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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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41.上位種

 リエティールは息を整え、魔力がほぼ枯渇した状態ではあるもののなんとか平静を装った。それから暫くして、両手に大方の血が抜けたワルクを携えて戻ってきたソレアは、どこか困惑した表情を浮かべていた。その様子に気がついた一人の商人がどうしたのかと声を掛けると、


「いやそれが、こっちの後から出てきたやつは、どうやら「上位種ロイレプス」だったようだ」


と答えた。それを聞いた商人達は皆驚いて、「上位種!?」と口を揃えた。その反応を受けて、ソレアは一つ頷いてから、二つのワルクの亡骸を地面の上に並べる。


「こっちだ。 一回り体が大きいし、爪も鋭い。

 それに、今まで潜んで奇襲をするようなワルクに遭遇したことはなかったことから考えると、知能も高かったと考えられる」


 その説明を聞いた商人達はすっかり大人しくなり、口が半開きになっていた。

 ただ、少女だけは話の内容がよく分からず、不思議そうに首を傾げていた。商人達は呆けてしまっているので、彼女はソレアに、


「上位種って、なんですか?」


と尋ねた。


「ああ、上位種っていうのは、普通の個体よりも何らかの能力が高まっている個体のことだ。

 見た目が変わっているだけじゃなく、こいつみたいに知能が高くなっていたり、普通の個体とは違う魔法を使ったり、違う属性を持っていたりする」


 ソレアは丁寧にそう説明した。彼が先ほど油断してしまったのも、ワルクは普段であれば、奇襲などしてこないはずの種類の魔操種シガムであるはずだったからであった。そのはずが、この上位種と思われるワルクは、仲間であるはずの個体を囮にするという、いかにも知性的な一面を見せたのである。

 ソレアであったから助かったものの、戦いに慣れていない者であったりしたならば一たまりもなかったであろう。


「上位種はどうやって生まれるんですか?」


 リエティールは続けて疑問を投げかける。


「上位種は命玉サールの継承……あー、つまり、何世代もかけて力を受け継いできた個体がなると言われている。

 魔操種には自分の力を後代に残す能力があって、それを何度も繰り返すことで今までになかった能力に目覚めることがあるらしい。 それが上位種と呼ばれている」


 ソレアは、リエティールが命玉のことを知らないだろうと考えて噛み砕いて説明した。幸いリエティールは身をもってその継承を経験しているので、理屈の理解には時間は掛からなかった。


「それじゃあ、さっきみたいに弱いと思っていたら突然強い個体が出てきちゃって、危ない目に遭う人は多いんでしょうか」


 弱いとされているからと駆け出しのエルトネが戦いを挑んだら、実は上位種でとても強かった、などということがあっては洒落にならないのではないかとリエティールは考えた。先ほどのワルクも、よく見れば違いも分かるが、遠目では大きさが違う、爪が鋭い、などということには気がつけない。実際に彼女も見てはいたが、そこまで違うようには見えなかった。


「駆け出しだったり、戦いに慣れていないエルトネは、大抵町から近い場所で戦って経験を積むんだ。 町から近くてエルトネも多い場所であれば、大抵の魔操種は継承する前に倒されてしまうから上位種が生まれる心配はほぼ無い。

 だが、こういう人通りの少ない辺境なんかだと、さっきみたいに上位種が出る可能性はそれなりに高くなる。

 だから、まあ自分で言うのもなんだが、ドロクに向かうような商人は、戦いに慣れたエルトネをよく指名して選ぶんだ」


 つまりは、町に近いところは比較的安心ということであり、離れれば離れるほど強い魔操種が出る、ということかとリエティールが訊くと、大方はそうであるが例外もあるとソレアは言う。

 上位種にならなくても、元々の能力が高い魔操種はいて、それが知らないうちに町の近くに巣を作ってしまうことも無くはないそうで、そういう時はドライグが中心となって実力のあるエルトネに協力要請が出され、殲滅もしくは駆逐するための作戦が実行されるそうだ。そういった場合、偶然近付いてしまった初心者が酷い怪我を負ったり、最悪命を落としてしまうこともあるのだということだ。


「だから、お前も町を出るなら気をつけないと駄目だ。

 ドライグで聞けば、弱い初心者向けの魔操種も教えてもらえるはずだ。 暫くは街道沿いで知っている魔操種だけを相手にするように気をつけるんだぞ?」


 ソレアは話しているうちに少女のことが余計に心配になってきたのか、真剣な面持ちでそう忠告する。

 少女は頷いて分かったと答えたが、内心では目的を達成する為になるべく早く町を離れたいという気持ちもあり、どことなくソレアに申し訳ない気持ちになっていた。


 そうこうしているうちに商人達は復活し、先を急がねばと手早く一人が御者台に乗る。フコアックは二つのワルクという荷物を増やし、再び街道を進み始めた。

 こうした道中で倒された魔操種の素材は倒したエルトネの物となる。多くは同行している商人にそのまま売却する場合が殆どで、ソレアも例に漏れず、その場で商人と話をつけていた。ワルクの場合は命玉の他、羽根や嘴、爪が装飾品や武器の素材になり、肉も食肉として加工できるらしく、捨てるところが少ないため稼ぐには効率のいい獲物であるらしい。ただ、この辺りでは数が多いらしく、個々の価格は低目らしい。


 ソレアとリエティールは後方の景色を眺めながら揺られていたが、不意にソレアがぽつりと呟くように言葉を零した。


「それにしても、あのワルク、さっきはなんで急に怯んだんだ?」


 それにリエティールは氷を見られたのではないかとひやりとしたものを感じたが、幸いその小ささと速さゆえに飛んできたことには気がつかれず、刺さった後も血抜き中に溶けて抜け落ち、なくなってしまっていた。そのためソレアは本当に分かっていないようで、リエティールがほっと胸をなでおろしたことは、彼女以外に知るものはいなかった。

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