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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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71.剥ぎ取り作業

 バリッスが力なく横たわり、リエティールが槍を下ろしたことで試合は終わり、ソレアとイップも近くにやってきた。そしてソレアは彼女の肩に軽く手を置き、


「よくやったな」


と声をかけた。その声に振り返って顔を上げたリエティールの顔は、どことなく元気が無かった。それをみたソレアは、優しく、しかし厳しい口調でこう言った。


「戸惑う気持ちは分かる。 だが、相手はお前の命を本気で狙ってきてるんだ、油断は命取りになる。 そこは、ちゃんと覚悟しないといけない。 わかったか?」


 リエティールはその言葉に「はい」と小さく頷き、それから自らがしとめたバリッスへと視線を戻す。背中から血を流すそれはもう息絶えており、動く気配は無い。

 ソレアも同様にバリッスの亡骸に目を移すと、


「次は素材の剥ぎ取りの練習をするか。 こういうのを教えるのは俺よりイップの方が得意だから、頼む」


と言い、イップに向くと、イップはびしっと姿勢を正して「任せてくださいっす!」と元気よく返事をすると、亡骸に近づきリエティールを呼び、バリッスの素材についての説明を始めた。


「バリッスは食用には向かないっすから、もったいないっすが大部分は持って帰っても売れないっす。

 でも皮と背中の草は使い道があるっす、だからバリッスの場合はその部分にだけ気をつければ大丈夫っすよ。

 でも、まずはその前に……はいっす!」


 そう言いながらイップは慣れた手つきでバリッスの左目から命玉を取り出し、リエティールに手渡した。その大きさはエフナラヴァのものよりもずっと小さく、少し油断したらすぐになくしてしまいそうな程であった。リエティールはそれをすぐにコートの内側(魔法の空間の中)にしまいこむと、次の説明を聞く姿勢になる。


「まず先に草の部分をとっちゃうっすね。 結構丈夫っすから、こうやって根元を掴んで引っ張れば綺麗に抜けるっす。

 ほら、リーもやってみるっすよ」


 イップはそう言ってリエティールを近寄らせる。恐る恐ると言った手つきでバリッスの草を掴み、そっと引っ張る。ゆっくりと草は抜け、リエティールの手の中に納まった。


「いい感じっす! このまま全部抜ききるっすよ」


 リエティールが綺麗に抜いたのを見届けてそう言った彼は、慣れた手つきでするすると草を引き抜いていく。その素早さに気圧されて、戸惑っている暇は無いと、リエティールも黙々と手を動かして引き抜き始めた。


 ようやくあらかたの草を抜き終え、引き抜いた草はイップが用意した袋の中に収められた。草を引き抜かれたバリッスは寒々しい姿となっていた。


「ちなみにこの草は毛が変化したものとかじゃなくって、本当に植物なんっす。 止血の薬として使えるんっすよー」


 そんなことを言いながら、イップは草の袋の口を結んでソレアに預けると、腰のポーチから一本のナイフを取り出した。


「次は皮の剥ぎ取りっす。 獲物が小さいっすから、今回はおいらが全部やっちゃうっすね。

 まず脚のこの部分に切れ込みを入れて……」


 イップは説明しながら丁寧に手を動かしていくが、あまりにも滑らかで素早いため、リエティールに色々考える隙を与えない。どうしようもないため、リエティールはただ集中して聞き落としの無いように耳を傾け、手の動かし方をしっかりと見て覚えることに努めた。

 あれよと言う間に皮が剥がされ、残ったのは頭部だけがそのままのバリッスだったもののみ。残された方はソレアが横から手を伸ばし、いつの間にか掘っていた地面の穴の中に放り込んで埋めてしまった。こうすることで他の魔操種シガムや肉食の無垢種ラミナが寄ってくるのを防ぐのだという。

 その一方では、イップの素早い手捌きによって皮から余分な肉や脂といったものが削ぎ落とされ、見事に仕上げられていた。


「ここまでしっかり処理をすれば買取価格もいい感じになるっす!」


 そういってイップは完璧に処理が施された皮を広げて見せる。削ぎ落とされた肉片や尻尾の部分などを地面に埋めながら、ソレアは感心したように頷き、


「相変わらずお前の処理の腕は凄いな」


と言葉を漏らす。それを聞いたイップは自慢げに胸を張り、


「戦闘じゃまだソレアさんには敵わないっすけど、処理の仕方なら絶対に負けないっす!」


と答える。リエティールも、素人目ではあるがその滑らかな切り口や、ナイフの傷がついていない所など、とても綺麗に仕上がっているというのが凄いことだというのは分かり、イップの意外な特技にただ驚いていた。


「そうそう、すぐに持ち帰れなかったり、持ち運ぶ期間が長い場合は、この塩を擦り込むんすよ。 腐るのを防ぐためっす」


 イップはそう言って腰に下げていた一つの皮袋の中をリエティールに見せる。その中には大量の塩が入っていた。


「この国は島国っすから塩は大量に流通してるっす。 安く買えるっすからこれくらいはもっておくといいっす。 普通に調味料としても使えるっすよ。

 ……とは言え、おいら達は基本的にこのクシルブの周辺から離れないっすから、ほとんど使ったことは無いんっすよねー。 だから、これはリーにあげるっす!」


 そう笑いながら、彼はリエティールに口を結んだ塩の袋を渡した。驚いたリエティールが本当にいいのか聞き返すと、「実は元々あげるために用意しといたんすよー」と言ったので、リエティールはありがたくそれを受け取ることにした。

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