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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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74.相談

 宿に戻った三人はソレアの部屋に集まり素材の報酬を分け合っていた。

 バリッスと言う数が多く素材になる量も少ない魔操種シガムであるが故に、一体当たりの買取額が少ないが、その量と質の良さにより十分な量の報酬が出ていた。それを三人で分け合った結果、一人当たり三日は宿に泊まり、贅沢をしなければ食事も満足にできるであろう金額になっていた。

 それに加えて、リエティールは今日一日で実戦経験を十分に積み、バリッス相手でならば一人でも難なく勝てるくらいには成長した。剥ぎ取りが得意なイップに教えてもらったことで、素材の剥ぎ取りの基礎もしっかり叩き込まれた。これにより、一人であっても最低限の収入は確保できるであろう力はつけられた。

 もしもこれがリエティール一人であったならば、こう上手くは行かなかったであろう。彼女は改めて二人との出会いと協力に強く感謝した。


 翌日、三人は一緒に行動することはなく別行動となった。それもリエティールがいつまでも自分につき合わせているのは申し訳ないと思ったからである。本来であれば彼女よりずっと実力のあるエルトネである二人は、もっと報酬のよい依頼をこなすことができる。

 そんな二人に、いつまでも駆け出しの一人の為に時間を使わせるのは、功績や収入を減らしているのと同義である。

 当人達はそんなことは気にしなくていいと否定し、恐らくそれは本心であろうこともリエティールは感じていたが、それでは彼女の気が済まなかったのだ。その結果、こうして特に用事もないのであれば、二人は普段どおりに過ごしてもらおうということに決まったのであった。


 人混みを避けるために、一人遅めの時間に宿を出たリエティールは、大通りを経由して再び脇道へと入る。朝のピークを過ぎていたとはいえど、やはり人のごった返す大通りを通るのは、小柄で流されやすいリエティールには一苦労であった。

 脇道に逸れて静かになると、遠くから金属を打つ音が響いてくる。リエティールはその音がする方へと向かって歩いていく。

 彼女は武器を注文したラエズに向かっているのであった。何故かと言うと、昨日の実践で槍を使って感じたことを伝えるためである。


 やがて無骨な店構えの武器屋へとたどり着き、リエティールはその扉を開いて中へ入る。そのドアの開く音に気がつき、カウンターの奥で武器を磨いていたエレクニスが気づいて立ち上がる。


「いらっしゃい! おや、リエティールさんか。 よく来たね」


 そういって笑みを浮かべる彼は相変わらず爽やかで、店の醸しだす雰囲気からは浮いている。そんな彼は磨いていた武器をカウンターに置くと、リエティールの元へ近付く。


「それで、今日はどうしたんだい? 何か槍に問題があったとか?」


 その問いにリエティールは首を振ると、槍を使ってみたことと、その時に思った、槍の長さをもう少し長くしたいということを伝えた。

 何故長くしたいのかと言うと、やはり間合いの長さがもう少し欲しいと思ったためである。昨日の戦いで自分が魔操種シガムに気づかれ易いことを知り、結局速攻を仕掛けるようにはなったが、やはり慎重に不意打ちで先制を取れる場面が多いほうが助かるのではないかと感じたのである。実際、バリッスは槍の間合いギリギリでリエティールの存在に気がついたのであるから、もう少し槍が長ければ気がつかれずに先手を打てた可能性があった。

 リエティールの言葉に、エレクニスはふむと顎に手をあて、それからすぐに頷き、


「確かに、リエティールさんは力が強そうだったし、もう少し長くても問題なく扱えるだろうね。

 わかった、その件に関してはちゃんと父さんに伝えておくよ」


と答え、リエティールも頷き返す。それから、特にそれ以上の用事もなかったため、リエティールが店を出ようとすると、彼は思い出したかのように急に声を出して彼女を呼び止めた。


「ああ、待って。 今、僕は君の槍のデザインを決めているところなんだけど、幾つか候補があるからよければ君に見て欲しいんだ。 いいかな?」


 そう尋ねられたリエティールは、この後特にすることも決めていなかったため、すぐに了承した。

 エレクニスは「よかった」と笑うと、リエティールを連れて鍛冶場とはまた別の部屋へと彼女を案内した。


 案内された部屋は、これもまた乱雑な様子で、試作品と思われる大量の武器が詰め込まれた木箱が部屋のあちこちにあり、壁にはデザインのアイデアスケッチと思われるものや、なにかのメモらしきもの等が何枚も重ね貼りされており、お世辞にも綺麗とは言えないような状態であった。

 そんな部屋の中をエレクニスは迷いなく進み、ごちゃごちゃとした机の上から何枚かの紙を手に取ると、別の比較的片付いている机の上に並べて見せた。

 リエティールがそれを覗き込むと、四枚の紙には其々違ったデザインの槍が描かれており、端には細かい文字で特徴や素材等であろう、何かが走り書きされている。


「これなんだけど……一つずつ特長を説明していくね。

 まず、一番左のこれは一番基本形で扱いやすい。 突きも得意だし斬る性能もそれなりで、槍といったら大体がこの形を基にしている。 今のところはこの形をベースにしようと考えているんだ。

 次にこれは、左右に分かれた刃がついているのが特徴で、扱いが難しく技量が求められる。 その分極めれば色んな扱い方が出来るね。

 その次は片刃の槍で、突きより斬るのに向いているかな。 中々珍しいタイプで、槍と言うより長い剣に近いかもしれない。

 最後のこれは、斧のような刃がついているのが特徴で、見た目通り重い一撃を得意としている。 結構重いから、両手剣を使うような人に向いているかな」


 一口に槍と言っても、リエティールが思っているよりも沢山の種類があるのだということを知り、彼女は驚いたように口を半開きにして眺めていた。


「まあ実際にはもっと細かい分類があるんだけれどね、基本的にはこんな感じだよ。 後は刃がついていないランスって言うのもあるけれど……普通のエルトネが使うには向いてないかな。

 一応用意はしてみたけれど、最後のは重いからあまりオススメできないかもね……どれかピンと来たものはあるかい?」


 エレクニスにそう尋ねられ、リエティールは口を閉じてじっくりとその図面を見る。リエティールからしても、重いものよりは軽いものの方がいい。

 リエティールが一番目を留めたのは最初の基本形の槍で、槍と言って思い浮かべていたのはこれである。今リエティールが持っているのも、メルグが持っていたのもこれと同じであった。扱いやすいというのも惹かれるポイントである。

 しかし「珍しい」という言葉に魅力を感じてしまうのも、少年期の心の性である。リエティールは少し変わっているとは言え、純粋な子どもの心を持っていることには変わりがない。

 扱いづらいが極めれば強い、というのも魅力的ではあるが、彼女は自分がまだ未熟だというところは自覚しているため、そこは素直に控えておこうと考えた。


 基本形と片刃の二つの間を目が行き来していることに気がついたエレクニスは、


「その二つで迷ってるのかい?」


と尋ねる。リエティールが顔を上げて頷くと、エレクニスは少し悩む素振りを見せた後、


「……わかった、後は僕に任せてくれないかな。 満足のいくデザインを考えてみるよ」


と言い、リエティールの顔色を窺った。リエティールも、自分で決められないのならプロに任せるのがいいだろうと判断し、こくりと頷いた。

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