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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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385.痛快な強さ

 斃れた後、数秒経ってもピクリとも動かない石斧のエルトネは、気絶により戦闘不能と判断され脱落となった。

 それまではエイマと渡り合える人物として周囲に認識されていたエルトネであっただけあり、その呆気なさに他の選手達は恐れ戦いた。

 呆気ないとはいえ、実際にはその選手達が寄ってたかって攻撃をしたことで、精神も体力も削られていた状態でのことであった。それでも、エイマの一撃に依って倒れたという状況はあまりにもインパクトが強すぎるものであった。

 それからの試合展開と言うのは明らかなものであった。エイマ以外の選手達は、とにかく何とかしてエイマを排除しなければならなかった。反対にエイマは、いかに立ち回って生き残るかが条件であったが、やはり彼にはまだ余裕があった。

 近づく者には冷静に、計算された連撃を繰り出し仕留めていく。囲まれて動きづらくなることを察知すれば、一歩先に飛び上がり、先程したのと同じように頭上を踏み越えて手頃な場所に足を着く。時には倒した相手の武器を拾い上げ、頭上から投擲するというような技も見せ、観客を盛り上げた。敵しかいないという状況で勿論油断はできないが、戦い方に意図してバリエーションを持たせるような余裕が生まれていた。

 多対一の状況がずっと続くが、数が減れば減る程エイマの優勢が大きくなっていく。選手達は追い込まれながら、どうすれば勝てると焦る頭で考えた。

 頭上にいるエイマの足を掴めば転倒させることができるのではないかと考えた者が手を伸ばすが、その見え見えの作戦に当然エイマが近寄ることは無く、それを見ていた別の選手達は、頭上に武器を向けたまま機会を伺い、近づいてきたところでそこだと、武器を持つ腕と反対の手を伸ばした。そして掴もうとしたところで、エイマが先に出していた脚とは逆の脚を突き出し、落下の勢いに乗せて踏むように地面に向けて蹴り飛ばした。

 踏まれたエルトネは地面に仰向けに倒れ、反動でより高く飛び上がったエイマはその高度を利用して、体を上下反転させると落下する重力を剣に乗せ、目下のエルトネに向けて強力な一撃を食らわせた。


「たった一人に対して他の選手達は手も足も出ないっ! その小さな体格からは想像もつかない攻撃が次々と繰り出される! さながら猛獣のように他者に襲い掛かっていく!」


 司会も観客も、エイマの戦いぶりに興奮せざるを得ず、その一挙手一投足に目が離せないとう状態であった。先ほどブーイングを送ったような者達も、そのことを忘れてただ夢中になって歓声を上げていた。


「……私、大丈夫かな?」


 戦いの様子に周囲と同じように胸を高鳴らせながらも、ふと不安になってリエティールはそう呟いた。先のイップの戦いも、今目の前で繰り広げられているエイマの戦いも、どちらも圧倒的で素晴らしいものであった。それを思うと、自分は勝ち残れるのかと急に心配になってきたのである。

 そんな彼女に対してロエトはすかさずこう言った。


『何を言う。 リーは強い。 あの恐ろしい魔操種シガムもも、天竜イクス・ノガード様にも勝ったのだ。 それに一人でいる時も海竜リム・ノガード様に勝てたのだろう。 怖気づく必要はない』


 ロエトにとってリエティールと言う存在は、自分が実力を認めた偉大なる主人である。そんな人物がそう簡単に負けてたまるものか、という意地のようなものがあった。

 人目を気にせず魔法が使えない、という制限はあるものの、ロエトの励ましはリエティールを勇気づけることに成功し、リエティールは小さく笑って「ありがとう」と感謝するのであった。


 その間にも戦局は進み、気が付けば残りの選手もかなり減っていた。エイマが直接倒した者もあれば、攻撃の余波で舞台外に弾き飛ばされた者、焦るあまり気が付かず自ら外に飛び出してしまった者、混乱の中で他のエルトネと攻撃しあって倒れた者等、様々な要因で脱落者が次々に出ていた。

 残った選手達ももはや満身創痍と言う状態で、立ってエイマの方を見ているのがやっとの様子であった。ただ一つ、ここまでの壮絶な戦いを経験してきたことで、もはやエイマに対する恐怖は消えていた。激しく息を荒げながらも身を震わせることは無く、一人一人がエイマをじっと見ていた。

 エイマの方も流石に戦いの時間が長く、息を整え切れずに僅かに荒げていたが、それでも余裕のある構えを取り、一人一人を丁寧に観察していた。

 そして、


「──二人、そして……一人っ! 最後の一人ですっ!」


という司会の声と共に、エイマはこの場にいる観客全員の、そして外で司会を聞いていたそれ以外の人々の歓声をも一身に受けた。


「大武闘会、初日第四試合、本日最後の勝者は……エイマ選手っ!!」


 司会の宣言が高らかに響くと、勝利を祝福する拍手が闘技場内を満たす。

 その中心で、エイマは無表情のまま、しかしどこか嬉しそうに、満足げに目を細めて空を仰ぐのであった。

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