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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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389.蕩ける美味しさ

「エイマさんって、普段はどんな風に活動されてるんですか?」


 大会の試合でのエイマの戦い方は、一般的な剣士等とは少し変わっていたと思い、リエティールはそう尋ねた。


「僕の職業はアサシンです。 主に大型の魔操種シガムの討伐を受けています。 護衛依頼を受けることもあります」


 攻撃の手が素早いことや、姿を隠すことが得意な様子から、リエティールもイップも大方見当がついていたため、エイマのその答えにはやはりと頷いた。


「護衛依頼っていうのは、商人とかの街道護衛とかっすか?」


 護衛依頼という言葉にイップが反応して尋ねる。彼のイメージはソレアがよく受注している護衛依頼だ。リエティールも同じくそのような光景を思い浮かべ、エイマが商人のフコアックに乗って周囲を警戒している様子を想像していた。


「時にはその類の依頼も受けますが、僕の場合は大抵街中での護衛依頼です。

 貴重品を持って移動する際や、やむを得ず夜間に外出しなければならない予定が入った方などの身辺護衛です。 傍についていると目立ち、注目されてしまい困るような方が主です」


 エイマがそう説明すると、リエティールは成程と頷いた。人混みや暗闇に紛れながら警戒する姿の方がエイマのイメージにはピタリとあてはまった。先ほどの試合で見事に選手達の中に姿を紛れ込ませたのも、そうした経験が普段からあり、想定して準備していたためなのであろう。

 一方のイップは、リエティールと同じように想像したのか、「なんか、かっこいいっす……!」と、どこか憧れるような眼差しをエイマに向けていた。


「……あ、そうっす! おいら、リーの話も聞きたいっすよ!

 さっきの口振りから考えるに、リーも大会に参加してるんっすよね? その試合っていつあるんっすか? おいらも応援に行きたいっす!」


 イップにそう聞かれ、リエティールはそういえば、とまだ話していなかったことに気が付く。


「明日の第二試合です」


 リエティールがそう答えると、イップは驚いて、それから安堵して息を吐いた。


「明日っすか!? はー、今日会えてよかったっす……。

 よし! なら今日はリーもしっかり食べてスタミナつけるっすよ! ほら、丁度料理も来たみたいっす!」


 イップが顔を向けた方にリエティール達も目を向けると、店員が料理を乗せたワゴンを押してこちらへ向かってくる姿が目に入った。


「お待たせしました! 厳選エルタック肉の甲羅窯焼きです! お熱くなっておりますので、お召し上がりの際は十分ご注意ください!」


 そう言い、店員は三人の前に次々に皿を並べていった。木の板に鉄板をはめ込んだ専用の皿の上では、全面綺麗に焼けたエルタックの肉がじゅうじゅうと音を立てており、つけあわせの野菜はそこに鮮やかな色を添え、同時に運ばれてきたパンも香ばしい香りを辺りに漂わせている。


「うわーうまそうっす! 早速いただくっす!」


 待ってましたとばかりに、イップは誰よりも早くそれに手を付けた。リエティールとエイマもそれに続いて、肉を切り分け口へと運ぶ。


「んー! うまいっす! これは疲れも吹き飛ぶっす!」


 イップは喜びを顔に目いっぱい浮かべ、耐えれないというようにそう言葉を漏らす。

 全方向から均一に火が通った肉は、旨味をしっかりと閉じ込めつつ、歯切れのいい柔らかさで噛みしめる度肉汁が溢れ出る。そこにかかっているソースも深みのある味わいで、肉そのものの味の邪魔をせずに引き立てている。

 リエティールもそのおいしさに感銘を受けて目を輝かせ、口の中を肉でいっぱいに満たしながらうんうんと頷きつつ、小さく切り分けたものをロエトにも与える。ロエトはそれを食べると、嬉しそうにリエティールの顔を見て「フルル!」と鳴いた。


「とても美味しいですね。 味も食感も素晴らしいです」


 エイマも、その口調は満足げで、丁寧に切り分けた肉をじっくりと噛みしめ、ゆっくり味わっていた。


「そうそう、それで続きっすけど、リーなら初戦はきっと順調に勝てるっすよ! なんたってエルトネになりたてでルボッグの群れを一人で相手にしたんっすからね!」


「っ!!?」


 思わぬタイミングで思わぬ話題を出され、リエティールは焦りで咽そうになったのをなんとか抑え込んで言った。


「あ、あれは、だから、私が倒したんじゃなくて、ヤーニッグが暴れて……」


 咄嗟に、当時ついたものと同じごまかしの嘘を口にする。ルボッグの群れを相手にできたのは魔法を使えたからであり、槍で大勢を相手にする戦いができたわけではない。イップに妙な期待を持たれていることに気が付いて、リエティールは慌てたのである。

 そんな彼女の気持ちは露知らず、イップは笑顔のまま続ける。


「はは! 兎に角リーなら心配ないっすよ!」


 美味しい肉を食べて上機嫌になったイップは、まるで酒でも飲んで酔っ払ったかのように、リエティールの言葉などまともに聞いていない様子であった。

 そんな彼の様子にリエティールはため息を一つ吐き、それからエイマに視線を向ける。その視線を受けたエイマは、自分はちゃんと聞いていたと言うように頷き、それを見てリエティールは安堵するのであった。

次回更新は諸事情により五日後となります。

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