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氷竜の娘  作者: 春風ハル
389/570

388.穴の数

 嬉しそうに顔を綻ばせていたイップであったが、次の瞬間には眉根を下げてどこか自信なさげにこう言った。


「エイマ選手は一人で何人も倒してたし、リーは霊獣使い(ロノアルト)になってるし……そう考えると、おいらはなんかぱっとしないっすね」


 その言葉に、エイマもリエティールもすぐさま反応した。先に口を開いたのはエイマであった。


「イップさんも初戦は勝ち抜きました。 僕と同じです。 そのように落ち込まれる必要はありません」


 エイマの言葉にうんうんと大きく頷き、リエティールも後に続く。


「そうです! イップさんだってあの大勢の中から勝ち残ったんです! 前にイップさんの戦いを見た時よりも、ずっと強くなってるって思いました!

 それに、私なんかまだ初戦を勝ち上がれるかもわからないし……ロエトを活躍させてあげられるかどうかも決まってないんですよ」


 イップを励ますつもりが、後半で何故か自身を卑下してしまい、リエティールは俯いた。ロエトが戸惑った様子で顔を覗き込んでいると、イップは向かいの席から立ち上がって腕を伸ばし、リエティールの頭にそっと手を置いた。

 リエティールが目を丸くして顔を上げると、イップは優しい笑みを浮かべながらこう言った。


「励ましてくれてありがとっす! リーなら大丈夫っすよ、絶対勝てるっす!」


 そう頭を撫でられ、励ますつもりが逆に励まされてしまったリエティールは、嬉しそうに、同時に恥ずかしそうに、不器用な笑顔を浮かべるのであった。


「そう言えば、今はイップさん一人なんですか? ソレアさんは一緒じゃないみたいですけど……」


 ふと、リエティールは首をかしげてそう尋ねた。

 イップと言えばいつもソレアと一緒にいる印象が強い。イップがこれだけ強くなっているのだから、今のソレアも以前よりずっと力をつけているに違いない。大会に参加していればそれなりの好成績を残せるだろう所であるが、その姿は見当たらないままである。

 今は単純に別行動をしてそばにいないだけか、ともリエティールは考えたが、それを否定するようにイップは残念そうに首を横に振って答えた。


「ソレアさんはいないっす。 勿論、誘いはしたんっすけど……ソレアさんは『堅実に依頼をこなす方が性に合ってる』って、クシルブに残ってるっす。 まあ、ソレアさんはクシルブじゃ依頼の合間に新人指導を買って出てたりもするっすから、そういう町のために、っていう気持ちもあったのかもしれないっすね」


 それを聞いて、リエティールも会えないことを悟り残念そうにする。


「でも、行けない代わりにって、おいらのことをいつも以上にめちゃくちゃ訓練してくれたっす! その甲斐あって攻撃の受け流しもほぼ完璧に仕上がって、身のこなしもばっちりっす! 前よりも体が軽くなって動きやすいっすし、ドライグでの評価もうなぎのぼりっす!」


 少し暗くなった場を和ませるためにか、イップは大げさなリアクションを取りながらそう言った。彼が腕を曲げると以前よりも立派になった力こぶが顔を見せ、彼の努力が窺えた。


「ドライグでの評価が上がったってことは……」


 リエティールが尋ねる言葉を言い切る前に、彼は頷いて懐からカードを取り出して見せた。光を受けてきらりと瞬くカードには、五つの穴が綺麗に並んでいた。初めてイップに会った時に聞いた数は三つであったため、その時から二つも評価が上がっていた。


「あとちょっとで六個も遠くないって、ドライグの人からのお墨付きも貰ってるんっすよ!」


 誇らしげに胸を張り、彼は自慢げにそう言った。それだけ、自分の努力が認めてもらえることが嬉しいのだろう。


「リーはどうっすか?」


 そう尋ねられ、リエティールも自らのカードを取り出した。


「お、三つっすか! リーも十分一人前って認められてるってことっすね!」


 カードに開いた三つの穴を見て、イップは嬉しそうにそう言った。リエティールはイップにとって最初の後輩である。そんな存在の成長を実際に知ることができて嬉しいのだろう。

 この三つ目の穴はつい先日開いたばかりだ。それまでの功績とこの町でコツコツこなした依頼の功績が合わさり、晴れて穴が開けられたのである。

 イップに笑顔を向けられ、リエティールも改めて成長を噛みしめつつ、エイマに顔を向けた。


「そう言えば、エイマさんはどれくらいなんですか?」


 行動を共にしていたが、聞く機会がなかったと思い、リエティールがそう尋ねると、これは一つ頷いてカードを取り出した。

 そこに空いていた穴の数を数えて、リエティールは驚き、イップもまた目を大きくして声を漏らした。


「七つ……」


 そう、エイマのカードの穴の数は七つであった。

 七つと言えば、とリエティールの脳裏に浮かんだのは大剣を軽々と振り回す怪力のデッガーである。豪胆で強気、それに見合うだけの実力で周囲から恐れられていたあのデッガーと同じであった。

 リエティールは思わずエイマの顔を見た。見つめられた彼は不思議そうに見つめ返し、


「どうかしましたか?」


と尋ねてきた。そう言われてリエティールは無意識に見つめていたことに気が付き慌てて目を泳がせた。


「あ、その……エイマさんが強いのは分かってましたけど、やっぱり、凄い人なんだって、なんだかびっくりしちゃって……」


「……っす。 エイマ選手と張り合うには、おいらはまだまだ鍛えないとダメっすね」


 リエティールの後にイップも続く。彼は自分とエイマの間にある大きな差を、数字という明白な形で表わされたことで驚いていた。

 一方のリエティールが驚いたのは、エイマとデッガーのイメージがあまりにも正反対すぎたためであったが、エイマはただそんな二人の反応を不思議そうに見ていた。

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