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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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49.エルトネの制度-2

 椅子に腰を落ち着けたところで、ソレアがエルトネの制度についての説明を始める。


「さっき似せ絵を撮った後に、後でもう一度証明書を受け取りにくるように言われただろう? 証明書ってのはこういうやつだ」


 そう言って彼はポケットの中から一枚の金属製の、手の平サイズのカードを取り出す。そこにはソレアの名前と性別が刻み込まれており、横にはよく似た似顔絵が描かれていた。


「わ、そっくり……あの、さっきの箱を見つめるので、こんな絵ができるんですか?」


 その絵を見てリエティールが驚いてそう尋ねると、ソレアは先程の箱の説明をする。


「あの箱はアーマックって名前の道具だそうで、前にあるものや景色をそっくりそのまま写し取れる特別な道具らしい。 貴重な道具だから、こうした大きい町のドライグにしか備わっていないんだ。

 で、この絵はそれで写し取ったものを絵描きが丁寧に真似て、落ちにくいインクで描いたものだ。

 なんでもそのアーマックができる前は、直接絵描きが登録希望者に会って描いていたそうだが、それだと時間が掛かるって問題があったらしくて、この発明がされてからこの形になったそうだ。

 より正確だし、拘束時間も減ると、いい事尽くめだったらしい。 絵描きの仕事もこうして残っているしな。」


 リエティールは感心しながら、ソレアの証明書をじっくりと眺める。素材は鉄だろうか、硬く丈夫で、角は安全のためか丸く削られている。

 そんな時、リエティールはふと、カードの下部にいくつかの小さな穴が開いているのを見つけた。


「この穴はなんですか?」

「お、いいところに目をつけたな。 それがこの証明書の一番の重要ポイントと言っても過言ではないな」


 ソレアは感心したようにそう言い、その穴についての説明を始める。


「これは達成した依頼の数やその難度に応じて実績を評価して、ある程度の実力が認められると対応した数の穴が開けられる……まあ、簡単に言うと持主の実力の目安を表したランクみたいなものだ。

 最大数は全部で十。 最初は穴が開いてなくて、数個の依頼を達成すると一つ目が開けられる。 穴が開いていない状態は見習いで、一つ開いてようやく駆け出しって感じだな。

 二つが開けば脱初心者、三つ目で一人前と認められる。 四つ目が開けば頭一つ抜けて、五つ目で頼りにされる、まあ中堅だ。 六つ開けばもう立派なベテランだな。 七つも開けば強者に入る。 八個にもなれば一騎当千の強さの証で、九つを越えることはまず殆どの場合は不可能だ。 十個はもう伝説の域だな。」


 隣に座っていたイップは自分のカードを取り出し、


「おいらは今三つっす! ソレアさんは五つでしたっすよね?」


と、リエティールに見せながらそうソレアに尋ねた。そう言われたソレアは、ふっと不敵な笑みを浮かべ、イップを見返す。それにイップは怪訝そうな表情を浮かべたと思うと、すぐにはっとして、リエティールから「見せてくださいっす!」と言いながらソレアのカードを受け取る。そしてそれを見た彼はわなわなと手を震わせ、


「ふ、増えてるじゃないっすか!」


と驚きの声を上げた。ソレアのカードには確かに六つの穴が開けられていた。イップの反応に満足したのか、ソレアは悪戯な笑顔を浮かべていた。


「今回の依頼で増えたんだよ。 道中で上位種のワルクを倒したことが評価されてな、今までの積み重ねもあって条件を満たしたらしい」


 それを聞いたイップは驚きから興奮の表情に変わり、


「上位種を倒したんすか! さすがソレアさんっす! おめでとうございますっす!」


と目を輝かせてソレアの昇格を祝福していた。リエティールは呆気に取られながらも、ソレアにとっていいことであることは理解し、釣られるように拍手をした。そんな祝福ムードに、周囲の近いテーブルからは何事かというような視線がチラチラと向けられた。

 そんな視線に、ソレアは得意げな表情から恥ずかしそうな笑みになり「よせよ!」と二人に言った。

 丁度そのタイミングで、ソレアが注文していた軽食が運ばれてくる。薄切りのパンに野菜と蒸したネクチョクの肉、調味料を挟んだもので、大皿に大量に盛られていた。


「あー、ほら、沢山あるから遠慮しないで食え!

 ……でだな、ランクを上げる条件だが、依頼を数こなすだけじゃなく、今言ったようにある程度の強さを持つ魔操種シガムを倒した実績が必要になる。 それから、自分で言うのもなんだが人柄だな。 あんまり粗暴だったりすると、依頼主に迷惑をかけたりする危険があると判断されてランクは上げてもらえない。 状況によっては降格させられたり、エルトネの資格そのものを剥奪されたりする」


 なんとか場の空気を紛らわせようと、ソレアは食事を勧めながら制度についての注意事項をリエティールに説明する。


「まあ、大体そんな感じか。 分からないことがあったらいつでも俺かイップに聞くといい。

 ああ、それと依頼の受注に関してだが、護衛依頼は一度に一つしか受けられない。 まあ、体は一つしかないから当たり前だな。

 討伐の依頼はいくらでも受けられるが、素材の納品みたいな上限数のあるものは基本的に早い者勝ちだ。 早く受注したとしても納品が遅くて先を越されたら達成にはならないから注意しろよ。

 荷物運びや買い物の代行なんかも、期限が短いものが多いから一度に沢山受けるのは喜ばれないから、そこも気をつけるんだ」


 ようやく一通りの説明を終え、ソレアは一息つく。リエティールも遠慮がちに軽食に手をつけつつ、言われたことを頭の中で反芻して忘れないように念入りに記憶する。

 ちなみにこの軽食はヒドゥナスと言い、片手で食べられることから携帯食としても人気のあるもので、具材の種類も様々である。リアクションこそ控えめではあるが、リエティールはこれにも心の中で大いに喜んでいた。


「よし、じゃあ俺はこれからリーを図書館に案内する。 イップはどうするんだ?」


 皿に盛られたヒドゥナスを粗方食べ終え、ソレアは椅子から立ち上がりイップに尋ねる。


「おいらは依頼を受けて仕事するっすよ! ソレアさんに早く追い付きたいっすからね!」


 イップはそう言って二人に「ではまたっす!」と別れを告げて依頼の貼り付けてある場所へ向かっていった。その後姿を見送ってから、ソレアとリエティールはドライグを出て図書館へと向かった。

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