48.エルトネの制度-1
イップに連れられてリエティールは列に並び、暫くして彼女の順番が回ってきた。受付には明るい栗色の髪を一つにまとめた若い女性が立っており、リエティールを見ると一瞬驚いた表情を浮かべ、すぐににっこりと笑みを浮かべた。
「かわいらしい登録希望者ね!
こんにちは、私は登録の担当をしているナイレンラです。 本日の用件はエルトネの登録で間違いないですか?」
リエティールに笑いかけると、すぐに姿勢を正して仕事モードに切り替わり、丁寧にそう尋ねる。リエティールが頷く隣でイップも、
「そうっす! ソレアさんからの紹介っすよ!」
と何故か誇らしげにそう言った。その言葉を聞いたナイレンラと名乗った受付嬢は小さく笑って、
「あら、ソレアさんが? うふふ、あの人ってちょっと過保護なところがあるから、小さい子に危険なことはさせなさそうだけれど、気に入られたのかしらね?
……わかりました、少々お待ちください」
と言い、彼女は棚の中から一枚の紙を取り出してペンと共にリエティールに差し出した。紙には太枠で囲まれた記入必須の欄と細い枠の任意記入の欄があり、必須項目には名前と性別が指定されていた。任意項目には出身地や年齢、戦闘における得意分野などがあった。リエティールは取りあえず名前と性別を記入し、全体にざっと目を通した。とりたたて特筆するようなことも無く、下手なことを書いて後で疑惑を向けられても困るため、取りあえずそのまま提出することにした。
書類を受け取ったナイレンラは目を通し、その中の「家族または保護者」の欄が空欄であるのを目にして、一瞬複雑そうな視線をリエティールに向けたが、彼女が気づく前に視線を逸らせ、書類の右下に記名をして判子を捺した。
「では、次に似せ絵の作成をしますから、こちらへ」
ナイレンラがそう言って示した先には、別のスタッフが部屋の扉を開けて待機していた。リエティールは促されるままその部屋に入り、イップは扉の外で待機することになった。
部屋は小さく、一つの椅子と小さな箱のようなものがあるだけであった。リエティールはその椅子に座らされ、目の前に置かれた箱にあいている小さな穴をじっと見つめるように言われた。
見つめてから暫しの時が流れ、リエティールは解放され部屋の外に出た。リエティールの後ろに並んでいた登録者が同じ部屋に向かったタイミングで、ナイレンラに終わったことを報告すると、
「お疲れ様です、これで登録は完了となります。 証明書の作成には時間が掛かりますので、明日以降にまたここへいらしてください。 エルトネの証明書を受け取れば、いつでも依頼が受けられるようになります。
それから、詳しい制度の説明ですが──」
ナイレンラが説明を始めようとしたところで、横からイップが割り込んだ。
「説明はおいらに任せてくれっす! ナイレンラさんは忙しいっすから、これくらいは手伝わせてほしいっす!」
と拳を胸に当てる。その様子にナイレンラは小さく苦笑を浮かべながら、
「まあ、イップ君なら任せても大丈夫かしら? でも、しっかりとお願いするわね?」
と言った。リエティールの後ろには少しの間に幾人かの登録希望者がまた新たに並んでいた。他所から人が特別集まりやすいというだけあって、新規登録者は中々後を絶たないようであった。
そんな状態であるから、登録受付のナイレンラが忙しいのは当然であった。詳しい説明をしていれば時間も掛かる。そのため、こうして知識のあるエルトネが新人への説明を代わってくれるというのは、彼女にとってはありがたいことであった。ただ、任せる相手は信頼できる者でないと、後々問題になって余計に仕事が増えてしまうということも有り得るため、しっかり見定める必要もあった。
イップは「心配ないっす!」と胸を張り、リエティールを引き連れて受付を離れていった。
後方に移動し、受付の全体が見える場所を位置取ってから、リエティールに受付の説明を始めた。
「一番右が、さっき使った新規登録の受け付けっすよ。 登録以外にも、分からないことがあったら質問もできるっす。
その隣が、依頼を登録する所っす。 困ったことがあって自分の手に負えない場合は、ここで登録して実力のあるエルトネに任せるっす。
で、その隣の二列が依頼を受理する受け付けっす。 貼り出されている依頼をここに持っていって、適正以上だと判断されてようやく依頼を受けることができるんっすよ。
身の丈に合わない依頼だと判断されると受けることができないんで注意っす。
その更に隣の三列が依頼の達成を報告する所っす。 ソレアさんは……今丁度一番前で報告してるところっすね!
依頼者から受け取った証明札や、依頼の品を直接納品すると完了になるっす。 失敗したり途中で諦めるって場合もここで報告するっす。
それと、達成報告をしないで長い間放置してると、勝手に取り消されちゃうんでこれも要注意っす!
で、最後に一番左の少し大きい受付が、素材の買取をする所っす。 依頼以外で倒した魔操種なんかを持ち込むと、お金に変えたりしてくれるっす。 そのまま売る以外にも、この素材は加工に出せばもっと価値が出る、って事とかも教えてくれたりするっすから、分からなかったらここに持ち込むと良いっす!
まあ、受付に関してはこんな感じっすかね……? あ、ソレアさん! 報告が終わったんすね!」
リエティールへの説明が終わり、一息ついたところで、報告を終えたソレアが二人の下に戻ってきた。
「お、イップ。 受付の説明をしてやってくれてたのか。 エルトネの制度とかについては終わったのか?」
「いえ、それはまだこれからっす」
ソレアはイップがそう答えると、なるほどなと言って辺りを見回した。そして、飲食スペースの一つのテーブルからエルトネのグループが立ち上がるのを見つけると、
「丁度いい。 ならあそこに座って詳しい話をするか」
と言って二人を引き連れてテーブルを確保し、人数分の水と昼食を兼ねた軽食を注文した。そしてリエティールに向かってエルトネの制度について詳しい説明を始めた。




