51.この世界の生き物
2020/8/20 ルビを追加しました
地名のメモを終えたリエティールは本を元の場所に戻し、別の本を探す。
次に彼女が選んだのは数冊の、所謂百科事典であった。この世に存在する生き物にどんなものがいるかと言うことは、女性に言い聞かせられて知っていたが、それぞれの詳しい生態についてはまだ殆ど知らない。これから世界中を旅するのであれば、そういった知識は必要になるであろうと考えてこれを選んだのである。
彼女は自分の知る生き物の種族名を一つずつ調べていくことにした。最初に引いたのは「人間」の項目であった。
『人間
一般的に我々の事を指す。知能が発達した生き物で、社会を形成して集団で生活する生き物。
複雑な言語を持ち、発達した手を使い、道具を作成し使用する力を持つ。
生まれながらにして魔力を持たないが、「命玉」を原料とする「魔法薬」を使用することで体内に魔力を取り込み、使役することができる。』
これに関してはリエティールの知識とほぼ相違が無く、問題はなさそうであった。彼女は次に「魔操種」を調べた。
『魔操種
魔力を持ち、使役する生物。住処とする地域に適応し、個々に様々な能力を持ち、その脅威度や姿は様々である。
多くのものに共通する特徴として、近付いた「人間」を無条件に襲う習性がある。また、「古種」の力を本能的に避けるためか、禁足地には近寄らない。
死亡時に左目が「命玉」に変化し、それを同種の別固体が取り込むことで能力や記憶などを継承する。同種以外が取り込むと力の制御ができず、精神に異常を来たす。特殊加工を施すことで、「魔法薬」の原料となる。
何世代にも渡って継承を繰り返した固体が変異し「上位種」となる場合や、「上位種」から更に変化して別種へと分かれることもある。別種へと分かれると、「命玉」の継承ができなくなる。』
大体のことはリエティールの知っていることであったが、別種というものについては知らないことであった。魔操種の種類についてより詳しく調べてみると、初めに生まれたとされる「原種」、環境に合わせて変化した「分岐種」、そして上位種から別れた「新種」の三つが主のようで、後のものほど強い種族が多いようであった。ワルクはこの内の分岐種に入るようだが、体色が雪に合わせて変化している以外特に違いは無いため、原種と呼び名は変わらないようだ。
魔操種の強さについて知識を得たリエティールが次に調べたのは「無垢種」であった。
『無垢種
生まれつき魔力を持たない「人間」以外の生物の総称。姿や生態などは様々である。
野生のものは警戒心が強く、「魔操種」のように「人間」を襲うこともある。魔法は使わないが身体能力は一般的な「人間」より高いため注意が必要である。
人に慣れたものは、愛玩動物として飼われたり、家畜として飼育されたりすることが多い。』
これも特にリエティールの知識と相違は無く、軽く読み流して次へ進む。次に開いたのは「精霊種」のページである。
『精霊種
自然に存在する、純粋な一種類の魔力が塊となり、意識を得たもの。肉体を持たないため目には見えず、また明確な自我のようなものも持たない、如何なる場合も全てに対し中立の存在。
急な突風や地面が揺れるなどの自然現象は、これによるものと考えられている。
稀に力を得た塊が、「無垢種」や「魔操種」の死骸などから肉体の構成要素を得て「霊獣種」へ進化する。』
精霊種は謎に満ちた存在であり、氷竜曰く「魔力そのもの」であるそうで、ここでもそのような記述がされていた。目に見えない以上は詳しい生態も謎で、存在するということだけは信じられているようである。
リエティールは最後の行に書かれている「霊獣種」の詳細が気になり、続けてその項目を探して読んだ。
『霊獣種
「精霊種」が肉体を得て進化した生物。肉体から知識などを得るためか、自我とある程度の知能を持つ。
意思の疎通が可能であり、条件を満たすことで主従関係を結ぶ契約が可能。契約した「人間」は「霊獣使い」と呼ばれる。契約の条件は個体によって様々であり、実力を求めるものや、絆によって契約を成立させるものなどが挙げられる。
進化の現象自体が稀であり、その様子の目撃例は少ない。進化時には淡い光を放ち、死骸を包み込むようにして取り込み、肉体を生み出すとされている。
その中でも極稀に、複数の「精霊種」が融合するように進化し、複数の属性をもつ霊獣種が誕生することもあるが、伝承などに存在するのみであり、実在したかは不明である。』
これを読んで、リエティールはある一つの可能性を考えた。
(もし火か光の属性を持つ霊獣種と契約することができたら、誰かに頼らないでもおばあちゃんや、ドロクでなくなった人たちを弔うことができるかも……)
霊獣種の存在自体が希少ということもあって、それが可能となる確率は低いと思われたが、彼女自身が弔いができるほどの光の魔法を身につけるということよりも、可能性は高いと考えられた。
リエティールは霊獣種の項目を何度も読み返し、頭の中に忘れないようにしっかりと刻み込んだ。
そして最後に、彼女は「古種」の項目を開いた。




