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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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39.再確認

 部屋の料金と夕食の料金は別らしく、それに関しては商人達が払うことになった。それまで少しの時間があるため、それぞれ部屋の確認を兼ねて部屋で待機することになった。


 リエティールは部屋に入ると、部屋にあるものの確認をした。ベッドと小さな机と椅子、クローゼットが一つずつに、扉の向かい側には小さな窓があり、あとは一人が歩ける程度のスペースだけがある狭い部屋であるが、逆に小さな町の一人向けの部屋にしては十分すぎるほどの備品が用意されていた。

 この町もドロクへ向かう商人達が利用するようになってから発展した経緯があり、そのためであった。エトマーよりは大きな町に近いが、ここも十分な田舎であり、そうでもなければ四人部屋のような大きな部屋どころか、フコアックを停めるスペースや獣舎のある宿など、普通はなかったであろう。


 リエティールはクローゼットの扉を開き、その扉の内側に姿見が備わっているのを見つけた。これを見て、自身の姿を再確認するのに丁度いいと判断し、一度身につけているものを取って確認してみることにした。

 一応商人達には部屋の扉をノックしてもらえるように念押しはしていたが、念には念をと、彼女は椅子を扉の前に置いた。小さいものではあるが、ベッドとの間に挟まって完全に開くことはできないようになる。クローゼットも扉の開く方向とは反対側にあるため、ワンクッションにするには丁度良い。


 彼女はコート、手袋、靴にタイツ、それからワンピースまで全て脱いだ。ちなみに、下着としてはちゃんと身につけているものはある。とは言え普通の下着ではなく、薄い布を何重にか巻いて端をピンで留めているだけの簡素なものである。

 流石に全てを脱ぐと一気に寒さが襲ってくる。コートのおかげで全く寒さを感じていなかった故に余計寒さが強く感じられた。それに夕食に呼ばれるまでの時間もそれ程長いわけではないので、手早く終わらせようと彼女は思った。


 まず、額に意識を向けて、流れていく魔力を絶つイメージを浮かべる。そうするとそこに二本の角が姿を現す。触れるとひんやりとしているそれは、やはり確かに少女の額から生えているようであった。

 それから、彼女は自分の顔をよく見て、目の色がよく見ると左右で若干違うことにも気がついた。どちらも白いが、右目は少し黄色っぽく、本来の少女の瞳の色を残しているようであった。反対の左目は青みがかっており、氷竜の目と全く同じ色をしていた。

 それに加えて、耳の形状も若干変わっているように見えた。氷竜の形状に寄ったのか、以前よりもやや尖っているようには見えるが、これに関しては特に問題はない範囲であるように彼女には思えた。

 次に視線を下へ動かすと、昨日確認した鱗が生えている部分に当たる。首元から肩辺りに肌を覆うように生えているそれは、大きさは少女の体格に合わせて小さいが、形状は氷竜に生えていたものとそっくり同じであり、角と同じく冷たい部分も同じであった。そして、それまでは気がついていなかったが、腰周りにも同様に鱗がいくらか生えていることも分かった。

 腕や脚など、それ以外には特に目立った変化はなく、本来の人間の形そのままであった。背中側は見えないが、触ってみても特に違和感は無い為、一応確認はここまでとし、リエティールは冷えた手を温めようと両手に向かって息を吐いた。その時ふと鏡を見て、牙が生えていることに初めて気がついた。

 取りあえず角は隠し、それ以外は普段は隠れると考えて服を着込んだ。コートを着ると冷えた体を温めるように暖かく、彼女はほっと一息をついた。


 それから程なくして部屋の扉がノックされ、夕食に呼ばれた少女は部屋を出て商人達と合流し、食堂へと向かった。

 良い匂いに誘われるようにして少女が向かった先では、出来立ての料理が用意されていた。野菜や肉を焼いた卵で包んだテレモという料理に、茹で野菜の付け合せ、それから香りの良いプオと呼ばれる汁物が添えられている。リエティールはまた新たな食べたことのない料理に、心を躍らせながら夢中になって平らげた。その食べっぷりを見た料理人に喜ばれすっかり上機嫌になりながら、彼女はその日の食事を終えた。


 その後は商人達と話をして、明日の朝にすぐこの町を出発するという予定を聞いた。次の町への距離が大分あるらしく、早くに出ても一回は野営をすることになるという。何度も行き来して慣れている商人達やソレアは問題はないが、いかにも野営などしたことのなさそうな華奢な見た目の少女は、四人とも大丈夫か心配していたが、リエティールからしてみればスラムでの過酷な毎日と比べれば、確実な食事と暖を取れる環境があるならば、むしろ良い環境であるように思えた。

 全く意に介した様子のない彼女のことを、見かけによらずタフなのか、あるいはただ世間知らずで厳しさが分かっていないだけなのか、四人は判断に困ったが、本人が大丈夫というのなら、ということで臨機応変に対応しようという結論に至り、その日は別れた。


 その夜、ドライグのベッドよりも寝心地の良い布団に包まれた彼女は、案の定翌朝自力で目覚められずに、ソレアに起こされ、寝ぼけ眼のままフコアックに乗せられることとなる。

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