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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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393.舞台上の脅威

 リエティールが配置されたのは舞台の中央からやや東に寄った場所であった。そうなると当然周囲は囲まれている。

 続々と選手達が並び、リエティールの周囲は取り囲まれる。そうして隣接した場所に配置された選手達は、自らの周囲の状況を見た後、視線をリエティールに向けた。その理由はリエティールの見た目であった。特異な見た目であるから、というわけではなく、単純に小さく子供で倒しやすい、と判断されたのだろう。

 見た目で判断されていることを感じたリエティールは若干の不満を胸中に抱きながら、入場門の方へと目を向けた。続々と入ってくる選手の中にクネロスの姿を見つけ、無意識に拳を強く握りしめた。

 彼が舞台上に上がると、会場の中のざわめきも大きくなった。彼の周りに配置された選手達は、目に見えて身構えていた。最初の犠牲は誰になるのか、というように同じ境遇の選手達をちらちらと見ている。


「すべての選手の入場が完了しました!」


 その声に、様々な場所に散らばっていた視線がそれぞれ向くべき場所へと直る。リエティールは自分の周りを囲む選手達に対して神経を研ぎ澄ませた。


「それでは、ただいまより! 二日目第二試合、開始です!」


 言い終わった直後、上空の弾ける合図と共にまず誰よりも早く、リエティールの右前方にいた双剣のエルトネが飛び込んだ。戦闘スタイルはややエイマに似ている。地面を蹴って一気に加速しつつ両手の剣を構え、まっすぐにリエティールへと接近する。

 リエティールは素早くそれに反応し、剣の間合いに入るよりも先に槍で薙ぎ払うように受け止め、弾いて距離を詰めさせない。似てはいるが、技量はエイマの方が遥かに上だろう。

 休む間もなく、視線だけ動かしたリエティールは背後から迫る攻撃の気配を感じ取り、すぐに身を低く屈めた。直後、頭上を剣が横薙ぎに通過した。

 その体勢のまま薙ぎ払った槍を引き戻し、続けて剣を振るったエルトネの腹部に目掛けて突きを繰り出す。


「ぐふっ!」


 見事に喰らったエルトネは、声を上げて腹部を押さえた。槍の先端は尖っておらず鎧を身につけているとはいえども、リエティールの突きは生半可な威力ではなく、確かな激痛が走っていた。

 一人を退けても、リエティールを狙うエルトネはまだ複数残っている。すぐに別の剣が飛んできては、リエティールはそれを槍で受け止める。

 間合いが短くなればなるほど、槍には不利になるが、リエティールは力で押し返しすぐに距離を取る。そうして一進一退の攻防が続き、リエティールの周囲では激しい剣戟が繰り広げられた。


「──おっと、中央付近でも激しい戦いが行われています! 次々と襲い掛かる猛攻を、少女が槍で往なして反撃しています! こちらも目が離せません!」


 途中から司会もその戦いに注目し始め、観客からの関心も一斉に向く。そんな周囲の状況など気にする余裕もないほど、リエティールの戦いは休む間もなかった。

 しかし、その中でリエティールは他よりも一枚上手であった。前後左右から繰り出される攻撃も、以前戦った天竜イクス・ノガードの雷撃に比べれば視認するのは何倍も容易である。その時とは違い、変化ロマテムの魔法を解くことも、エキの魔法で迎撃することもできないが、素の身体能力が向上しているリエティールには対応しきれないものではなかった。


「はあっ!」


 鋭い突きが一人、また一人と追い詰めていく。こうなると、リエティールを弱いと判断し見くびっていた選手達も、自分たちの目測が誤っていたことを自覚し、焦りを感じずにはいられなかった。しかし仕掛けた手前そう簡単に背中を向けて逃げるようなことも簡単にはできない。油断があった彼らも本気でリエティールに喰らいついていた。

 しかし、その戦いもそう長くは続かなかった。


「小さな体から繰り出されるとは思えない強烈な攻撃! 鮮やかな槍捌きで見事に敵を退けていく!」


 興奮する司会の声と共に、リエティールは遂に最後まで残った一人へととどめの一撃を繰り出した。振り下ろされた剣の横を通り抜け、胴体に到達し鎧の隙間に突き刺さる。それまで何度も攻撃を受け止めていたエルトネも、遂に片膝をついた。


「……降参する!」


 眼前に突き付けられた槍を見て、エルトネはそう言った。リエティールは小さく頷いて槍を離す。

 現時点でリエティールを標的にするエルトネはいなくなり、退場していくエルトネを眺めつつ、リエティールには短い休息が与えられた。


「ふぅ……よし」


 落ち着いて呼吸をし、その顔に安堵を浮かべる。そして心の内で自分に対し鼓舞する言葉を投げかける。


「……ああっと! また一人場外に吹き飛ばされたっ! もはや誰にも止められないのか!?」


 耳に飛び込んできた力のこもった司会の声に、リエティールは意識を引き戻され辺りを見回す。そしてその視線は、選手達の向こうで激しく棍棒を振るうクネロスの姿を捉えた。

 彼の攻撃は大振りであった。それ故に隙も大きく、攻撃を繰り出すまでの間に多くの選手達がそれぞれ攻撃をしているにもかかわらず、彼は全く怯む様子が無く、限界まで力を込められた棍棒が振り下ろされると、悲鳴と共にエルトネが吹き飛ばされ、場外に撃墜されていく様子が、離れていてもよく見えた。

 その姿はまるで人間ナムフではなく魔操種シガムのような恐ろしさがあり、リエティールはどこか冷たいものを感じると同時に、彼を倒さなければ先へは進めないだろうという確信を得るのであった。

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