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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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77.依頼の受注

 カフェを後にしたリエティールは、人混みの間を抜けつつ、最終的にはクシルブの外で何体かのバリッスを狩って戻った。人混みを抜けるコツを身につけたのか、大通りを思い通りに歩くのにそれ程時間を要することはなくなり、彼女は少しだけ自分の成長を感じてひそかに喜んでいた。

 夕方のピークを迎える前にドライグで素材の換金を終え、宿に戻ったリエティールは夕食を済ませるとそのままゆっくり休むことにした。


 翌日、このクシルブに来てから五日目の朝である。今日を入れて後三日経てば、リエティールはこの町を去って次の町へ旅立つことになっている。そう考えるとこの地で過ごした日々があっという間に過ぎていってしまったことを思い、リエティールは少し名残惜しい気持ちになる。

 そんな気分を入れ替えるためにも、彼女はまず部屋の窓のカーテンを開いて窓を開け放つ。まぶしい朝日が差し込み、冷えた空気が吹き込んでくる。

 昨日ゆっくり休んだためか、今日はかえって普通より早く目が覚めてしまったらしく、食堂にはまだ誰も来ていなかった。一番乗りで朝食を済ませたリエティールは、まだ空いているだろうと考えてドライグへとまっすぐ向かった。大通りも、まだ開いている店が少ないせいか人通りがまばらで、荷物を運んでいるのであろうフコアックや、開店準備をしている人々がいる以外には、混みあう様子もない。

 そんな大通りの様子を珍しく思いながらも、リエティールはまっすぐドライグへ向かう。

 彼女は今回、採集系の依頼を受けてみようと考えていた。素材の納品でも功績として数えられるには数えられるのだが、やはり依頼を受けてそれを完了する方が、同じ労力だったとしても上だという。ただ、いくらバリッスでの戦闘に慣れたとは言え、いきなり討伐系の依頼を受けるという自信は彼女にはまだなかった。


 ドライグについた彼女は早速依頼の貼り付けられている掲示板へと向かう。ドライグの内部も空いてはいるが、やはり早く来て良い依頼を確保したいという考えの者が一定数いるらしく、掲示板の前にはすでに何人かのエルトネが集まってその内容を吟味していた。

 ただ、やはりそういったものを狙うエルトネはそれなりの実力者らしく、リエティールが狙うような初心者向けの採集依頼が貼られている場所には目を向けていない。

 リエティールはその空いた場所に近付き、貼られている依頼を確認する。採集系の依頼と一口に言っても、どれもが植物の採集だったりするわけではない。リエティールが狙うのは植物系だが、植物以外にも鉱物の採掘だったり、捕獲が難しい虫や魚等を捕まえたりと、その内容は様々である。

 そして、採集というと討伐より簡単で安全そうにも思えるが、そうであればわざわざ依頼することは少ないであろう。手が空いていないからと言うなら別にエルトネ相手でなくてもよい。しかしエルトネに依頼を出すということは、それなりに危険があるということだ。

 町から出て素材を集めるということは、即ち魔操種との遭遇の危険があるということだ。そのため、戦うという覚悟と意思があるエルトネ相手に、こうして採集の依頼が来るのだ。


 じっくりと吟味した結果、リエティールはそれらの採集依頼の中から一番難度の低い「アビシュマの蕾の採集」に目をつけた。このアビシュマの蕾は鎮痛の薬の材料になるらしく、今の時期は丁度この近くにある森の中で採れるらしい。

 リエティールはその依頼書を手に取り、受付に向かおうとした。そのつもりで掲示板から振り向くと、すぐ後ろには声をかけようとしていたのであろう、手を前に出したままの体勢で戸惑っている様子の緑髪の青年がいた。その更に後ろには、彼と同じくらいの年齢の青い髪の青年と橙色の三つ編みの女性が立っている。

 リエティールはその顔に見覚えがあり、すぐに彼らが以前訓練場で見かけた三人パーティだと思い出す。そして何事かと首を傾げる。


「ああ、えと、あの……」


 緑髪の青年はタイミングを逃したことで困惑してしまったのか、切り出す言葉に詰まっている。リエティールがちらりと彼の背後の二人に目を向けると、青年は黙って彼を見つめ、隣の女性は応援しているのか少し力んでいるように見える。どうやらこの緑髪の彼は人見知りなのか、人に話しかける練習でもさせられているのであろう。

 しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。こうしている間にもエルトネの数は少しずつ増えてきている。このままでは受付が混んでしまうし、掲示板を見たいほかのエルトネの邪魔になってしまう。そう思い、リエティールはこちらから話を進めることにした。


「えっと、この依頼について何かお話があるのですか?」

「え!? え、あ、はい。 そうです……」


 彼は言葉が詰まってしまったのを恥ずかしく思ったのか、少ししょんぼりとした様子でそう答えた。その様子を見届けた後ろの二人は、やれやれと言った様子で近付き、青髪の青年がリエティールに声をかけた。


「突然声をかけて済まない。 俺達は三人でパーティを組んでいる者だ。 俺はユーブロだ」

「あたしはエナよ、 それで、その子はニール」

「あ、ニールです。 よろしくお願いします」


 ニールと呼ばれた青年は深くお辞儀をする。リエティールも同じように頭を下げて、


「リエティールです」


と答えた。

 挨拶が済むと、それで、とユーブロが本題に入る。


「リエティールと言ったね。 君に声をかけたのは、その依頼の場所に理由がある。 俺達もそこでの討伐依頼を受けようと思っているんだ。

 そこで偶然同じ場所の依頼を手に取ろうとしている君を見かけて、一緒に行けないかと思って声を掛けたんだ」


 ユーブロはそう言って、その手に持っている未受注の依頼書をリエティールに差し出して見せる。たしかにそこには同じ森が示されていた。


「採集するにも、魔操種が出てきたら倒さないといけないでしょう? だから、もしよかったら協力できないかなって思ったの。 私達は討伐ができて、貴方は採集ができる。 どうかしら?」


 リエティールはその説明を聞いてなるほどと納得する。向こうからすれば万が一の時に一緒に戦う戦力が増えるし、こちらにしても採集するときに安全が確保できる。

 リエティールが頷いて承諾すると、エナはにっこりと笑って「ありがとう」と言い、ユーブロも感謝の言葉を告げる。ニールは再びペコペコと頭を下げていた。

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