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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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59.武器屋「ラエズ」

翌朝、リエティールは扉を叩く音で目を覚ました。どうやらソレアとイップは早めに起きていたようで、朝食に行く前に声を掛けてくれたらしい。リエティールはクローゼットに備え付けられていた鏡で身だしなみを軽く整えると、部屋を出て二人と合流し朝食を食べに向かった。

 トーストと味付けして炒り上げたグーゲを食べ、三人は受付で鍵を預ける。受付嬢に「いってらっしゃいませ」とにこやかに送り出された三人は、まずリエティールのエルトネ証明書を受け取る為にドライグへと向かった。


 ドライグは相変わらず込み合っていたが、昨日の夕方ほどではない。


「普通、ドライグは朝と夕方がピークなんっすけど、まだ早い時間だからか比較的人が少ないっすね。

 これ、ソレアさんの気遣いなんっすよ」


 イップは後半の言葉をソレアに聞こえないように小声でリエティールに耳打ちした。それを聞いたリエティールがちらりと視線を向けると、ソレアがそれに気がついて振り向き「どうした?」と不思議そうに尋ねてきたため、リエティールは慌てて視線を逸らし「なんでもないです」とだけ返した。イップは隣で余所に顔を向けて関係の無い振りをしていた。


 リエティールは登録用の受付の列に並ぶ。流石に朝から登録希望者は大勢来ないためか、すぐに順番が回ってきた。リエティールが前に出ると、受付嬢のナイレンラは顔を覚えていたのか、すぐに「リエティールさんですね」と言い、後ろの棚の引き出しから一枚の金属のカードを取り出して、リエティールに差し出した。


「こちらになります。 間違いが無いか確認してください」


 受け取ったカードには、リエティールの名前と性別、それから右側には精巧に模写された顔が描かれていた。流石にそっくりそのままとはいかず多少簡略化されてはいるが、簡素な線だけでもそれがリエティールだと判別できると思えるくらいには特徴を捉えて描かれていた。

 リエティールが記載された情報に間違いはないと答えると、ナイレンラは、


「これで、エルトネとしての活動が可能になります。 依頼の受注や完了報告に必要となりますので、失くさないように気をつけてくださいね。

 紛失した場合は再発行に料金が掛かるので、注意してください。

 それでは、よいエルトネ活動を!」


と言い、笑みを浮かべてリエティールを送り出した。リエティールも頭を下げてお礼を述べ、待っている二人のもとへと戻っていった。


 合流した三人はドライグを出て、ソレアの案内で武器屋へと向かう。ソレアはリエティールの手を引きながら、大通りから脇道へと入っていく。場所は違うが昨日リエティールが行った宝飾店と雰囲気は似ており、人通りは少なく比較的静かな通りであった。

 そんな中、少し離れた所から人の声や楽器の音などとも違う、カーンと甲高い、金属を叩きつけるような音が聞こえてきた。不思議そうに辺りを見回すリエティールとは反面、ソレアは、


「お、今日もやってるな」


などと言い、迷うことなくその音のする方へと向かっていった。イップも相槌を返しながら、それが当然のようについていく。

 角を曲がったところで、その音の出所である店へ着いた。石造りのその店構えはどこか無骨な印象を与える。


「ここだ、これが俺の行き着けの武器屋『ラエズ』だ。

 俺がまだエルトネになったばかりの頃、初めて買う武器を探していた時、大通りの店はどこも混雑していてゆっくり見られなくてな。 そんな時に偶然この店に辿りついて、初めての剣を買ったんだ。

 幅広い種類の武器を扱っていて、どれも造りがしっかりしている。 まあ、知る人ぞ知るって感じだ」


 ソレアはそういいながら店の扉を開けて中に入る。

 店内には展示台の上も、木箱の中も、壁にも、至る所に所狭しと武器が並べられている。しかもどれも綺麗に磨かれており、丁寧に手入れがされていることも一目で分かる。

 初めて見る武器屋で、その光景にリエティールが圧倒されていると、店の奥から声が掛けられた。


「やあ、ソレア。 いらっしゃい」


 その声に振り返ってみると、そこに立っていたのは黒みの強い灰色の髪を一つにまとめた好青年で、すっとした目つきの碧眼に、鼻筋が通った顔立ちは、騎士のような整った服装が似合いそうな気品を感じさせるが、身に纏っているのは使い込まれた作業着であった。腰には同じく使い込まれている様子の道具が提げられている。


「イップもよく来たね。 ……おや、そっちの子は?」


 爽やかな笑みを浮かべながらイップにも声をかけた彼は、今まで見たことの無い少女に目を留めて不思議そうに尋ねた。


「ああ、こいつはリーだ。 つい昨日この町についてエルトネになったばかりで、今日はこいつに武器を見に来たんだ」


 ソレアが代わってそう答えると、青年は驚いて目を丸くした。それから感心したような笑みを浮かべてリエティールを再び見て、


「へえ、見たところまだ随分と小さい子だけれど、戦うんだね。

 大丈夫、うちは小さなお客さんでも、エルトネなら武器は売るからさ」


と言った。武器屋によっては、子どもには武器を売りたがらない店主も居る。危なっかしいというのもあるが、大抵は自分の丹精こめて作った武器を、碌に戦えそうも無い子供に売りたくないという、頑固なプライドのようなものが理由である。彼の後半の言葉の意味は、そういうものであった。


「リー、こいつはエレクニス。 ここの店主の息子だ」


 ソレアがそう紹介し、青年、エレクニスは丁寧に頭を下げて挨拶する。


「リエティールです」


と、リエティールも頭を下げて名乗り返す。それに対して柔らかな笑みを浮かべるエレクニスは、やはり鍛冶屋の無骨な雰囲気とはどこか似合わない。それこそ、リエティールが昨日訪れた宝飾店などに居た方がしっくりきそうであった。

 そんなこんなで自己紹介を終えた一行は、早速リエティールの武器を見定め始めることとした。

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