に大きい。ただし表層部分であればそこまで強い魔操種は出てこないということで、迂闊に奥へ入らなければ駆け出しのエルトネでも入って大丈夫とされている。
リエティールの目的であるアビシュマの木も、表層部分で多く見られるようなので初心者向けの難易度が低い依頼となっているようだ。
そして三人が受けた討伐依頼の標的は「レフテフ・ティバール」で、以前メルグが風属性の魔操種として挙げた一つであった。ティバール類は長い耳を持ち、跳ねて移動するのが特徴の種類らしく、分岐種が多くレフテフ・ティバールは風属性のものを指すらしい。外見の特徴は特に大きく発達した耳で、能力の特徴は跳躍力が他のものに比べて高いところである。ただし攻撃力はそこまで高くないらしく、ワルクよりも下位のものとされている。
今回の彼らの依頼内容は、そのレフテフ・ティバールの毛皮の納品ということで、それ以外の素材は彼らのものにしていいらしい。彼らの狙いは命玉らしく、依頼を達成しつつニールのための命玉を確保するのが目的のようだ。ついでにその肉もそれなりに美味しいらしく、食料の確保にもなるのだとか。
依頼内容の最終確認をし、最後に契約書に名前を書き、指にインクをつけて捺印、それにドライグ側の確認印を押せば受注完了となる。
無事に受注を済ませ、四人はドライグから出ながら話をする。
「俺たち三人は幼馴染なんだ。 最初は俺とエナだけがエルトネに登録していた」
「そうそう、勿論ニールも誘ったんだけど、魔操種に近付くのは怖いって言って嫌がってたの」
エナがそう言ってニールを見ると、彼もそれに同意するようにこくりと頷く。
「だが、やはりニールだけ側にいないというのは、幼馴染としては少し寂しいものがあって、なんとかニールも共に行動できないかと考えて、思いついたのが魔術師だったわけだ」
「魔術師なら魔操種に近付かなくても良いし、私達が守ってあげれば良いものね。 だから、私達は二人で半年間、風属性の魔操種を沢山狩って、風の魔法薬を沢山用意して、ニールにプレゼントしたの」
リエティールはへえと感嘆の声を漏らすと、ニールは申し訳なさそうに小さな声で、
「僕のせいで二人が沢山苦労して……」
と呟くと、エナが「何言ってるの!」とその背を平手で叩く。叩かれたニールは思わず呻き声を上げてよろめく。
「苦労だとか迷惑だとか、そんなこと私達は一回だって思ったことないわ! ニールは大切な幼馴染よ、置いていくわけないじゃない。 そのためならどんな努力だって惜しまないわ! だからそんな風に遠慮しないでよ」
彼女がそういって少し怒り口調で言うと、ユーブロも同じ気持ちだというようにニールを向いて頷く。それを受けたニールは目を少し潤ませて、か弱い声で「ありがとう、二人とも……」と言った。
リエティールはそんなやり取りを見て、羨ましいような不思議な気持ちを抱いた。思えばソレアとイップのような関係も、どことなく憧れのような気持ちを持っていたのかもしれない、と彼女は思う。
生まれてこの方、彼女の側には「家族」しかいなかった。だから、こうして「親友」や「幼馴染」のような存在は、彼女にとって一つの羨望になっていたのであった。
 




