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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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47.クシルブのドライグ

 門を潜ると、そこには人が溢れ、建物が所狭しと立ち並び、喧騒の絶えない町が広がっていた。

 リエティールが思わずそれに見とれそうになっていたところで、商人達から解散が告げられた。元より「道中の護衛」という名目でソレアと契約していたため、目的地の町についた以上は行動を共にする必要はなかった。

 門に入って直ぐの脇道にフコアックを止め、全員が降りて、商人達とソレア、リエティールが互いに向かい合う形となる。


「今回も助かりました。 予期せぬ事態になりましたが、こうして無事に帰ってこられたのはソレアさんの護衛あってのものです。 これを」


 グレンデップがそう言い、他の二人も共に揃って頭を下げた。そして一つの木簡を取り出し、何かの印をつけてソレアに手渡した。そこには「依頼完了」の文字に、ソレアとグレンデップの名前が刻まれており、依頼を達成した証明書の役割を果たすものであった。

 ソレアはそれを受け取りつつも首を横に振り、


「こちらこそ、いつも頼りにしていただいて感謝しています」


と返事をした。そして視線をそっと、横に立っているリエティールに向けた。その視線と目があったリエティールは、直ぐに姿勢を正して商人達に向き直って頭を下げる。


「お世話になりました」


 それに対して今度は商人達が頭を横に振る。


「いえいえ、こういうことは支えあいが大切ですから。

 今後とも、是非うちの商会をご贔屓に。 このマークが目印ですので」


 謙遜しつつも、流石は商人と言ったところか、忘れずにしっかりと自分達の所属する商会の宣伝をした。彼が指差したのは荷車にかけられた幌の側面に描かれていたマークであった。車輪を模した円の中に、エスロの上半身のシルエットが描かれている。そのシンボルマークの下には「セルム商会」と書かれており、それが商会名であることが窺えた。

 リエティールがそれに頷くと、彼らは満足そうに笑顔を浮かべてから、「それでは」と言ってフコアックに乗り込み町の中へ去っていった。


「それじゃあ、まずはこの町のドライグに向かって、リーの登録を済ませよう。 そうしたら図書館に送る」


 商人達を見送った後、ソレアはそう言ってリエティールをドライグまで案内した。ソレアの服の裾を掴みつつ、リエティールは賑わう町並みを興味深そうに眺めながらも、歩みを止めてしまわないように注意してソレアの後をついていった。

 そうして人混みの中を掻き分けるようにして歩き続けて暫く、ソレアはある大きな建物の前で立ち止まった。


「ここだ」


 そういって彼が示したのは、リエティールの想像を遥かに越える大きさのレンガ造りの建物であった。幅広い通りをせき止めるかのように鎮座する建物には確かに「ドライグ ─クシルブ支部─」と刻まれた看板が掲げられていた。

 呆気に取られてポカンと口を開けているリエティールの手を引きながら、ソレアはドライグの扉を開いて中に入る。その内部の賑わいというのも、リエティールを更に驚かせた。

 中央にはカウンターが設けられ、大勢のエルトネが列を成しており、右手にある飲食スペースはテーブルが埋まり、左手にある道具の販売店には大量の品物が並べられていて、こちらもまたエルトネが大勢集まっていた。


「すごい……」


 思わずそう言葉を漏らしたリエティールに笑いながら、ソレアは


「まずは俺の依頼完了報告をして、それから登録に──」


と言いかけたところで、受付方面の人混みの中から呼びかけられて言葉をとめて振り返った。


「ソレアさん! お久しぶりっす!」


 そう言って手を振りながら近付いてきたのは、灰茶のツンツンとした髪型の青年で、皮製の鎧に腰には剣を提げていた。リエティールよりも年上に見えるが、ソレアよりはずっと若そうに見える。

 そんな彼にソレアも機嫌が良さそうに対応する。


「おお、イップか、久しぶりだな。 その様子だと、依頼が上手くいったのか?」


 その言葉に、イップと呼ばれた彼は胸に拳を当てて、


「勿論っす! ソレアさんに鍛えていただいてる身っすから、これくらいの依頼は楽勝っす!」


と誇らしげに答える。そんなやり取りをしながら、彼はようやくソレアの隣にいるリエティールの存在に気がつき、不思議そうにソレアに尋ねた。


「ソレアさん、こっちの子は誰っすか? 見たことの無い顔っすけど、お知り合いっすか?」


 その問いに、ソレアはリエティールの背に手を回して紹介する。


「ああ、こいつはここに帰ってくる途中で知り合ったんだ。 名前はリエティール、俺はリーと呼んでいる。 田舎からクシルブに向かっているところを見かけて、護衛していた商隊のフコアックに乗せてもらって連れてきたんだ」


 リエティールはその言葉に続けてぺこりと頭を下げ、「はじめまして」と挨拶をする。イップもニコニコとした笑顔を浮かべて、


「おいらはイップっす! ソレアさんの後輩で、この町を拠点にしてるエルトネっすよ! おいらもリーって呼ばせてもらうっすね、よろしくっす!」


と自己紹介をした。その様子を満足げに見ていたソレアは、ふといいことを思いついたというようにイップに話しかける。


「丁度良かった。 イップ、俺はこれから依頼の達成報告をしてくるから、手が空いているならこいつを登録手続きのカウンターまで連れて行ってやってくれないか?」


 そう言われたイップは、驚いたように一度目を見開いたかと思うと、直ぐにその目を輝かせて、


「おお、おいらより小さいのに、エルトネになるんっすか? 立派っすねー!

 ということはリーはおいらの後輩って事になるっすね! もちろんっす! 任せてくださいっす!」


と、再び拳を胸に当ててそう答え、「こっちっすよ」と言いながらリーを登録用の受付まで案内し始めた。

 やや戸惑いながらソレアの顔を見たリエティールに対して、ソレアは微笑みながら頷き、


「あいつはああ見えてしっかりしてるんだ。 安心してついていくといい」


と言う。その言葉に安心したのか、リエティールは小さく頷いてイップの後を追いかけて、彼と共に受付の端にある列に並んだ。

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