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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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72.作業を終えて

 処理を終えたバリッスの素材をソレアがまとめて担ぎ上げ、一息ついたところで彼は先ほどの戦闘について話し出した。


「ところで、さっきの戦いなんだが、リエティールの戦い方には特に問題はなかった。 冷静に相手の動きを見て立ち回れていたし、槍の間合いを活かせていた。

 ただ……バリッスが動き出すまでの距離が長かったのが気がかりだ。 普通バリッスの察知できる範囲はそこまで広くないはずだ。 剥ぎ取りをしたイップに念のため聞きたいが、上位種だと思うか?」


 どうやら彼はバリッスの初動が早かったことに疑問を持っていたようで、バリッスの解体を担当したイップに確認の質問を投げかける。それに対してイップは小さく首を捻り、


「見た目は他のバリッスと全く同じだったっす。 少なくとも外見に変化はなかったっすよ」


と答える。ソレアはその返答に「そうか……」と悩み、その隣でリエティールも同じ疑問に首を捻っていた。

 最初は自分が目測を誤ったのかと思っていたが、今の話を聞く限りでは、傍から見ても問題が無かったようであった。先ほどのバリッスが偶然気配に敏感な進化を遂げた上位種だったという可能性はあったが、そうであれば先ほどの別のエルトネの戦いの中で、その気配を察知して動いていてもおかしくは無かったはずである。それに、言ってしまえば進化としては微妙すぎる能力の伸びである。

 そこまで考えて、リエティールはふと一つの疑問を浮かべた。


「ソレアさん」


 彼女はソレアにそう呼びかけ、その疑問を投げかけた。


「バリッスって、どうやって気配を察知しているんですか?」

「ん? それは……振動だったか、あとは魔力……あ」


 そういいかけたところで一つ気がついたのか、ソレアは言葉を切った。同じく原因が分かったリエティールも、ソレアと顔を見合わせた。イップだけはその様子に不思議そうな顔をして、


「二人とも? どうしたっすか?」


と尋ねたのだが、ソレアは慌てて、


「ああ、いや、なんでもない」


と否定した。

 魔力、と言ったところで、ソレアはリエティールが強い魔力を持っていることを思い出し、リエティールもまた自身の身に宿る古種トネイクナの魔力のせいでこうなったのだろうということに思い当たったのである。リエティールが魔法を使えるということを知らないイップだけが、理解できずにただ疑問符を並べるのみであった。

 そもそも、禁足地オバト魔操種シガムがいないというのを考えれば、その原因は十中八九古種にあるということは殆どの人が行き着く結論である。その古種の魔力を継承した存在である以上、魔操種により強く察知されても何らおかしくは無いのである。


「まあ、それは置いておくとして、だ。 もっとバリッスと戦っていくぞ」


 其々の理由で納得したソレアとリエティールは、ただ一人ついてこられないイップに疑いをもたれないよう、強引に話題を転換することにした。


「リエティールに戦いの経験をもっと積ませるというのもあるし、素材の剥ぎ取りの練習もしなければいけない。

 なにより、俺達の金稼ぎだ。 俺は近くで単独で狩をする。 イップ、お前はリエティールのサポートをしっかり頼んだぞ」


 イップに口を挟む隙を与えずに、まくし立てるようにそう継げたソレアは、すぐさま少しはなれたところへと歩いていってしまった。

 ぽかんとしたまま彼がリエティールの方を見ると、彼女もまたすでに周囲を見回して次なるバリッスを探し始めていた。



「……ま、待つっす! 待ってくださいっす!」


 置いていかれては敵わないと、イップは生まれた疑問を投げ捨てて、リエティールの後を追いかけていった。



 途中で携帯食での昼食をはさみつつ、数刻後。草原の一角でバリッスの亡骸の山が生まれ、その下で三人が剥ぎ取り作業に黙々と勤めていた。

 亡骸の傷の位置は、殆どが首に集中していた。最初は胴体に多かったリエティールの槍による刺し傷も、バリッスの動きになれてきた後半には首を狙ったものになっていった。基本的に首と言うのは剥ぎ取りの段階で切り捨てられてしまう。上質な素材として売るためにも、できる限り傷は胴体につけないほうがいいとイップに教えられてたためである。

 それから、戦いの初動に関しても、最初は慎重に近づいていたリエティールであったが、やはりどうしても感づかれてしまうのが早く、どうせそうなるならと、他の二人と同じような速攻スタイルへと変化していた。地中にもぐっている状態でも、地表に出ている草の位置から頭が大体どの位置にあるかもすっかり把握できるようになり、初撃で止めを刺すということも何度かあった。

 「相手は魔操種」と割り切って戦い続けた結果、最初の戸惑いはどこへやら、すっかり止めを刺すことには抵抗がなくなっていた。

 そして、リエティールのサポートとしてついていったイップも、リエティールが一人でバリッスの相手を卒なくこなすようになると手持ち無沙汰になり、近くで別のバリッスを見つけて狩り始めた。

 そんなこんなで三人は大量のバリッスを狩り、初めに戻る。ソレアは背の草を引き抜きつつ、要らない部分を地面に掘った穴の中に放り込み、リエティールはイップに教わりながら、町に入る前にもらったソレアのナイフを使って皮の剥ぎ取りを練習していた。

 物覚えのいいリエティールはすぐに基本は抑えたが、やはり細かい部分ではイップの腕には敵わない。特に余分な肉などの削ぎ落としは、使い古しのナイフでやるには難しいものであった。


「やっぱり、難しい……」


 隣に並べられたイップの仕上げた皮と自分の担当した皮を見比べてそう言葉を零したリエティールに、


「リーも十分上手っすよ。 はじめたばっかりでこんなにできる人はそうそういないっす! もっと自信を持つっすよ!」


とイップが激励を送る。事実、比べる対象がイップなせいでそこまで良い物には見えないが、リエティールの仕上げたものは一般的なエルトネの平均レベルに迫る仕上がりであり、初心者にしては寧ろ出来過ぎな程であった。

 ちなみにソレアが皮の剥ぎ取りに一切参加しないのは、その剥ぎ取りの腕前が平均以下であるためなのは、リエティールは知らない。


 そうして剥ぎ取りを終える頃には日は傾きつつあり、すっかり疲れた三人は、素材を分担して背負いながらクシルブへと戻っていくのであった。

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