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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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50.世界地図を広げ

 ソレアに案内されてやってきた図書館は、これもまた大きく立派な建物であった。石造りの外観は、ドライグと比べると落ち着いた雰囲気を纏い、所々に細かい彫刻が施され、どこか荘厳な雰囲気さえ感じさせる。正面の入り口の脇には「クシルブ公営図書館」と書かれた大きな石の看板が建てられている。

 リエティールはソレアに手を引かれながら内部に入る。正面に受付があり、その後ろにずらりと巨大な本棚が並んでいる。高所の大きな窓から日光が取り込まれ、また手の届かない高さに設置されたランプには炎が揺らめいていた。そして外の喧騒が嘘のように、静まり返った空間がそこにはあった。


「紙は普及しているが、本は貴重品だ。 入る前に受付で名前を記入して、入場料を払うんだ。 入場料は高めだが、本の破損が無ければ退場時にいくらか返ってくるから安心するといい」


 そう説明を受けつつ、リエティールは受付に向かう。そうして到着すると、受付嬢は丁寧に頭を下げ、


「図書館へようこそ。 ご利用になられるのであれば、こちらへの記名と、入場料をお支払いください」


と、記名用紙と料金表を差し出す。リエティールは記名をし、料金表に目を移す。そこには年齢別の入場料が示されており、幼児、未成年、成年、高齢者という区分がされていた。具体的な年齢も示されていたが、リエティールは自分の年齢が分からない。少し戸惑った後、受付嬢の顔色を窺いながら「未成年」の欄に書かれていた銀貨二枚を差し出す。結果として、問題なく入場許可証が手渡され、中に入る許可が下りた。

 ふと、リエティールは後ろにいるソレアのほうを振り向く。彼は記名もしていなければ入場料を払う素振りもなかった。


「ああ、俺は図書館に用は無いから、一緒に行動するのはとりあえずここまでだ。

 ただ、知らない町で一人だと困ることもあるだろう。 何かあったらドライグで待つか、依頼受け付けで俺へ伝言を残してくれればいい。 イップに会えたらそいつに頼むのもいいだろう。

 それと、俺の定宿は『センドリブ』って名前だ。 この図書館の正面にある広場に街の地図があるから、それを見るか、ドライグで聞けば教えてもらえるはずだ。 宿に困ったらそこに来るといい。

 じゃあ、また後でな」


 突然離れ離れになるとなって、少し困惑を見せたリエティールであったが、また後で会えるということは分かったため、一先ず安心して別れを告げ、図書館の中に入る。


 目の前にずらりと立ち並ぶ巨大な本棚はまさに圧巻であった。光の加減と静けさも相まって、神秘的な雰囲気を纏っているようにも感じる。

 その光景に圧倒されながらも、リエティールは案内板を見て目的の本がありそうな場所に目処をつける。知りたいことは沢山あったが、まずは自分の目的を果たす為に向かうべき場所を定めるため、世界地図が載っている本を探した。

 見つけた本は各地の風土を記したもので、リエティールにとっては一抱えもある巨大な本であり、傷つけないように慎重に運んで机の一角に本を広げる。

 本の中からまずは索引を開き、町の名前である「クシルブ」を探すと、今自分のいる国が「ウォンズ王国」であることを特定する。そして次に世界地図が載っているページを開き、ウォンズ王国の文字を探す。その結果、この国が北東にある巨大な島国であることが分かった。島の北部に「氷竜エキ・ノガード禁足地オバト」と書かれた広大な白い土地が広がっており、そこから南南西に下っていくと「クシルブ」の名前が記されていた。

 世界地図は「海竜リム・ノガードの禁足地」を中心として描かれており、大きな陸地はウォンズ王国の島を含めて二つ。もう一つは南西を覆うように広がる「ヘテ=ウィリアップ大陸」で、複数の国が点在している。それ以外には小さな島々が点在しているといったものであった。


 リエティールはその地図の中から四つの禁足地を探した。内氷竜と海竜の禁足地は既に場所が分かっている。そして残る天竜イクス・ノガード火竜エリフ・ノガードの禁足地は、それぞれヘテ=ウィリアップ大陸の北と南に位置することが分かった。つまり、この全ての禁足地を訪れるには、ほぼ世界一周という状態なのである。


(まずは海竜の禁足地を経由して大陸に渡って、それから天竜、最後に火竜……かな)


 だが、リエティールは臆することなく、頭の中でその全てを巡るルートを考えていた。

 そもそも何故彼女が全ての禁足地へ向かおうとしているのかというと、彼女の目的を達成する為に必要不可欠なものであるためであった。

 氷竜の力を継承したとはいえ、彼女が扱えるのはそのほんの一部に過ぎず、姿も中途半端なものである。これでは古種の一角を担うものとしてはあまりにも未熟であった。

 それというのも、彼女が元々非力な人間であるというのが主な要因であった。継承の資格を得たとしても、元が魔力とは縁のない人間であるがために、急に全ての力を使えるようになってしまっては、制御できずに自滅してしまう危険性が高い、と命玉サールと肉体が判断し、自動的に制限を掛けているためであった。これは通常の魔操種シガム間でも対象が未熟であった時に起こる、自然な現象である。

 この制限の解除方法が彼女の場合、「他の古種に実力を認められること」であった。そのため、リエティールは禁足地を巡らなければならないのである。


(必ず、私が母様のために、悲願を叶えてみせる……)


 リエティールは時空魔法の空間からこっそりと取り出した紙に、行くべき土地の名前を順に記していく。その真剣な瞳には、強い決意が宿っていた。

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